プレイリスト
2018.07.18
7月特集「アウトドア」低山の部!

自然賛歌を聴きにいきたくなる、電車で行ける300m級の低山3選

「自然」を描いた音楽はたくさんある。室内で聴きながら田園や山の風景を想像するのも楽しいけれど、実際に自然の中で聴く音楽は格別だろう。音楽ライターの飯尾洋一さんが訪れた電車で行ける低山の中から、選りすぐった3つの山と、その山に合う音楽をともに紹介。

ナビゲーター
飯尾洋一
ナビゲーター
飯尾洋一 音楽ライター・編集者

音楽ジャーナリスト。都内在住。著書に『はじめてのクラシック マンガで教養』[監修・執筆](朝日新聞出版)、『クラシック音楽のトリセツ』(SB新書)、『R40のクラシッ...

写真:飯尾洋一

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山をリアルに感じながら聴く自然賛歌

自然をこよなく愛したベートーヴェンは、しばしばウィーン郊外の散歩道を歩きながら、楽想を練ったという。ベートーヴェンにとってのハイリゲンシュタット、ブラームスにとってのペルチャッハ、リヒャルト・シュトラウスにとってのガルミッシュ=パルテンキルヒェン、シベリウスにとってのアイノラ荘等々、豊かな自然が作曲家たちのインスピレーションを刺激した例は枚挙にいとまがない。

そう、自然だ。山だ。緑のなかで《田園交響曲》のような自然賛歌の名曲を聴けば、一段と感動を深められるのではないか。

あいにく東京の都心部から山は遠いのだが、幸いにして交通機関は発達している。そこで、都内から電車で行ける気軽なハイキングコースをいくつか挙げてみたい。東京のハイキングといえばまっさきに高尾山が思い浮かぶが、そちらはあまりに人気の高さゆえに人口密度が高く、賑やかすぎるということで、もっと静かなコースを選んでみた。いずれも高低差がわずかで、まったくの初心者が体力的に無理なく登れる手軽な低山ハイキングでありながら、公園などでは味わえない山歩きの気分を楽しめる。お弁当とお気に入りの音源を持参して、大人の遠足を楽しんでみてはどうだろうか。

1) 日和田山で聴くシャブリエ

地元小学生たちの遠足コースにもなっている日和田山。標高は305メートル。西武池袋線高麗駅から登って武蔵横手駅に下りるコースをたどれば、正味の歩行時間は3時間前後だろうか(ほかに休憩時間が必要。以下の山も同様)。気持ちよく静かな山道が続き、見晴らしもよい。五常の滝もあり、短いルートながらイベント性はまずまず。ただし最後にしばらく車道を歩く。

曲はシャブリエの《田園組曲》あたりでどうか。第1曲《牧歌》の穏やかでひなびたムードが似合いそう。

高麗駅で待ち構えるトーテムポール。異世界観満載だ。
頂上からの眺め。写真以上の爽快感がある。

2))天覧山~多峯主山で聴くベートーヴェン

標高197メートルの天覧山と271メートルの多峯主山(とうのすやま)を続けて歩くという定番のハイキングコース。西武池袋線の飯能駅から登れる。飯能駅は大きな駅でまったく都会の雰囲気なのだが、駅からしばらく歩いて市街地を抜けてハイキングコースに入ると、一気に山の雰囲気になる。こちらも正味は3時間前後のコース。それなりに上り下りはあっても、歩きやすく、自然散策を満喫できる。むしろ駅からハイキングコースまでの車道がやや歩きにくいか。

市街地から山へと向かって「田舎に着いたときの愉快な気分」を体験するということで、曲はベートーヴェンの交響曲第6番《田園》がぴったり。

なにもない山道を歩く。気分は最高だ。
忽然とあらわれる謎の池。

3)弁天山で聴くオネゲル

標高330メートルの低山、しかも出発地点のJR五日市線の武蔵五日市駅からの標高差は140メートルしかない。一部、急な階段あり。武蔵五日市駅から都立小峰公園を通って、弁天山に登り、武蔵増戸駅へと下るコースで正味2時間半ほど。いかにも里山といったのどかな山道を楽しめる。山頂は狭いが見晴らしはいい。橋から眺める秋川の景色も吉。

曲はオネゲルの交響詩《夏の牧歌》が合いそうだ。陰影に富み、色彩感豊かな曲調が、短いながらも変化に富んだハイキングコースにふさわしい。

山頂は狭いが眺めは意外によい。
帰り道で眺める秋川の景色に癒される。
!! CAUTION !!

最後にいくつか大切な注意事項を。いずれのルートも気軽なハイキングコースではあるが、そうはいっても山は山である。山歩きにふさわしい服装が必要だ。また、いったん山に入れば、電気もなければ水道もない。万一、日が暮れたりしたら真っ暗闇のなかに取り残されることになるのだから、十分な休憩時間を見込んで、余裕を持った計画を立てたい。事前にガイドブックや地図などでルートはしっかり頭に入れておく。いくら低山でも、決まったルート上から外れてしまったら、遭難しかねない。もし迷ったら、勝手な思い込みで先に進まず、来た道を戻る。自然が美しいのは、それが本質的に危険だから。慎重すぎるくらいでちょうどいい。また、気候も気をつけたい。暑くもなく、寒くもない時期がベストだ。

文中にいくつか曲を挙げているが、もちろん、これは休憩中に聴くイメージだ。歩くときはしっかりと耳を開いておこう。

ナビゲーター
飯尾洋一
ナビゲーター
飯尾洋一 音楽ライター・編集者

音楽ジャーナリスト。都内在住。著書に『はじめてのクラシック マンガで教養』[監修・執筆](朝日新聞出版)、『クラシック音楽のトリセツ』(SB新書)、『R40のクラシッ...

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