第九の肝は二重フーガ――地道な練習でパート同士の折り重なりを理解せよ!
12月1日、大阪城ホールで本番が開催される、佐渡裕の指揮による「サントリー1万人の第九」。8月からレッスンが始まり、今回は12回のうち7回目のレッスン。実に地道かつ本気のレッスンに、大阪在住の大学4年生ナビゲーター、桒田萌さんが潜入!
1997年大阪生まれの編集者/ライター。 夕陽丘高校音楽科ピアノ専攻、京都市立芸術大学音楽学専攻を卒業。在学中にクラシック音楽ジャンルで取材・執筆を開始。現在は企業オ...
筆者が参加している梅田Aクラスは、火曜日19時~21時に全12回のレッスンが行なわれる。今回潜入したのは、第7回目(2019年10月15日)のレッスン。初回に参加したときよりも、朗らかな参加者の皆さんの様子が印象的だ。
第九といえば、「喜びの歌」の愛称で知られている有名な旋律が思い浮かぶかもしれないが、他にもたくさんの旋律や箇所が現れる。
この日は、その中でも特に難しい「二重フーガ」と呼ばれる箇所を練習。
フーガって?
複数の旋律が現れ、それらが模倣・反復されていく楽曲のことを指す。
特に合唱などでは、メロディ=主役があり、それ以外の「ハモる」部分、または伴奏のような部分=脇役、と自然とヒエラルキーができてしまうことが多い。だけど、フーガは同時主役の旋律が、一斉に登場。つまり、A、B、C、それぞれ3種類の旋律があるとすれば、それをそれぞれのパートで真似をし合い、ときには形やキーを変え、繰り返し歌われ、一つの音楽になる。とても立体的で、複雑だけれど、かっこいい。
この「第九」のフーガにどんな旋律が登場するかというと……。
以上の2つの旋律が、この「二重フーガ」の箇所での登場人物。これらが、キーを変え、形を変え、あらゆるところに登場し、パート同士で折り重なり、布のように音楽を織りなす。とても難しい技法だが、これがうまく歌えたときの快感は何にも変えがたい。
フーガを歌う上で難しいのは、自分のパートの役割を意識すること。今はどの旋律を歌っているのか? 他のパートはどの旋律を歌っているのか? それを意識せずには、音楽の完成に至らない。
コツコツと、地道な練習を
加藤先生も、同じように練習を進めていった。アルト、バス、テノール、ソプラノの順に、以下の方法を実践。
- 音をつけずに、発音のみ
- 音をつけて、ゆっくり歌う
お察しの通り、とても地味で地道な作業だ。忍耐強く挑まないと、途中でへこたれてしまう。
加藤先生は、「フーガは、どこかで躓いてしまったり、間違えていたりすると、また後戻りして練習しないといけないくらい、難しいもの。とにかく丁寧に練習を進めていきましょう」。
慣れてくると、次は違うパート同士で音を重ねる。ただし、いきなり4声で合わせないことがポイント。加藤先生は、「とにかく焦らずに、少しずつから重ねていきますよ」と釘をさす。
テノール×バス
アルト×テノール×バス
ソプラノ×アルト×テノール×バス
参加するパートが増えていくたびに、難しい音が誤魔化されてしまったり、声量が他のパートに負けてしまったり、さまざまな課題が浮かび上がってくる。
加藤先生が話した、フーガを歌う上でのポイントは3つ。
- スピード感を大事に。もたもたとしない。常にテンポを体に刻む。
- 旋律は、トランペットのように高らかに響かせる。特に強調して歌うこと。
- 他のパートをよく聞き、その上で自分はどう声を出すべきかを考えること。
「ベートーヴェンはドイツ人ですが、楽譜に記されている指示はどうしてイタリア語なのか、わかりますか」
一生懸命励み、疲れた練習の合間に、加藤先生がクラシック音楽のマメ知識を伝授してくれた。
「ベートーヴェンが生きている時代、宮廷で雇われている音楽家が多かったんです。それも優秀なイタリア人が多かった。彼らが演奏できるように、イタリア語で表記されているんです。しかし、時代の移り変わりとともに、音楽家も自立していくと、どんどん自国の言葉で記す音楽家も増えてきた。ベートーヴェンも、晩年に向かうにつれてそうでした」
目前に迫る本番に向けて
12月の本番に向けて、着々と進む練習。次回はついに、総監督・指揮者の佐渡裕氏によるレッスン、そして本番の様子をレポートする。15回重ねた練習の末、いよいよ大詰めを迎える「1万人の第九」。1万人の声は、佐渡氏によってどうレシピされるのだろうか。
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