レポート
2020.11.16
11日間を無事に乗り切る!

ウィーン・フィルが日本ツアーを終え、記者会見でニューイヤーコンサートにも言及

今年いちばんの関心事になったと言っても過言ではない。来日することが奇跡とも言える状況で開催された「ウィーン・フィルハーモニー ウィーク イン ジャパン 2020」は、11月14日の記者会見で幕を閉じた。記者会見と公演の模様を、音楽ジャーナリストの林田直樹さんがレポートする。

取材・文
林田直樹
取材・文
林田直樹 ONTOMOエディトリアル・アドバイザー/音楽ジャーナリスト・評論家

1963年埼玉県生まれ。慶應義塾大学文学部を卒業、音楽之友社で楽譜・書籍・月刊誌「音楽の友」「レコード芸術」の編集を経て独立。オペラ、バレエから現代音楽やクロスオーバ...

写真提供:サントリーホール

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8回のコンサートを振り返って

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の来日最終公演後の11月14日(土)の18時半より、サントリーホール、ブルーローズにて記者会見があり、「ウィーン・フィルハーモニー ウィーク・イン・ジャパン2020」を無事に終えることができた報告がおこなわれた。

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「音楽的に大変すばらしいツアーをすることができました。特に、昨日(13日のマチネ)に青少年のためのコンサートをおこない、収録することができ、後ほど日本各地の子どもたちにもオンラインで観てもらえることをとてもうれしく思っています。いま世界中でいろんな音楽家の人たちが演奏できない状況が続いていますが、そういう人たちのためにも、私たちは代表してコンサートができたと思っています」(ダニエル・フロシャウアー ウィーン・フィル楽団長)

ウィーン・フィルの楽団長、ダニエル・フロシャウアー(左)と、事務局長のミヒャエル・ブラーデラー。

「すべての夏の音楽祭がキャンセルされているなかで開催できたザルツブルク音楽祭の最終日の翌日、8月31日に私たちはオーストリア外務省に行って報告をし、また、中国と韓国と日本の在オーストリア大使たちと次のツアーについての話し合いをしました。中国と韓国ではツアーできない、日本だけが実現できるということでしたが、奇跡は実際に起こり、8回もコンサートをおこなうことができたのです」(ミヒャエル・ブラーデラー ウィーン・フィル事務局長)

招聘したサントリーホールの言葉より

「マエストロ・ゲルギエフ、そしてメンバーの方々には大変不自由な時を過ごしていただいたにもかかわらず、お客さまが毎回大変感動する素晴らしい演奏をしてくださったことお礼を申し上げたい。(チェリストとして)私にとりましても本当に夢のような数日間でした。ウィーン・フィルの皆さまに温かく迎えていただき、本当にうれしかったです。ゲルギエフとのコラボレーションは私にとって一生の宝です」(堤剛・サントリーホール館長)

指揮者はロシア出身のワレリー・ゲルギエフ。
サントリーホール館長で、今回のツアーでソリストとして出演したチェロ奏者の堤剛。チャイコフスキーの「ロココ風の主題による変奏曲 イ長調 作品33」を演奏した。

「開催の決定が10月30日と直前だったにもかかわらず、他都市の公演主催者にもぎりぎりまで辛抱強く待っていただき、何よりもお客さまが開催への期待を持ち、待ち続けてくださったことが、私たちの大きな力になりました。今回の公演が、多くの方に、困難の中でも前に進む勇気や希望をお伝えできていたら、本当にうれしいですし、そうであったと信じております」(折井雅子・サントリーホール総支配人)

サントリーホール総支配人の折井雅子(左)。

今回の質疑でいくつか明らかになった事実を挙げておこう。

今回の内部事情とニューイヤーコンサートに向けて
  • 来日直前の検査の結果、ヴィオラ奏者に1名陽性者が出た。歌劇場のピット内における周囲のヴィオラ奏者5名を濃厚接触者として合計6名をツアーから外し、ヴァイオリン奏者2名がヴィオラに回り、ヴィオラ・セクションが3名少ない状況で来日した。楽団としてはヴィオラが弱いという印象はなかった。
  • 11月2日夜のウィーンでのテロ事件の際は、次の日に出発するメンバーは隔離状態にありホテルの中にいた。どの国よりも厳しい、独自の感染対策のもと全員が完全に陰性であるために、そのような状態だった。
  • 来日中は、厳しい行動制限で、ホールと宿泊施設以外の外出は許されなかった。ウィーン・フィル全員の感染防止への意志が非常に強く、不満や不自由の声ひとつなく、行動自粛を徹底。サントリーホール側はメンバーが少しでもストレスなく過ごせるよう、弁当などの食べ物を用意した。
  • 元日恒例のウィーン・フィルのニューイヤーコンサートは、1700名の観客全員に検査をおこなってでも(関係当局の指示や法律的な問題はあるかもしれないが)、楽団としては100%やるつもりでいる。

徹底した検査により全員が陰性であることを前提としたうえで、舞台上で通常どおりの密な配置で演奏することは、彼らが本来のクオリティを発揮するうえでも譲れない一線であることは、来日直後の記者会見でも明らかにされたが、実際のコンサートに足を運んでの印象は、それを裏付けるものだった。

たとえ大編成のストラヴィンスキーであっても、彼らウィーン・フィルの本領は「大きな室内楽」であろうとすることにある。お互いが耳を傾けあいながらアンサンブルを作っていく。そんな演奏だからこそ、コンサートにやってきた人々も、いっそう注意深く耳を傾け、静かな秩序を保ち、演奏者とホールと共に、音楽の一部分になっていた。

こうした時期だからこそ、ライブであることのかけがえのない真価がはっきりと表れたし、海外からやってくる音楽家たちと心の交流が持てることの素晴らしさを、改めてかみしめることのできる来日公演であった。

今回のウィーン・フィルを特例中の特例で終わらせてはならない。

この光明を、どうやって次につなげ、広げていくかは、音楽界のみならず社会全体にとっての大きな課題でもある。

ツアーのプログラムにあったストラヴィンスキーのバレエ音楽《火の鳥》は、初演時と同じく大規模編成の「1910年版」で演奏され、会場全体を鳴らし切った。
取材・文
林田直樹
取材・文
林田直樹 ONTOMOエディトリアル・アドバイザー/音楽ジャーナリスト・評論家

1963年埼玉県生まれ。慶應義塾大学文学部を卒業、音楽之友社で楽譜・書籍・月刊誌「音楽の友」「レコード芸術」の編集を経て独立。オペラ、バレエから現代音楽やクロスオーバ...

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