俳優・中谷美紀が語るオペラの魅力「超人的な歌声の競演、人間の本質を描く」
東京・神楽坂にある音楽之友社を拠点に、Webマガジン「ONTOMO」の企画・取材・編集をしています。「音楽っていいなぁ、を毎日に。」を掲げ、やさしく・ふかく・おもしろ...
この10月にウィーン国立歌劇場の日本公演が開催、その公式アンバサダーに俳優の中谷美紀さんが就任し、都内のホテルで記者会見が行なわれました。
ウィーン国立歌劇場は、音楽ファンが憧れる世界でもっとも重要な歌劇場の一つ。1980年からこれまでに10回来日し、今回は9年ぶりの日本公演となります。
指揮者や歌手、合唱、オーケストラ、舞台スタッフなど総勢340名、舞台装置や衣装が11トンのトラックで約40台分、経済規模で15億円程度にも上るというたいへん大掛かりな引っ越し公演です。
ウィーン国立歌劇場の魅力について中谷さんは、「まず(私の夫も所属する)ウィーン・フィルを、たいへん贅沢なことにオペラの伴奏として聴けること」といいます。
今回上演されるのは、モーツァルト「フィガロの結婚」と、R・シュトラウス「ばらの騎士」という、もっともウィーンらしい2演目。
この2作品の台本を読んだという中谷さん。まず、2023年に新制作された「フィガロの結婚」については、今回アルマヴィーヴァ伯爵を演じるソプラノ歌手のミュラーさんが友人だそうで、彼女に誘われてウィーンで3月に鑑賞したそう。
「現代的な演出で、衣装もカラフル。近年のオペラ歌手の方々は演技力がたいへん優れていらっしゃる方が多くて、ほんとうに繊細なお芝居をされます。まず繊細なお芝居からなる心情表現を大切にされて、それが歌声にも反映される。ドラマのうねり、緩急がこちらにまでひしひしと伝わります」
もう1つの「ばらの騎士」については、年下の青年伯爵オクタヴィアンを愛し、いずれ彼が若い恋人のもとに去るだろうと予感している元帥夫人マリー・テレーズ役について、「自らの老いを憂い、また老いをどこかで受容しなくてはならないという葛藤を抱えている」と表現。
「私もあと1年もせずに50代を迎えます。個人的にはとても嬉しいのですが、人によって老いは大きな転機になり、心にモヤモヤしたものを抱えていらっしゃる方も多いことと思います。とても美しい最後の三重唱で、若い伯爵が若い女性ゾフィーとの恋を選ぶ。元帥夫人は失った恋人の幸せを願うとともに、時代が移り変わることへの諦めや受容といったものも感じられます」
2つとも100年から200年も前の作品でありながら、今に生きる人たちにとってもどこかリアル。「家庭を顧みない男性にガツンと鉄槌をくらわせるストーリーはとても楽しくて、女性にしてみればスカッとすると思いますし、もしかしたら倦怠期のご夫婦が見に来られてよりを戻すきっかけになる、というようなことがあるかもしれません。あるいは年を重ねた女性が若い男性から恋心を告げられるようなことも、実人生にかわって舞台上で心がときめくような演出になっていました」。
「今回の2作品はまるで対になったような作品で、男女のいざこざをばかばかしく面白おかしく描いていながら、人間の本質がありありと描かれていて、思わずハッとさせられます。自らを省みる機会になり、時には涙させられることが多いです。何よりもオペラが伝えていることの1つとして、人間はいつになっても同じようなことをしているなと。そんな人間の愚かさを嘆き、慈しみ受け入れ、最後はなんだか知らないけれど笑って帰るのです」。
今回の公演では嬉しいことに、U29シート、U39シートという若年層のための廉価なチケットも用意されています。
オペラが初めてという人に向けて中谷さんは、「2作品ともとてもわかりやすくて、お笑い番組と宝塚歌劇とミュージカルを同時に見られるような、それでいてストレートプレイの心理の機微もきちんと見せてくれる、そんな贅沢な企画だと思います。オペラはまず音楽が素晴らしい。私は『勝敗のないオリンピック』と呼んでいますが、オペラ歌手の超人的な歌声は、人間の極限ですよね。それがいつAIにとってかわられるか分からないと思うと儚い。歌手生命をかけて舞台に立っている方々の声をぜひ今のうちに聴いていただきたい」
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