レポート
2025.06.17
水戸室内管弦楽団第115回定期演奏会レポート

水戸室内管弦楽団定期にマルタ・アルゲリッチ登場!多彩な語り口で聴衆を魅了

5月16日、水戸芸術館(茨城県水戸市)の専属楽団である水戸室内管弦楽団の定期演奏会に、指揮者・広上淳一と、ピアニスト・マルタ・アルゲリッチが登場した。シューマン「交響曲第2番」とベートーヴェン「ピアノ協奏曲第2番」が上演された当日の模様をレポートする。 

取材・文
取材・文
江藤光紀 音楽評論家

音楽評論家として新聞・雑誌などに解説・紹介記事などを寄稿。また近年は歌劇場や博覧会など、芸術と社会を結ぶ文化装置について研究している。筑波大学人文社会系准教授。一流の...

音楽の友 編集部
音楽の友 編集部 月刊誌

1941年12月創刊。音楽之友社の看板雑誌「音楽の友」を毎月刊行しています。“音楽の深層を知り、音楽家の本音を聞く”がモットー。今月号のコンテンツはこちらバックナンバ...

水戸室内管弦楽団「第115回定期演奏会」から(5月16日・水戸芸術館コンサートホールATM) ©大窪道治

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広上淳一が再登場、貫禄の仕上がり~シューマン「交響曲第2番」

水戸室内管弦楽団の定期演奏会にたびたび客演している広上淳一が再登場。

シューマン「交響曲第2番」はたっぷりとした序奏で始まり、アレグロ主部も悠然と進める。広上はモティーフやその楽器間の応答を的確に拾いだしスポットを当てる。フレージングにも丁寧な彫琢をほどこし、緻密に編まれながらもすっきりと見通しのよい流れを作りだした。

スケルツォは歯切れのよいスタッカートとなめらかなトリオの対比が心地よい。第3楽章はオーボエのフィリップ・トーンドゥルに始まり木管楽器トップの名手たちが見事な協奏を聴かせ、その陶然とした歌が深い感興を残した。終楽章は晴れがましく祝祭的な大団円を形成。ところどころこの楽団らしからぬアンサンブルの緩みも見られたが、終わってみれば貫禄の仕上がりだ。

©大窪道治

変幻自在なアルゲリッチ流~ベートーヴェン「ピアノ協奏曲第2番」

後半はマルタ・アルゲリッチ(p)が独奏に登場。その定期的な客演は、小澤征爾が出演できなくなってからというもの、楽団の精神的支柱となってきたといえよう。

当初予定されていたバルトーク「ピアノ協奏曲第3番」を聴けなかったのは残念だが、変更されたベートーヴェン「ピアノ協奏曲第2番」は最晩年の小澤との共演曲でもある。

80歳を優に超えているのに衰えは見られない。第1楽章はレガートからスタッカートまで変幻自在にニュアンスを変えつつ、そこに突発的なアタックやリズムの崩しを絡めてくる。フガートやカノンでは声部が単なる模倣や反復ではなく、それぞれが個性を持ったおしゃべりのように聞こえる。第2楽章では撫でるようなタッチで音を解き放ち、そこから重みをさまざまに加えて多彩なパレットを作りだす。

緩徐楽章をオーケストラが美しく閉じると、間髪を開けずに独奏が終楽章に突入。ロンド主題はリズムが特徴的なため、オーケストラが入ってくるまで一瞬目くらましにあった錯覚に陥る。こうして意表を突いてくるのもアルゲリッチ流だ。オーケストラも多彩な語り口にお手のもので対応。心地よく翻弄された聴衆はスタンディングオヴェイションで応えた。

公演データ

水戸室内管弦楽団・別府アルゲリッチ音楽祭共同制作

第115回定期演奏会

〈日程・会場〉5月16日・水戸芸術館コンサートホールATM

〈出演〉広上淳一(指揮)、マルタ・アルゲリッチ(p)

〈曲目〉シューマン「交響曲第2番」、ベートーヴェン「ピアノ協奏曲第2番」

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江藤光紀 音楽評論家

音楽評論家として新聞・雑誌などに解説・紹介記事などを寄稿。また近年は歌劇場や博覧会など、芸術と社会を結ぶ文化装置について研究している。筑波大学人文社会系准教授。一流の...

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