音楽、未知との遭遇 File.04 「ザ・インストゥルメント・ビルダーズ・プロジェクト・キョウト ― 循環するエコー」

現代アートの世界でつくられたオモシロ自作楽器から音楽を再考する

レポート
2018.09.24

音楽の世界で楽器をつくる、というと、なんらか既存の枠におさめる方向に考えが及んでいきそうだ。
京都芸術センターで行なわれた「ザ・インストゥルメント・ビルダーズ・プロジェクト・キョウト ― 循環するエコー」は、現代アートのアーティストが楽器をクリエイトし、既成概念を覆していたようだ。
連載「音楽、未知との遭遇」第4回、美術ライター島貫泰介さんがレポート。

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撮影:松見拓也(展示・パフォーマンス写真)
ナビゲーター
島貫泰介 美術ライター/編集者
島貫泰介
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島貫泰介 美術ライター/編集者
1980年生まれ。京都と東京を拠点に、美術、演劇、ポップカルチャーにかかわる執筆やインタビュー、編集を行なう。主な仕事に『美術手帖 特集:言葉の力。』(2018年3月...

これは楽器と言えるのか?

京都芸術センターで2018年9月14日(金)から17日(月祝)まで行なわれた「ザ・インストゥルメント・ビルダーズ・プロジェクト・キョウト― 循環するエコー」は、ひらたく言えばアーティストによる「見たことのないオモシロ楽器」の開発ハッカソンだ。

2013年にインドネシアとオーストラリアのコラボレーションから始まったこのプロジェクト。4回目の今回は日本から塚原悠也、荒木優光、樅山智子の3名が新たに加わり、7名が3週間に及ぶ滞在制作に挑んだ。最後の2日間で、自作楽器のプレゼンテーションを兼ねたツアー形式のパフォーマンスが行なわれたので、その模様をお届けしたい。

 

京都芸術センター
会場となった京都芸術センターは、展覧会や舞台公演など多様な芸術の鑑賞の場であると同時に、芸術家の創作・発表活動を支援する。撮影:表恒匡

筆者が参加したのは最終日17日のパフォーマンス。約50名の観客は数組のチームに分けられ、建物内に点在するさまざまな「楽器」を見て回る。

一斗缶や缶詰を天井に吊るし、そこから床へと何本もの紐を張り、ハープのように奏でるヴキール・スヤディーの《缶の社会》のように比較的楽器っぽいものもあれば(ただし演奏音は人や動物の泣き声そっくり)、ナターシャ・トンテイの《ゴーブルディゴーク》では、ネット界隈でおなじみのアスキーアートを譜面としてむりやり解釈し、「通訳者」を名乗る人々が「/(スラッシュ!)」「,,,(んんん!)」などとアナーキーに連呼しまくる。

ヴキール・スヤディーの《缶の社会》。缶を天井に吊るし、そこから床へと何本もの紐を張り、ハープのように奏でる。
ナターシャ・トンテイの《ゴーブルディゴーク》。アスキーアートを譜面として解釈してパフォーマンス。

「これだって楽器と言えなくもないだろ? なあ!!」と、まるで観客を挑発するかのような内容におおむね困惑しつつ、しかし意外と楽しく経験できるのはアーティストたちの明るいキャラクターによるものだろうか?

伝統文化を転用したウィンド・ハープ

ツアー前半のしめくくりは、ミスバッフ・デーン・ビロクがつくった弓形の弦楽器《ウィンド・ハープ》の五重奏。ツアー前に実際に触れることができたのだが、ちょっと昔に人気のあったブレード型のダイエット・グッズのように小刻みに振ると発生する振動音がとても楽しい楽器だ。

作者のミスバッフによると、《ウィンド・ハープ》の原型はインドネシア諸島で害虫避けや凧あげに使われる「Dangngong」というものらしい。古くから伝わる伝統文化をリサーチ&転用する新しい思考法のトレーニングも、このプロジェクトの目指すところだ。5名のアーティストの演奏は、ときに悪ふざけ(?)も交えながら続けられた。

ミスバッフ・デーン・ビロクの《ウィンド・ハープ》

あらゆる音から音楽へ

ツアー後半戦は、芸術センターの1階フリースペースでの、複数楽器によるセッションだ。

この夜は特別ゲストとして、ギタリストで音楽家の内橋和久も参加。ドイツの音楽家ハンス・ライヒェルが創作した楽器「ダクソフォン」による卓越した即興演奏で、プロジェクトのフィナーレに花をそえた。

ゲストの内橋和久は弓で木片を擦って音を出す楽器「ダクソフォン」を演奏。

セッションでは、塚原悠也が開発した《a city / 001(ver. Kyoto)》が視覚的に目をひいた。南北に鴨川が流れる京都市内に見立てた巨大なパチンコ台で銀玉を弾くと、ギター弦の硬質な音やゴロゴロという回転音が響く。

ああ、「いまこの音は、北大路あたりを抜けて、南区へと南下していくのだ」という鳥瞰的な想像が膨らむ。

手前中央が塚原悠也《a city / 001(ver. Kyoto)》。

荒木優光が開発した《電話》は、携帯電話にかかってくる受信音・会話を音楽に転用した家電楽器で、パフォーマンス中にも数度ダイヤル音が鳴り響いていた。

実験的でアンビエントな音が満ちる時空間を目覚ませるような、耳覚えのあるデジタルサウンドの具体的な質感は、私たちが普段耳にしている日常の音も「音楽」なのだという気づきを与えてくれる。

荒木優光《電話》。

荒木やアスキーアート楽譜のトンテイに限らず、このプロジェクトに参加したアーティストの多くは、単に聴いたことのない音を発したり、奇抜な演奏法を求める楽器の発明を「新しい楽器」を生み出すための唯一のアプローチとは考えていない。

まぶたを開閉すればON/OFFできる目と違い、耳は人間の主体的な意思だけでは閉じることのできない器官だ。その意味で、私たちが聴いているあらゆる音は「音楽」なのであって、そのことを私たちは忘れている/気づいていないだけなのだ。

さまざまな日常のモノも音を鳴らす。

ありえない出会いがもたらすもの

後半のパフォーマンス、塚原が壁面に何かを投げつけた瞬間があった。「べちゃっ」という生々しい音が聴こえてきた方向に視線を向けると、紅白緑色三色のくし団子がベニヤ板の表面に逆さに張り付いていた。

その瞬間に筆者は思わず笑ってしまったのだが、ここには滅多に投げつけられることのない「くし団子の常識」が崩された驚きと、そんな乱暴な行為でも音楽になってしまう可能性を同時に示されたことによる、コントロールできない笑いの回路の刺激がある。

20世紀を代表する芸術家マン・レイは、19世紀の詩人の言葉「解剖台の上でのミシンとコウモリ傘の不意の出会いのように美しい」を引用した。それは、ありえないはずの物同士が出会うことの詩的な突破力を讃えた言葉だが、くし団子と音楽の間にも、ありえない出会いは起こりうるのだ。

イベント情報
ザ・インストゥルメント・ビルダーズ・プロジェクト・キョウト― 循環するエコー

プロジェクト期間: 2018年8月30日(木)~9月17日(月・祝)

展覧会: 2018年9月15日(土)~9月17日(月・祝)

パブリック・プログラム: 2018年9月14日(金)~9月17日(月・祝)

 

会場: 京都芸術センター フリースペースほか

参加作家: ケイトリン・フランツマン、荒木優光、ミスバッフ・デーン・ビロク、ナターシャ・トンテイ、樅山智子、塚原悠也、ヴキール・スヤディー

共同キュレーション: 川崎陽子、勝冶真美、ジョエル・スターン、クリスティ・モンフリース

主催: 京都芸術センター

公式ページはこちら

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