レポート
2025.12.30
佐渡 裕、レナード・スラットキン、ジョナサン・ノットが指揮

「第九」2025 聴き比べ!Vol.3~新日本フィル×N響×東響

年末の定番であるからこそ、オーケストラのカラーが出る「第九」。今年も各オーケストラ、こだわりの布陣と構成となりました。ここでは3楽団を聴き比べ! 新日本フィルは音楽監督・佐渡 裕を、N響は40年以上の共演歴があるレナード・スラットキンを、東響は音楽監督として最後となるジョナサン・ノットをそれぞれ指揮に迎えた「第九」公演をレポートします。

取材・文
山田治生
取材・文
山田治生 音楽評論家

1964年京都市生まれ。1987年、慶應義塾大学経済学部卒業。1990年から音楽に関する執筆活動を行う。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人 -ある日本人指揮者の...

音楽の友 編集部
音楽の友 編集部 月刊誌

1941年12月創刊。音楽之友社の看板雑誌「音楽の友」を毎月刊行しています。“音楽の深層を知り、音楽家の本音を聞く”がモットー。今月号のコンテンツはこちらバックナンバ...

東京交響楽団の「第九」(12月29日・サントリーホール)©平舘平/TSO

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じっくりとスケールの大きな音楽を作り上げる~新日本フィルハーモニー交響楽団

新日本フィルの「第九」では、音楽監督・佐渡 裕が指揮を執った。佐渡はじっくりと大作を描いていく。第1楽章から第2ヴァイオリンやヴィオラなど内声を聴かせ、全体を煽ったりすることはないが、十分にドラマティックな演奏を繰り広げる。第2楽章も慌てず、よいテンポ。ティンパニの硬めのバチでの強打が印象的。第3楽章は、ゆっくりと表情豊かに歌う。清らかさと温かさを持ち合わせる

指揮の佐渡 裕 ©TERASHI Masahiko

第4楽章、バリトンのグスターボ・カスティーリョは、声量を活かし、会衆に呼びかけるように歌い始める。佐渡は、歓喜の主題の合唱で喜びをはじけさせる。栗友会合唱団が好演。シンバルなど打楽器が鮮やかに入る。最後のマエスト―ソでは、テンポを落とし、パワー全開。佐渡は、楽曲が手の内に入っていて、スケールの大きな音楽を作り上げた。首席奏者の揃った新日本フィルも安定感があった。

公演データ

日時:12月18日(木)

会場:すみだトリフォニーホール 大ホール

出演:

指揮:佐渡 裕

ソプラノ:ハイディ・ストーバー

メゾ・ソプラノ:清水華澄

テノール:リッカルド・デッラ・シュッカ

バリトン:グスターボ・カスティーリョ

合唱:栗友会合唱団

合唱指揮:栗山文昭

朗読:土肥陽子

新日本フィルハーモニー交響楽団

曲目:

イラストとお話で綴る「第九ものがたり」

ベートーヴェン:交響曲第9番ニ短調『合唱付き』op.125

説得力ある往年のスタイル~NHK交響楽団

今年のNHK交響楽団の「第九」は、レナード・スラットキン。N響との共演は、1984年以来、40年以上にもわたる。

スラットキンは16型のオーケストラを十分に鳴らし、弦楽器はしっかりと音を延ばす。古楽の影響を受けた今どきの「第九」とは違う、往年のスタイル。第1楽章の最後で、昔慣習的に入れられていた一瞬のパウゼを採用。第2楽章ではトリオの温かみが印象的。繰り返しで、主部の冒頭8小節がカットされたのには驚いた。第3楽章ではフレージングに細心の注意が払われている。N響の弦楽器がひじょうに美しい。

指揮のレナード・スラットキン(写真提供:NHK交響楽団)

第4楽章でも、勢いに任せず、巧みに設定して、大きな流れのドラマを作り上げる。独唱陣では代役で加わった砂田愛梨がよく届く声でN響デビューを飾った。二重フーガは快速テンポ。そして最後のマエスト―ソではゆっくりと堂々たるffを聴かせた。演奏スタイルはトレンドに左右されない独自のものであったが、その内容はひじょうに説得力があった。さすがスラットキンである。

ソリストたち:(左から)ソプラノの砂田愛梨、メゾ・ソプラノの藤村実穂子、テノールの福井 敬、バリトの甲斐栄次郎(写真提供:NHK交響楽団)
公演データ

日時:12月20日(土)

会場:NHKホール

出演

指揮:レナード・スラットキン

ソプラノ:砂田愛梨

メゾ・ソプラノ:藤村実穂子

テノール:福井 敬

バリトン:甲斐栄次郎

合唱:新国立劇場合唱団

NHK交響楽団

曲目

ベートーヴェン:交響曲第9番ニ短調『合唱付き』op.125

ノットと育まれた自発性が全面に~東京交響楽団

ジョナサン・ノットは、2019年から毎年、東京交響楽団の「第九」を振ってきたが、東響音楽監督としてはこの日が最後の「第九」となった。今年は、対向配置の弦楽器が8、8、6、5、4という小振りな編成。最後の最後までルーティンの演奏はない。

第1楽章冒頭、弦楽器が積極的に開放弦を使い、ヴィブラートも控え目。オーケストラの響きはソリッド。速めのテンポだが、即興を思わせるテンポの揺れがある。強くて深い強音も聴かれる。第2楽章も決して杓子定規なテンポではなく、自在な伸縮がある。第3楽章もテンポは速めで、ヴィブラートは控えめ。音が澄んでいて、淡い夢を思わせる。ノットと東響との懐かしい思い出のよう。

指揮のジョナサン・ノット ©平舘平/TSO

第4楽章の低弦楽器による歓喜の主題の提示はシンプルで自然。東響コーラスや独唱陣も等身大の歌唱。二重フーガは、じっくりと味わって、美しく歌われる。そして最後のマエストーソは快速で突き抜ける。全曲を通して、ノット&東響の多年にわたる共同作業で育まれたオーケストラの自発性や小振りな編成ゆえの一人ひとりの主張を感じることができた。

アンコールに東響の「第九」公演恒例の「蛍の光」が演奏された。一年の締め括りという意味で演奏される恒例の「蛍の光」であるが、今年は、ノットと東響との「ふみ読む月日」を思い出して、心に沁みた。鳴りやまない拍手喝采、そしてスタンディング・オベーション。

アンコールの「蛍の光」はノットと東響との歳月を思い出させた ©平舘平/TSO
公演データ

日時:12月29日(月)

会場:サントリーホール

出演

指揮:ジョナサン・ノット

ソプラノ:盛田麻央

メゾソプラノ:杉山由紀

テノール:村上公太

バスバリトン:河野鉄平

合唱:東響コーラス(合唱指揮:三澤洋史)

東京交響楽団

曲目

ベートーヴェン:交響曲第9番ニ短調『合唱付き』op.125

取材・文
山田治生
取材・文
山田治生 音楽評論家

1964年京都市生まれ。1987年、慶應義塾大学経済学部卒業。1990年から音楽に関する執筆活動を行う。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人 -ある日本人指揮者の...

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