大阪市民自慢の「音楽」と「鉄道」が手を組んで描く未来――Osaka Metro 1周年記念の駅コンサートにShionが出演
大阪市直営から民営化したOsaka MetroとOsaka Shion Wind Orchestra(オオサカ・シオン・ウィンド・オーケストラ)。2018年にパートナーシップを締結した2つの団体が催す、駅構内で音楽が楽しめる「駅コンサート」が好評を得ています。
大阪市民が誇る音楽と鉄道のコラボレーションを、大阪在住の現役学生ライター、桒田萌さんがレポートしてくれました。
1997年大阪生まれの編集者/ライター。 夕陽丘高校音楽科ピアノ専攻、京都市立芸術大学音楽学専攻を卒業。在学中にクラシック音楽ジャンルで取材・執筆を開始。現在は企業オ...
大阪の中心・本町駅に響くブラス・アンサンブルの音色
2019年5月12日、Osaka Metro本町駅の東改札を出ると、人だかりができていた。あまりの人の多さで、群れの先で何が行なわれているのかはすぐには判断しがたい。しかしはっきりとわかるのは、遠くに突き抜けるような金管楽器の音色・ハーモニー。人々はこの音に引かれて、ここに集っているのだとすぐにわかる。
本町駅は、大阪市の中心を縦に走る御堂筋線、その横の筋を走る四つ橋線、そしてその2つの平行線を交差するように走る中央線の3つの路線が交わる。北に行けば梅田、南に行けばなんば。大阪市内の中心に位置しているため、利用客が多い規模の大きな駅だ。
その日は休日で、いつものように多くの利用客で賑わっていた。しかし東改札の一角には一層の人だかり。
行なわれているのは、「Osaka Metro1周年記念 駅コンサート」。かつて大阪市直営の大阪市交通局が運営していた大阪市営地下鉄が民営化されて「Osaka Metro」となり1年を迎え、同じく大阪を中心に活動するプロの交響吹奏楽団「Osaka Shion Wind Orchestra」による金管五重奏メンバーが、華々しく記念を祝した。
この日演奏されたのは、コアな音楽ファンでない人々にとっても、耳なじみのある作品ばかり。アメリカ民謡「ジャスト・ア・クローザー・ウイズ・ジー」に始まり、ポップな曲想に編曲された「アメージング・グレース」。そして、音楽監督の宮川彬良氏がOsaka Metroのために書いた公式テーマソング「Funky Metro Road」が軽やかに弾ける。また、本町駅周辺にある学校法人相愛学園相愛中学校・相愛高等学の吹奏楽部とのコラボレーションも。
Shionを目当てに駅を訪れた人はもちろん、移動のために通りがかった人や、買い物帰りらしき人、休日のファミリーなど、老若男女問わず多くの人で賑わった。
「音楽」と「鉄道」が手を結んで生まれたパートナーシップ
Osaka Metroと、Osaka Shion Wind Orchestra。2018年よりパートナーシップ協定を締結した、絆で結ばれた2社だ。およそ1年間、今回のような駅コンサートを始め、Osaka Metroの利用者をはじめとする多くの市民に音楽を届けてきた。
日本最長の歴史をもつプロの交響吹奏楽団、Osaka Shion Wind Orchestra。1923年に元陸軍第四師団軍楽隊の有志が『大阪市音楽隊』を結成し、その後『大阪市音楽団』に改称。大阪市直営の交響吹奏楽団として活動してきた。その長い歴史と伝統を築く中で、音楽というツールで大阪市民に寄り添ってきたことは言うまでもない。大阪のみならず、全国を代表とする「吹奏楽のパイオニア」として、圧倒的な存在感を放ってきた。
そんな「Shion」に大きな変化が訪れたのは、2014年のこと。当時の大阪市長による市政改革の影響で大阪市直営が廃止され、民営化された。財政状況が厳しいなか、スポンサーの手を挙げたのは、同じく2018年に民営化を果たしたOsaka Metroだった。
Osaka Metro(大阪市高速電気軌道)の前身である大阪市営地下鉄は、1933年に日本初の公営地下鉄として、御堂筋線 梅田~心斎橋間で開業。同じく長い伝統と歴史を誇り、長らく市民の足となってきた。Shionと同じく2018年4月に民営化。
「民営化以前から変わらず持ち続けていた、『大阪を元気にしたい』という思い。そのためにはどうすれば良いのか考えたところ、同じく大阪市直営から民営化したShionさんがいた。Shionの皆さんは、かねてから素晴らしいと評判のプロの吹奏楽団でした。Osaka Metroのご利用者の皆様に楽しんで、元気になっていただくために、Shionさんのお力をお借りしたいと思い、締結に至りました」(Osaka Metro広報担当・塩谷智司さん)
パートナーシップ協定締結後、Osaka Metroが主催・共催を務めるイベントをはじめとする、さまざまなシーンで共にしてきた。その中でも好評だったのは、駅中でのコンサートだ。1月から2月にかけて、5回に渡りOsaka Metroの各駅でアンサンブルコンサートが開催された。
Osaka Shion Windorchestraの専務理事の池田勇人さんは、こう話す。
「民営化して間もない頃、大阪市直営の時代に多く行なってきた無料イベントは採算が取れないため、有料のコンサートに注力するようになっていました。すると、無料コンサートをメインに来てくださっていたファンの方々から、残念だとお声が来てしまったんです。しかしOsaka Metroさんと協力をすることで、再びこのようなイベントを多く用意することができるようになりました。かつて離れてしまったファンの方々は喜んでくれています」
そのコンサートに来るのは、もちろんShionのファンだけではない。普段は音楽を聴かない、駅の利用を目当てに通りがかる移動客も多くいる。
「やはりOsaka Metroのご利用者は喜んでくださります。私たちOsaka Metroが目指しているのは、駅という一通過点を、ワクワク楽しむことができる場所に彩ること。Shionさんはそれを実現してくださったんです」(Osaka Metro 塩谷さん)
とはいえ、パートナーシップを締結してから1年足らず。双方にはまだまだ希望があるそうだ。
「昨年開催したオリックス劇場でのコンサートに、3000人を超えるお客様が来てくださったんです。今後も、Osaka Metroのご利用者をはじめ多くの方に楽しんでいただけるよう、演奏を届けていきたいですね」(Shion 池田さん)
「Osaka Metroのご利用者の中でも、吹奏楽やコンサートに対して敷居が高く感じている方は少なくないと思うんです。だからこそ駅などの通りがかりで耳なじみのある作品を聴くことで、新しく興味を持たれる方も増えるんじゃないかな、と。そこからShionさんのファンになり、定期演奏会などにも足を運んでほしい。そして、Shionさんの演奏を聴くために、ぜひOsaka Metroを利用してほしいです」(Osaka Metro 塩谷さん)
音楽と鉄道が手を組み、未来を彩る。双方の動きに、今後も目を離せない。
日時: 2019年8月11日(日)
【第1部】12:30開場 13:30開演
【第2部】16:30開場 17:30開演
会場: フェスティバルホール(大阪市北区中之島2-3-18)
最寄駅:Osaka Metro四つ橋線「肥後橋駅」4号出口直結
指揮: 海老原 光
司会: 水野 潤子
吹奏楽: Osaka Shion Wind Orchestra
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