インタビュー
2022.05.20

横山幸雄が語る「パガニーニの主題による狂詩曲」~広上&日本フィルと27年ぶりの共演!

長井進之介
長井進之介 ピアニスト/音楽ライター

国立音楽大学演奏学科鍵盤楽器専修(ピアノ)卒業、同大学大学院修士課程器楽専攻(伴奏)修了を経て、同大学院博士後期課程音楽学領域単位取得。在学中、カールスルーエ音楽大学...

©アールアンフィニ

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日本のクラシック音楽シーンを牽引し続けるピアニストの横山幸雄。楽曲の本質を浮き彫りにする技術や構築力に加え、他の追随を許さない意欲的な企画は常に聴衆に驚きと感動を与えてきた。そんな彼が広上淳一率いる日本フィルハーモニー交響楽団(以下、日本フィル)との共演でラフマニノフの「パガニーニの主題による狂詩曲」を演奏する。実はこの共演で同曲を演奏するのは久しぶりだという。

横山 はじめてこの曲を演奏したのは1995年の日本フィルの九州ツアーで、広上さんの指揮だったのです。色々な演奏機会をいただき、そのどれもが新曲ばかりという中での演奏で、とにかく必死に取り組んだ思い出の曲です。あの時から27年が経ち、また久しぶりに広上さんの指揮で日本フィルとこの曲を演奏できるのはとても嬉しいですね。

“パガニーニ”がラフマニノフ晩年の傑作である理由

ラフマニノフのピアノ協奏曲はどれも名作であり人気も高いが、中でも今回演奏する「パガニーニの主題による狂詩曲」について、横山自身はどのように作品を捉えているのだろうか。

横山 ラフマニノフのロマンティックな部分をじっくりと味わえるのは第2番、より重みのあるロマンティシズムに圧倒的ヴィルトゥオジティが加わったのは第3番ですね。そして“パガニーニ”は、もちろん技術的にも音楽的にもかなり凝った作品ですが、一番色々なものがそぎ落とされているという印象があります。形式が変奏曲ということもあって古典的なスタイルで書かれていますし、ラフマニノフのロマン派への回顧も感じさせます。でもしっかりとモダンなところもありますし、また展開の速さも魅力です。晩年の傑作ですね。

ラフマニノフのピアノ協奏曲はオーケストラとのやりとりの密度が高い。その点ではどのような印象をもっているのだろう。

横山 第2番は、大まかに言えばピアノ独奏にオーケストラが合わせていただくような感じで、第3番はかなりピアノを含めた交響曲というイメージがあります。ものすごく音が多いので大変なのですが、ピアノ独奏がオーケストラに寄り添って弾いていかなくてはなりません。そして“パガニーニ”は、オーケストラとの掛け合いがとても多く、コミュニケーションが最も求められる作品です。一人で練習していると歯抜けになってしまうので音楽が完成せず、練習しづらいところもあります。オーケストラと合わせてようやく完成品としてできあがるので、その分合わせたときの喜びが大きい。またどの協奏曲にも共通しているのはやはりロマンティックな魅力ですね。“パガニーニ”については特に第18変奏にそれが集約しています。

日本フィルとは小学生(!)の頃からのお付き合い

今回のプログラムでの演奏は久しぶりとなるが、横山は指揮の広上、オーケストラの日本フィルハーモニー交響楽団とは共演の機会自体は多い。それぞれの魅力を尋ねた。

横山 広上さんはとてもアクティブな人ですね。指揮にもそれが表れていて、とてもアクションが多く、共演させていただくときはいつもエキサイティングで楽しいです。またリハーサルでは毎回必ずといっていいほどピアニカを取り出して演奏されるなど、気持ちをほぐしてくださるところも素敵です。日本フィルは実は私が小学生のころからお付き合いがあるのです。当然メンバーはどんどん入れ替わっていて、特にここ10年でかなり若いメンバーが増えたのですが、一貫して元気がよくアットホームな雰囲気があります。フレッシュさもありながら、伝統を感じさせる音色も聞こえてくる、多彩な魅力を持つオーケストラです。

日本フィルとは小学生の時から共演機会があったというが、どのようなものだったのだろうか。

横山 ヤマハの演奏会だったのですが、私の自作曲などを渡邉暁雄先生の指揮で演奏させていただくという、今考えると恐ろしいことを楽しくやらせていただいていました。その時の経験は、オーケストラとの演奏や指揮棒への馴染み深さなど、多くの糧となっています。とはいえ、オーケストラとの共演というのは毎回発見です。同じオーケストラでも、楽器の配置や演奏するホールなどで聞こえてくる音はまったく違ってきますから。

デビュー30周年は折り返し地点にすぎない

今回はサントリーホールでの演奏となるが、ここでの協奏曲の演奏の印象についても尋ねた。

横山 日本でも随一のホールで、格式も高いところです。素晴らしい巨匠の演奏をたくさん聴きに行きましたし、私のデビューコンサートもこのホールでした。最も緊張するホールで、アークヒルズの前を通るだけでも緊張するくらいなのです(笑)。

いつも落ち着いた佇まいで圧倒的な演奏を聴かせてくれる横山からとは思えない言葉が飛び出したが、そんな彼は昨年デビュー30周年を迎えた。一つの節目ともいえるタイミングだと思うが、何か心境や状況の変化などはあったのだろうか。

横山 全くないのです(笑)。というよりも、毎日“気持ち新たに”という感じなので、30年はあくまでも折り返し地点だと考えています。今はこれまでやってきたことの質をさらに上げていきたいという想いです。

常に新鮮な感動を与えてくれる横山が久しぶりの共演者とのタッグで奏でるラフマニノフの「パガニーニの主題による狂詩曲」は、また聴き手に新たな発見を与えてくれることであろう。

日本フィルハーモニー交響楽団

第396回名曲コンサート

日時:2022年6月12日(日)14:00開演

会場:サントリーホール

出演:広上淳一(指揮)、横山幸雄(ピアノ)

曲目:ラフマニノフ「パガニーニの主題による狂詩曲op.43」、ショスタコーヴィチ「交響曲第5番 ニ短調 Op.47」

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長井進之介
長井進之介 ピアニスト/音楽ライター

国立音楽大学演奏学科鍵盤楽器専修(ピアノ)卒業、同大学大学院修士課程器楽専攻(伴奏)修了を経て、同大学院博士後期課程音楽学領域単位取得。在学中、カールスルーエ音楽大学...

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