レポート
2024.12.12
2025年3月に最後のアジアツアー

サー・アンドラーシュ・シフがカペラ・アンドレア・バルカの活動終了を発表

ONTOMO編集部
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東京・神楽坂にある音楽之友社を拠点に、Webマガジン「ONTOMO」の企画・取材・編集をしています。「音楽っていいなぁ、を毎日に。」を掲げ、やさしく・ふかく・おもしろ...

2024年12月12日に都内で開かれた記者会見で話すサー・アンドラーシュ・シフ
Photo by Yuri Manabe

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来年2025年3月に、サー・アンドラーシュ・シフとカペラ・アンドレア・バルカが6年ぶりに来日公演を行なう。中国と韓国を含むアジアツアーの一環で、カペラ・アンドレア・バルカ(以下、カペラ)はこれが最後の来日となる。2年後の2026年にカペラの活動を終了することを決め、最後の演奏会はイタリア、ヴィンチェンツァのオリンピコ劇場で、地元のすばらしいアマチュア合唱団も参加してベートーヴェンの「第九」を演奏する予定だという。

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カペラは、1999~2005年に行なわれたザルツブルク・モーツァルト週間でのモーツァルトのピアノ協奏曲全曲演奏会のため、シフのよびかけによって優れたソリストや室内楽奏者らが集まり結成された。

シフはユーモアを込めて「世界でいちばん古いユースオーケストラ」と呼び、現在の平均年齢は60~65歳で、なかには80歳を超えるメンバーもいるという。

「若い人たちを入れるという考えもありますが、それは私のやり方ではありません。私はカペラの音楽家たちに感謝の気持ちと強い忠誠心をもっています。それに、新しい世代を入れるとこれまで創り上げた世界が崩れてしまいます。

私は若い人が好きですし、教えることもしていますが、芸術には成熟が必要なのです。よいワインも、味が成熟するまでには時間が必要ですよね。たとえば、私は50歳になるまでベートーヴェンの全ソナタを弾くことを待ちました。ベートーヴェンはひじょうに困難な人生を歩んだ人ですよね。同じ経験をする必要はありませんが、想像できるようになるには時間が必要なのです。ですから若いうちは、ベートーヴェンの若いころの作品を弾けばよいのではないでしょうか。もっとも、こんなことを言っているのはナンセンスなのです。誰も私の言うことをきいてくれませんから(笑)」

シフは9月に足を骨折し、大事には至らなかったが、しばらくペダルなしでピアノを弾いていたという。「これまでにペダルをまったく使わない時期もありました。とくにバッハの音楽では、ポリフォニーがきちんと聞こえるように、ペダルには気をつけるべきです。

バッハは楽譜にペダルの指示を書いていませんが、ベートーヴェンは当時としてもユニークなペダルづかいを書いています。通常ピアノのレッスンでは、ハーモニーが変わるときにペダルも変えるように教わります。ですが、ベートーヴェンは《テンペスト》や《ワルトシュタイン》といったソナタで、ハーモニーが変わってもペダルを踏み続けることで音楽的効果を狙っています。これこそ天才のなせる技、革新的なことだと思います」

5年前に行なったアジアツアーを、カペラのメンバーたちはドリームツアーと呼び、活動終了前にもう一度日本に戻らねばと考えていたそうだ。

「プログラムのバッハとモーツァルトは自分にとってもカペラにとっても重要な作曲家です。バッハは私のもっとも好きな作曲家で、ピアノ協奏曲はバッハ自身がライプツィヒのツィンマーマンのコーヒーハウスで仲間たちと演奏したので、これを再現したいと思いました。

皆さんには、カペラの演奏を聴くだけでなく、ぜひ見てほしい。そこにコミュニケーションや音楽する喜びを見出してほしいのです。音楽家というのは仕事ではなく、光栄にも演奏させていただいていることですから、自分をとても幸運な人間だと思っています。世の中には自分のしていることに愛情を持てない方もいらっしゃるようですが、何かしら人類に貢献していることがあるはずです。音楽家は少なくとも若いうちは喜びで目がキラキラと輝いています。カペラは世界でいちばん古いユースオーケストラですが、われわれもみな目が輝いています。この輝きが消えてしまう前に、活動を終えようと思ったのです」

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東京・神楽坂にある音楽之友社を拠点に、Webマガジン「ONTOMO」の企画・取材・編集をしています。「音楽っていいなぁ、を毎日に。」を掲げ、やさしく・ふかく・おもしろ...

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