
賛否両論を巻き起こしたシュトゥットガルト州立歌劇場の《マイスタージンガー》新制作

2月の旧西ドイツの音楽シーンから、オペラとオーケストラのコンサートのレポート他をお届けします。

音楽学/音楽ジャーナリスト。1991年からドイツのケルン、デュッセルドルフ、現在はミュンヘン在住。早稲田大学第一文学部ドイツ文学科卒業、ドイツのケルン大学法学部を経て...

1941年12月創刊。音楽之友社の看板雑誌「音楽の友」を毎月刊行しています。“音楽の深層を知り、音楽家の本音を聞く”がモットー。今月号のコンテンツはこちらバックナンバ...
シュトゥットガルト州立歌劇場が、ワーグナー《ニュルンベルクのマイスタージンガー》新制作初日を迎えた(初日と所見日:2月7日、指揮:同歌劇場音楽総監督コルネリウス・マイスター、演出:エリザベート・シュテップラー、美術:ヴァレンティン・ケーラー、衣裳:ゲジーネ・フェルム、他)。前回の同歌劇場における《マイスタージンガー》新制作は1994年(ハンス・ノイエンフェルス演出)なので、約32年ぶりだった。
演出のシュテップラーは1977年生まれ。2014年から2022年までマインツ劇場の首席演出家を務め、2019年には「ファウスト賞」を受賞するなど、活躍著しい。
今回の演出は新しい視点が光る。前奏曲でスクリーンには「開始!」というドイツ語が投影される(これは作品中、ひんぱんに使用されるテキストだ)。文字テキストはその後も多用され、なかでも第3幕の「前奏曲」では詩人パウル・ツェランの代表作、ホロコーストをテーマにした『死のフーガ』が投影され、ここでは怒号が飛んだ。
冒頭の「前奏曲」に戻るが、ザックス(マーティン・ガントナー)は純白のステージ上に一人座る。悩める彼のもとに学生ふうのエファ(エステル・ディールケス)が現れ、ザックスに新しいアイディアを提供する。つまり新時代を築くのはエファという暗示だ。幕が上がると徒弟たちは全員女性=未来の担い手だ。スーツ姿のワルター(ダニエル・ベーレ)、ロック・ミュージシャンふうのベックメッサー(ビョルン・ビュルガー)、ザックスの3人に惹かれるエファの気持ちの変遷がていねいに描かれていく。
第3幕第5場、軍服を着たワルターは、ニュルンベルク裁判の法廷を思わせる壇上で歌い消えていく。エファはベックメッサーに手を差し伸べ、紙の冠を被ったザックス(=ワーグナー)を讃える。
マイスター指揮シュトゥットガルト州立管弦楽団は時間と共に硬さがとれ、第3幕では見事なバランスと音響を作り出していた。驚きはソリスト歌手全員が役デビューだったことで、すばらしい歌唱と演技だった。
終演後は大ブラヴォーと大ブーの応酬、たいへん盛り上がった《マイスタージンガー》だった。
ナタリー・シュトゥッツマンが指揮 バイエルン州立歌劇場の《ファウスト》新制作

©Geoffroy Schied
バイエルン州立歌劇場がグノー《ファウスト》を新制作した(初日と所見日:2月8日、指揮:ナタリー・シュトゥッツマン、演出:ロッテ・デ・ベアとフローリアン・ファラー、美術:クリストフ・ヘッツァー、衣裳:ジョリーネ・ファン・ベーク、他)。ポーランドのワルシャワ・ナショナル大劇場との共同制作。
今回は女性スター指揮者の一人、ナタリー・シュトゥッツマンが同オペラにデビューすること、ウィーン・フォルクスオーパーの芸術監督を務める演出家ロッテ・デ・ベアの仕事が注目を集めていた。シュトゥッツマンはファウスト役ジョナサン・テテルマン(役デビュー)、メフィスト役カイル・ケテルセン、マルグリート役オルガ・クルチンスカの歌唱をしっかり支えつつ、雄弁なオーケストラから厚い響きを引き出し、観客から大きな拍手で迎えられた。
いっぽう、宗教を中心に据えたという演出コンセプトは希薄で、回転ステージによるひんぱんなステージ転換が、観る側の集中力を邪魔する。コーラスの動きは乏しく背景にしかすぎないのも気になった。カーテンコールでは演出チームに大きなブーが浴びせられた。
今秋首席指揮者に就任するラハフ・シャニとミュンヘン・フィルのコンサート
ラハフ・シャニ指揮ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団のコンサートを聴いた(1月28日、ミュンヘン・イザールフィルハーモニー)。プログラムはドビュッシー《牧神の午後への前奏曲》、モーツァルト「ピアノ協奏曲第27番」(ピアノ:シャニ)、シェーンベルク「交響詩《ペレアスとメリザンド》」。シャニはいつものように、すべて暗譜で指揮した。モーツァルトはピアニストでもあるシャニが弾き振りをしたが、ペダルの多用による音の濁りが気になった。それに反し、シェーンベルクでは透明感のある響きが、構成力の強さと相まってたいへん興味深い。
シャニがミュンヘン・フィルの首席指揮者に就任するのは今秋だ。しかし、もうシェフさながらの存在感があり、オーケストラとの信頼感もうかがわれ、聴衆からの人気と支持も高い。
ハーディングとソヒエフがバイエルン放送響を指揮

©BR / Astrid Ackermann
ダニエル・ハーディング指揮(1月29日)とトゥガン・ソヒエフ指揮(2月12日)のバイエルン放送交響楽団(BRSO)のコンサートを聴いた(両方ともミュンヘン・ヘラクレスザール)。
ハーディングのプログラムはヘンツェ「オーケストラファンタジー《魔王》」、ハイドン「交響曲第49番《受難》」、R.シュトラウス「交響詩《ドン・キホーテ》」(スティーヴン・イッサーリスvc、湯浅江美子va)。とくに印象に残ったのはハイドンで、理知的な音楽的見通しと、ほとばしるような情熱の交錯が魅力的だった。
ソヒエフ指揮のプログラムはフォーレ「組曲《ペレアスとメリザンド》」、サン=サーンス「ピアノ協奏曲第5番《エジプト風》」(アレクサンドル・カントロフp)、プロコフィエフ「組曲《ロメオとジュリエット》」(ソヒエフ編)。29歳のカントロフは同響にデビュー、この曲特有のさまざまなテーマ、音色、エキゾティックなパッセージ(走句)を卓越したテクニックで表現し、聴衆の大喝采を受けた。
指揮者リリングとテノール歌手シュミットが逝去
指揮者のヘルムート・リリングが2月11日に亡くなった(享年92歳)。リリングは「バッハの教皇」と呼ばれ、J.S.バッハ演奏の巨匠の一人だった。1954年にゲッヒンガー・カントライ、1965年シュトゥットガルト・バッハ・コレギウム、1981年シュトゥットガルト国際バッハアカデミーを設立、これらを指揮してJ.S.バッハのカンタータ全曲を初めて録音した。
2月中旬には、テノール歌手のヴォルフガング・シュミットが亡くなった(享年69歳)。シュミットは1988年から2021年までライン・ドイツ・オペラ(デュッセルドルフとデュースブルク)に所属し、バイロイト音楽祭には1992年のデビュー以来、2010年まで26回登場した。ヘルデンテノールとして知られるシュミットだが、レパートリーはイタリアものなど広範囲にわたる。





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