クラシック界の困ったオタクたち。File.1《後編》

「ここが僕のグリーン席です」――サクソフォニスト・上野耕平、乗り鉄スパーク。

インタビュー
2018.09.16

ただのオタクじゃない。「周りにいる人がちょっと迷惑するくらいのオタク、題して「困ったオタクたち」! クラシック音楽を生業としながら、音楽愛と同じくらい、あるいはそれ以上(⁉)何かに情熱を注ぐ人々に突撃インタビュー。

第1回は、サクソフォーン・プレイヤーの上野耕平さん。前編では鉄道との出逢いやこだわりをお話していただきました。今回は「乗り鉄」のアツい世界についてたっぷりおうかがいします! 皆さん、旅の準備はオーケーですか?

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写真:安宅真樹
(メインビジュアル:なぜかバンドジャーナル編集部にあった『サボ』を持っていただきました)
今日のオタク
上野耕平 サクソフォン
上野耕平
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上野耕平 サクソフォン
1992年生まれ。 茨城県東海村出身。 8歳から吹奏楽部でサクソフォンを始め、東京藝術大学器楽科に入学。これまでに須川展也、鶴飼奈民、原博巳の各氏に師事。 第12回ジ...
取材・文
オヤマダアツシ 音楽ライター
オヤマダアツシ
取材・文
オヤマダアツシ 音楽ライター
中学1年生のときにビートルズで音楽に目覚め、ドビュッシーでクラシック音楽に目覚める。 音楽漬けの学生時代を経て、広告コピーライターや各種PR誌の編集業務など...

鉄分過多の音楽家、サクソフォーン奏者の上野耕平さんに「鉄」の極意を聞くインタビュー。模型、ミュージックホーン、モーター音に続いてうかがうのは「乗り鉄」の話題。
遅ればせながらの説明だが、一口に「鉄道ファン」といっても趣味趣向が分かれており、写真撮影がメインの「撮り鉄」、車両や駅のアナウンスなどを録音する「録り鉄・音鉄」、時刻表を読むことが無類の喜びだという「スジ鉄」、車両全般を愛する「車両鉄」などなど、多くのカテゴリーを形成しているのだ。

その中で「乗り鉄」とは文字通り、鉄道に乗ることを喜びとして生きている人たち。しかし乗るだけではなく、周囲の景色を愛し、駅の佇まいに心を動かされ、車両を愛で、路線図や時刻表やスマホの地図アプリを見ながらニマニマしてしまう。
それでは、上野流の極意をさっそくうかがってみよう。

「生きているうちに日本全国の路線に乗る!」

乗り鉄としてあっぱれな、いや当然の宣言からスタートです。実はそのために必ず持っておくべきアイテムもあるのだ。

「乗りつぶし地図帳ですね[註1]。当然持っています。首都圏はほとんど制覇してますけれど、西日本や北海道がまだまだですね。特に北海道は廃線が予定されている区間もありますから、なんとかそれまでに乗りたいなと焦っていますよ。山陰方面へもなかなか行けないので、九州へ行くときに(山陽新幹線を使わず)山陰本線回りができないものかと思います。その地方ならではのローカル線も多く、そういう路線ではキハ40や47[註2]なんていうちょっと古いタイプのディーゼル車もまだ走っていますから、本当に素晴らしい。ディーゼル車停車しているときのエンジン音がもう最高ですし、軽油の香りも心地いいんですよ!」

と、今回もおしゃべりは快速特急レヴェルの上野さんであります。

 

<鉄>ではないあなたに、ちょっとした解説

[註1:乗りつぶし地図帳]
JR全線や私鉄を網羅した白地図帳。乗った路線はペンやマーカーで塗っていき「次はここを制覇しよう」と、生きる喜びを与えてくれる素晴らしいアイテム。

[註2:キハ40や47]
前回も書きましたがもう一度。キ=気動車(ディーゼル車)、ハ=普通客車、40・47=車両の形式番号のこと。キハ40もキハ47もJR非電化路線のスタンダード車両。

ところで乗り鉄は「乗る」ことが最大の目的なので、時短などという考えは持たない。極端なことをいえば、たとえば東京から札幌へ行くときに「飛行機で」というプロセスは最初から除外し、どういう経路で行くか、どの列車でどこまで行くかなどについて考えを巡らせるのだ(その時間がまた楽しい)。

「名古屋へ行くときも、ほとんどの人は新幹線でいちばん早い『のぞみ』利用を考えるのでしょうけれど、自分の場合は『ひかり』で行くか、『こだま』で豊橋まで行ってから名鉄に乗り換えて名古屋へ入ります」

 

さすが、それこそ乗り鉄たる基本的な心得だ。なんだったら乗ったことがない路線を使い、回り込むようにして名古屋入りをしてもいい。
それにしても上野さん、そんなに名鉄(名古屋鉄道)が好きなのか。

「名鉄の名古屋駅がまたすごいんですよ。名鉄っていうのは岐阜から豊橋まで主軸のような名古屋本線が走っていて、そこから東西南北へ枝分かれするようにいくつかの別路線が走っているんです。名鉄名古屋駅には、そのいろいろな路線の列車が集まってくるんですよ。つまりこの駅にいるだけでいろいろな行き先の、いろいろなタイプの車両がひっきりなしにホームへ入ってくるわけですから、鉄道ファンにはこたえられない。しかも2分おきに列車1本くらいの過密ダイヤを完璧に運行していて、日本の鉄道のシステムはすごいなと感動してしまいます」

「そういえば、駅のホームに自分だけのグリーン席があるんですよ。座っているだけでホームへ出入りするすべての列車を観ることができるアングルのベンチ。僕、始発から終電までいられますよ」

上野耕平氏のグリーン席。(写真提供:上野耕平)
上野耕平氏のグリーン席からの眺め。(写真提供:上野耕平)
上野耕平氏のグリーン席からの眺め。(写真提供:上野耕平)

~ 今日の名言 ~

ここが僕のグリーン席です。

――上野耕平/サクソフォニスト

大阪市内を移動するのに、なぜ奈良経由?!

しかし皆さん驚くなかれ、上野さんの乗り鉄っぷりはこんなもんじゃなかった。

「仕事で大阪へ行ったとき、たしか阿倍野から四ツ橋までという地下鉄に乗れば20分ほどのところを、奈良経由で移動しました」

ん? ん?

なぜわざわざ奈良へ行った?観光?

「次の予定まで時間がたっぷりあったので、普通ならおいしいものでも食べに行ったりするんでしょうが、そんなもったいない時間の使い方はできません。大阪市内から近鉄を乗り継ぎ、橿原神宮前駅経由で近鉄奈良駅へ行き、JR奈良線を走っている103系の電車[註3]にも乗りたかったので帰路はそこを経由して、京阪電車と地下鉄を乗り継いで本来の目的地へ。時間は……どのくらいかかったのかな。乗っているだけですから奈良で観光もしません」

JR奈良線を走っている103系の電車(写真提供:上野耕平)

↑上野さんが辿った経路

ちなみに、「阿倍野→四ツ橋」間を順当に行くとこうなる。↓

「それ移動じゃなくて旅行じゃん!」とツッコミを入れたくなるのは必至。時間も経費もかかるのだが、それでも「乗る快楽」に抗えないのが乗り鉄たる人生なのだ。

「近鉄には大和西大寺という駅があり、複数の路線のターミナル駅なので駅前後にある複雑なレールとポイントが、ものすごい風景を作り出しています。鉄道ファンたる者、一度は訪れるべき駅でしょうね。実は冬の寒い時期に行って、そのポイントを行き交う電車を2時間くらい眺めていたら風邪をひきました。発熱しながら、次の日には京都の鉄道博物館へ行きましたけど」

こんな具合にどこまでもあっぱれな上野さんだが、こうなると風邪も発熱も「鉄」としては勲章ものだろう。

近鉄大和西大寺駅構内 © Aburatsubo
<鉄>ではないあなたに、ちょっとした解説

[註3:103系の電車]
1960年代より首都圏や京阪神エリアなどで愛用されていた通勤型車両。都市部の通勤ラッシュと日本の高度経済成長時代を支えた伝説的な車両だが、新型車両の導入に伴い、日本各地のローカル線や東南アジアなどへ転用されて第二の人生を送った。

この「好きだ!」という熱量をどうにか多くの読者に伝えたいわけだが、乗り鉄は「旅をする」ということでもあるので、もしかすると旅好きの女性にもウケるポイントがあるかもしれない。

 

「絶景を堪能できる路線はたくさんあります。沿線の景色が素晴らしい青森の下北半島を走る大湊線、自分はいったいどこを走っているんだろうという別世界感がすごい長野の飯田線は、特におすすめ。飯田線は秘境駅の宝庫としても紹介されています。
あとは四国の土讃線もいい。深い山間にポツンと民家や駅があるので、『どういう人がこの駅を利用しているんだろう、どうしてここに住んでいるんだろう』と想像してしまい不思議な気分になるんです。
それから、夜景が好きな人は長野の篠ノ井線がおすすめ。列車に乗っていると空を飛んでいるような感覚が味わえますから」

 

上野さんおすすめの大湊線からの眺め!(写真提供:上野耕平)

鉄道話が尽きない上野さんだが、音楽の話もちょっとだけと振ってみると「蒸気機関車の転車台[註4]があるじゃないですか。あれに乗って演奏できないかなと思っているんです」と、またもや鉄道がらみ。いや、それアリかもしれない、と思ってしまう取材陣は、明らかに上野さんの「熱・圧」にやられてしまっているのだろう。

これからは上野さんの「鉄がらみ」コンサートやイヴェント、注目ですよ。

<鉄>ではないあなたに、ちょっとした解説

[註4:転車台]
蒸気機関車が終着駅などで走る向きを反転させる際、それに使われる巨大な回転テーブル。蒸気機関車が展示されている大宮の鉄道博物館や京都の梅小路蒸気機関車館、現役で走っている東武鉄道や大井川鐵道の駅などもにも備わっている。

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