
ウィーン国立歌劇場で36年ぶりに《ルイザ・ミラー》新演出 新たな光をあてる幻想的舞台

2月中旬から3月初旬のオーストリアの音楽シーンから、オペラのレポートをお届けします。

オーストリア在住のチェリスト・文筆家。「平野玲音の演奏は、ピュアで豊かな音楽性によりウィーンの香りを客席まで運んでくれる。これはテクニック重視の現代の音楽界にあって大...

1941年12月創刊。音楽之友社の看板雑誌「音楽の友」を毎月刊行しています。“音楽の深層を知り、音楽家の本音を聞く”がモットー。今月号のコンテンツはこちらバックナンバ...
2~3月にウィーン国立歌劇場で、この劇場では36年ぶりとなるヴェルディ《ルイザ・ミラー》が上演された。2月7日のプレミエではフィリップ・グリゴリアンの演出・舞台に猛烈なブーイングが飛んだそうだが、極力先入観をもたずに、2回目の2月16日の公演を観た。
舞台の端に現在のウィーンのバス停が立ち、そこでミラーが娘ルイザの悲惨な死を思い出す。背後にあった透明な幕が上がるとルイザの葬儀のシーンに変わり、やがて墓から(ルイザの魂なのであろう)白い衣裳のバレリーナが現れて踊り出す……。
原作にはない、序曲の間の新たな趣向は、ミケーレ・マリオッティ指揮ウィーン国立歌劇場管弦楽団のドラマティックな名演と合い、踊りもアダン《ジゼル》のように幻想的だったため、悪くないと感じられた。
本演出の第1幕「愛」および第2幕「陰謀」は、ミラーの記憶の中に広がる過去なので、いわば悪夢を見ているように、あちらこちらが誇張されている。
元の設定である「17世紀前半のチロルの村」は、ミラーとルイザが働いている現代の工場内になり、ヴァルター伯爵とその息子ロドルフォはこの背景には似合わないものものしい甲冑姿。愛するルイザに裏切られたと思い込み、毒を使って心中するロドルフォの大人げなさを描いたのだろう、テノールの有名なアリア〈穏やかな夜には〉は、あろうことか坊ちゃんふうの白い寝間着でテディベアと向かい合って歌われる。
現代的な振付けがヴェルディの音楽と合わない部分や、漫画チックに見えてしまって白けた部分もあったものの、第3幕「毒」になると舞台美術が幻想的になり、細部を忘れて感動できた。冒頭のバス停(ミラーとルイザが再出発を約束した場)の傍らに、死を暗示する紫がかったピンク色の森に向かう停留所が現れて、恋人たちはそこで心中、ミラーは現世のバス停でうなされているように歌で加わる。
ミラー(ジョルジュ・ペテアン)の歌唱がすばらしいため、彼の出番が際立ったのは良かったし、第3幕でのルイザ(ナディーン・シエラ)も見事で涙を誘った。そのほかの配役は、ロベルト・タリアヴィーニ(ヴァルター伯爵)、フレディ・デ・トマーゾ(ロドルフォ)、マルコ・ミミカ(ヴルム)ら。全体的に――世界的に名高い歌劇場がその程度では悲しいのだが――近年観てきた新演出と比べると、オペラに新たな光を当てようとする意図が伝わるプロダクションだった。
アン・デア・ウィーン劇場で サリエリの師ガスマンの《オペラ・セリア》

3月7日にアン・デア・ウィーン劇場で、ガスマン《オペラ・セリア》を取材した(上演期間は2月28日~3月11日)。1763年にウィーンの宮廷に招かれて、1772年に宮廷楽長に任命されたフロリアン・レオポルト・ガスマンは、1766年にイタリアでサリエリを発掘し、後年サリエリがその役職を継ぐことになる。
《オペラ・セリア》は1769年に、ミヒャエル広場にあった当時のブルク劇場にて初演された作。モーツァルトのオペラに似た部分も多く、「それ以前」の様子がわかる興味深い催しだった。
《オペラ・セリア》は、タイトルとはうらはらにオペラ・セリアを皮肉った、全3幕の「コメディア・ペル・ムジカ」(オペラ・ブッファ)である。ロラン・ペリーの天才的な演出・衣裳が魅力を引き立て、オペラでは珍しいほど、観客席に笑いが絶えない。休憩を2回挟んで3時間半かかったが、架空のオペラ・セリア(劇中劇)が上演されて散々な結末となる第3幕の盛り上がりがすばらしく、あっという間に幕切れとなった。
出演は、ピエトロ・スパニョーリ(ファッリート)、ペトル・ネコラネツ(ソスピーロ)、ジョシュ・ロヴェル(リトルネッロ)、ジュリー・フックス(ストナトリッラ)、アンドレア・キャロル(ズモルフィオーザ)、セレーナ・ガンベローニ(ポルポリーナ)、クリストフ・ルセ指揮レ・タラン・リリクほか。ミラノ・スカラ座との共同制作とのことで、ひじょうに洗練されていた。





関連する記事
ランキング
- Daily
- Monthly
関連する記事
ランキング
- Daily
- Monthly
新着記事Latest














