レポート
2022.03.04
配信中! 原田慶太楼指揮・東京交響楽団、尺八、箏が演奏

角川武蔵野ミュージアム「浮世絵劇場 from Paris」〜幻想的な映像と生演奏の中を歩いて

昨年10月に、角川武蔵野ミュージアムのオープン1周年記念展としてスタートした、360度体験型コンテンツ「浮世絵劇場 from Paris」。1月にここでオーケストラコンサートが開催され、その模様を取材してきました。
360度周囲をぐるりと取り囲む壁にプロジェクション・マッピングで浮世絵が投影され、それに合わせて原田慶太楼さん指揮の東京交響楽団がクラシックの名曲を演奏する30分。それは、不思議で幻想的な体験でした。

取材・文
室田尚子
取材・文
室田尚子 音楽ライター

東京藝術大学大学院修士課程(音楽学)修了。東京医科歯科大学非常勤講師。オペラを中心に雑誌やWEB、書籍などで文筆活動を展開するほか、社会人講座やカルチャーセンターの講...

© Danny Rose Studio © Kadokawa Culture Museum

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サブカルや本好きを刺激するミュージアム

角川武蔵野ミュージアムは2020年11月、ところざわサクラタウン内にオープンした、図書館・美術館・博物館をひとつにした複合文化ミュージアムです。

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隈研吾さんデザイン監修による石を使った特徴的な建物は、地上5階建て。エントランスは2階で、1階は「マンガ・ラノベ図書館」、3階は「EJアニメミュージアム」と、サブカル好きにはたまらないスペースになっています。

隈研吾さんデザイン監修の角川武蔵野ミュージアム。美術・博物・図書を混在させ、有機的につながっている複合文化ミュージアム。
©角川武蔵野ミュージアム
KADOKAWAグループのほぼすべてのライトノベルがそろう「マンガ・ラノベ図書館」。
©角川武蔵野ミュージアム

4階には館長の松岡正剛さん監修による「エディットタウン」と、アドバイザリーボードの荒俣宏さん監修の「荒俣ワンダー秘宝館」。「エディットタウン」の「ブックストリート」には9つのテーマに沿って2.5万冊の本が並び、椅子なども設置されており自由に読めるようになっています。

館長の松岡正剛さん監修による「エディットタウン」の「ブックストリート」。9つの文脈にそって、約2.5万冊の本が並ぶ。
©角川武蔵野ミュージアム
博物学者・荒俣宏さん監修の「荒俣ワンダー秘宝館」。
©角川武蔵野ミュージアム

そして、4階と5階をぶち抜いて造られているのが、2020年のNHKの紅白歌合戦でYOASOBIが演奏を中継したことで話題となった「本棚劇場」。高さ8メートルの巨大本棚に囲まれた空間で、定期的にプロジェクションマッピングが上映されています。

松岡正剛さんはこのミュージアムのテーマを「連想と想像力」という言葉で説明しています。想像力を働かせ、連想を張り巡らせるような本、アート、プロダクトが思いも寄らない形で展示されており、ただ飾られたものを「鑑賞」するだけでなく、実際に「体験」し「考える」ことができる点が、従来のミュージアムにはなかったユニークな点です。

「本棚劇場」には、KADOKAWAの刊行物のほか、角川書店創業者である角川源義など個人の蔵書が約3万冊並ぶ。定期的にプロジェクションマッピングを上映。
©角川武蔵野ミュージアム

演奏とアートを回遊しながら全身に浴びられる「浮世絵劇場 from Paris」

さて、1階のグランドギャラリーで開催されている「浮世絵劇場 from Paris」は、浮世絵を素材にした映像作品で、制作したのはパリを拠点に活動するアーティスト集団、ダニーローズ・スタジオ。

北斎や広重などの浮世絵が、新たに12幕のテーマに沿ってストーリー仕立てで構成され、最新のテクノロジーによって音楽に合わせて動きます。桜の花びらが舞い落ち、虫や鳥たちが羽ばたき、海では大波が砕け散る。かと思えば、縁側では美女が物憂げに瞬きをし、歌舞伎十八番のシーンが再現される。

周囲をぐるりと取り囲まれていますから、まるで自分自身が浮世絵の世界に迷い込んだかのような感覚を覚えました。

音楽も、ダニーローズ・スタジオが独自に選曲したものがつけられているのですが、今回鑑賞した「オーケストラコンサートin浮世絵劇場」では、指揮者の原田慶太楼さんがオリジナルの音源のイメージを尊重しつつ、新たに選曲・アレンジ。さらに、箏のLEOさん、尺八の藤原道山さんが、その場で即興演奏を繰り広げるパートもありました。

指揮者の原田慶太楼さん。東響はコロナでいち早く配信に取り組んだり、チームラボのアートともコラボするなど、チャレンジングな活動を行なう。
© Danny Rose Studio © Kadokawa Culture Museum
箏奏者のLEOさん。
© Danny Rose Studio © Kadokawa Culture Museum
尺八の藤原道山さん。映像からインスピレーションを受けて演奏(原田さん談)。
© Danny Rose Studio © Kadokawa Culture Museum

その中には、浮世絵にインスピレーションを受けたことで知られるドビュッシーの交響詩《海》や、サティの《ジムノペディ第1番》、また日本人作曲家の吉松隆さんの作品などが含まれています。

原田さんは、展示自体のコンセプトである「Spirit of Japan」を大切にしたといい、それはまさに「日本」と「フランス」、「ジャポニスム」と「印象派」とが融合・昇華したような出来映えであったと思います。

オーケストラは会場の中央に設置され、コンサートの間中、観客は自由に会場内を歩き回ることができるのも、普段の「映像付きクラシックコンサート」とは違う面白さがありました。個人的には、オーケストラの打楽器パートを後ろから、しかも、あんなに近くで見ることができたのは初めてで興奮しました。

色とりどりの浮世絵たちと色とりどりの音たちが繰り広げる世界の中を、魚のように回遊しながら没頭した30分は、どこかこの世ならざる桃源郷に迷い込んだかのような体験になりました。

会場の真ん中にオーケストラが配置され、横や後ろに回って、奏者を間近に見ることができた。写真:編集部 © Danny Rose Studio
この共演は、プロデューサーの今井久さん(左)が「360度の映像空間で浮世絵を浴びる体験に、さらに新しい価値をつけたかった」と東響に依頼。原田慶太楼さんは、映像に音楽を合わせるためにストップウォッチを見つつ、指揮をしていたそう。写真:編集部 © Danny Rose Studio
開催概要
浮世絵劇場 from Paris

会期: 2021年10月30日(土)~2022年4月10日(日)

※第1・第3・第5火曜日休館。休館日が祝日の場合は開館・翌日閉館

開館時間: [日〜木曜]10:00~18:00[金・土]10:00~21:00 ※入館締切 閉館30分前

会場: 角川武蔵野ミュージアム 1階グランドギャラリー

詳しくはこちら

ニコニコ動画番組『オーケストラコンサートin浮世絵劇場』

見逃し配信: https://www.nicovideo.jp/watch/so39921015

アーカイブ視聴期間: 4月3日(日)まで購入可能、4月10日(日)まで視聴可能。

取材・文
室田尚子
取材・文
室田尚子 音楽ライター

東京藝術大学大学院修士課程(音楽学)修了。東京医科歯科大学非常勤講師。オペラを中心に雑誌やWEB、書籍などで文筆活動を展開するほか、社会人講座やカルチャーセンターの講...

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