レ・フレール×アンセットシス 8本の手がオーチャードホールで魅せたピアノの可能性
ピアノ教育とジャズ・フュージョンを軸に執筆。ピアノ教本研究家として全国で講演を行なう。著作に「ひとりですいすいひける!はじめてのピアチャレ」1〜3、「練習しない子のた...
現在Bunkamuraは、「渋谷アッパー・ウエスト・プロジェクト」の推進に伴い、オーチャードホールを除いて休館中だ。隣接する東急本店の跡地では2027年度中(時期未定)のプロジェクト完成に向けて工事が進んでいる。
そのような中でも、オーチャードホールでは日曜・祝日を中心に、営業を継続している。
今回は、2024年7月14日に行なわれたオーチャードホール自主公演のステージから、連弾のレ・フレール、そして2台ピアノのアンセットシスのコラボレーションとなる「Pianos’ Conversation 2024 」の様子をお届けする。
ホールいっぱいに広がるピアノの音
昨年も行なわれたこのコンサート、ベテランと若手、ブギウギを取り入れたオリジナルとクラシックというように、違った個性の2組のアーティストがピアノという同じ土俵で共演する面白さが評判となった。
昨年の経験をふまえて、今年はさらに準備を重ねたそうだ。まず冒頭の「ルパン三世のテーマ」では4人のピアニスト全員が登場。レ・フレールはオリジナル作品、アンセットシスはクラシックとジャンルは違うものの、編曲を自ら行なうアレンジャーでもあるので、まさにピアノで自由に会話するような演奏。
ベーゼンドルファーの前には、レ・フレールの斎藤兄弟、向かい合わせのスタインウェイには、アンセットシスの山中惇史、高橋優介が座る。4人がいっせいに弾くと、ピアノの音がオーチャードホールの大空間いっぱいに広がった。同じメロディを交替で違うピアニストが弾くと、表情が変化する様子もはっきりとわかる。
このあと前半は、まずアンセットシスによるクラシックな2台ピアノのステージ。漫画『のだめカンタービレ』で、のだめと千秋先輩が連弾した曲として有名なモーツァルトの「2台のピアノのためのソナタ ニ長調」は、清らかな美しさ。オーケストラ曲を編曲したレスピーギの「ローマの祭り」は極彩色のピアノが華やかで、ドラマチックな展開となる。
続くレ・フレールは、民族音楽やロックの要素を取り入れたオリジナル曲を演奏する。独特のリズムを繰り返し、迫ってくるような「狂想曲」(斎藤守也作曲)、いつもは連弾の彼らが珍しく2台ピアノで演奏した「Présage」(斎藤守也作曲)は壮大な響き。そして情熱的な「マスカラード~完璧なお城変奏曲より~」(斎藤圭土作曲)で速弾きが決まると拍手喝采が起こった。
アレンジ・メドレー、1台8手連弾……エネルギーがあふれ出るような舞台
休憩を挟んで、後半は4人の“カンバセーション”の度合いも深まる。映画『アラジン』より「フレンド・ライク・ミー」では3台のピアノを4人で演奏。そしてレ・フレールは得意のディズニー・メドレー「クラブ イクスピアリ」で客席の手拍子を誘い、アンセットシスはピアノ・コンチェルトのように華麗な「リトル・マーメイド・メドレー」を演奏。
終盤の「きらきら星変奏曲~Piano’sConversation 2024~」では、4人のピアニストがそれぞれの「きらきら星」のアレンジを順に披露していく。山中惇史は、あれよあれよと転調を繰り返し、マジックのようなアレンジ。高橋優介は冴え渡るタッチで見事なテクニックを聴かせる。斎藤圭土はブギウギの力強いリズムで会場を沸かせ、斎藤守也は重厚でロックなグルーブで観客の手拍子を誘い出し、4通りの「きらきら星」を存分に楽しめた。
アンコールの「On y va!」(斎藤守也作曲)は、1台のピアノを4人で弾く1台8手! 弾くときにも立ったりしゃがんだり、客席から見た時に立体感が出るようなポジションで弾く様子からは、エネルギーがあふれ出るかのようだ。
オーケストラよりも広い音域をもち、楽器の王様といわれるピアノ3台を4人のピアニストが思い切り弾く。オーケストラのように豊かな響きや、対話のようなやりとりは創造性にあふれ、なんともエキサイティングだ。ピアノが秘めるさらなる可能性が見えたコンサートだった。
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