演奏の意図まで聴きとりたい! 6畳間仕事人・飯田有抄のデスクトップ環境改善奮闘記
クラシック音楽の世界で仕事をする飯田有抄さんが、熱意をもって音楽に関わっている仕事人にインタビュー。その根底にある思いやこだわりを探る連載……の番外編です!
前回の「仕事人」に登場したオーディオ・アクティヴィストの生形三郎さんは、手作りスピーカーの世界でも活躍されています。
そのインタビュー時にちょうど「仕事場でもう少しよい音で再生したいなぁ……」と思っていたオーディオ入門者・飯田さんは、ここぞとばかりに生形さんにご相談。6畳間の仕事場にあるデスクトップ環境大改善に乗り出しました!
ことの始まりは、“ハーモナイザー”導入
私は調べ物や、ラジオ番組の選曲のために、しばしばネットのストリーミング音源をパソコンで再生させることがあります。じっくり鑑賞というわけではないけれど、やっぱり少しでも良い音で聴きたい! そう思って、かつて導入したのはBOSEのパソコン用スピーカー。アンプ内蔵で、ミニプラグから繋ぐだけ。簡単です。長年愛用してきましたが、さらに良い音で……という欲が出てきてしまいました。
というのも先日、ラックスマン製真空管ハーモナイザー(ONTOMO MOOK付録)という小さな機械を入手してしまったのです(※)。
せっかくならば、ハーモナイザーの効果をきちんと感じたい。そこで、パソコンからのアナログ信号をデジタルに変換する機械(DAC)を使ったり、スピーカーはアンプ内蔵型に頼ることなく、きちんとアンプを別に導入し、ハーモナイザーも使って、より良いデスクトップ環境に様変わりさせてしまおうかな……そんなことを、うっすら考えはじめていたのです。
折よく「仕事人」コーナーで生形三郎さんインタビュー。さらに運よく、ちょうど生形さんが設計したモデルのスピーカーも発売になるというではないですか。
オーディオ超入門者の私ではありますが、さっそく試聴させてもらうことになりました。
「ラックスマン製真空管ハーモナイザー(キット)」は、デジタル再生の音を、アナログ再生のような質感で楽しみたい、という要求から開発された機器です。CDプレーヤーやUSB DACなどのデジタル再生機器とアンプとの間に接続して使用します。
音量や音質を変化させる調整ツマミが付いているわけでもなく、単に真空管を用いた回路が挿入されるだけなのですが、これを間に挟むことによって、わずかに滑らかな質感をもった音が楽しめます。その音質が評判を呼び、あっという間に完売となりました。
試聴音源
今回の試聴音源は3種類です。私がパーソナリティを務めるインターネットラジオ番組「OTTAVA Salone」(木曜夜6~10時、http://ottava.jp/)で、多数リクエストを寄せられてきた曲です。仕事部屋ではよく「ナクソス・ミュージック・ライブラリー」のストリーミングを利用して、放送前の選曲をしています。
A: ラター:このうるわしき大地に (Naxos 8.572113)
(泣かせるほど爽やかな、児童合唱の可愛い曲)
B: フィンジ:エクローグ Op.10 (Naxos 8.555766)
(ピアノと弦楽器がじわじわ涙腺を刺激する感動的な曲)
C: ミャスコフスキー:交響曲第24番 へ短調 Op.63 第1楽章(Naxos 8.555376)
(オーケストラの響きがクールで、厳かに戦闘的な気分になれる曲)
スピーカー変更前
まずは、パソコンからDAC、ハーモナイザー、そしてもともと使っていたBOSEのスピーカーで試聴。ミニプラグで直接パソコンから鳴らしていたときよりは、なんとなく音がクリアになって、「よくなった気がする」という印象。う〜ん。でも正直、わかりにくい。とはいえ悪くない。お仕事には差し支えないし、音源によっては感動できるかな、という状態。
スピーカー3種類、続けて聴き比べてみました
では、スピーカーを変えてみます。その前に、プリメインアンプをつなぎます。スピーカーって、アンプがないと鳴らないんですよ。みなさんはご存知でしたか? 私はそんな当たり前のことも、「アンプ内蔵」という一体型に頼っていたため、よくわかっていませんでした(苦笑)。
今回は、生形さんがスピーカーを設計するときに「これを使って音作りをしました」という、フォステクス製AP20dを使用することになりました。とても小さくてデスクトップにぴったりです。では、いよいよ試聴です。
フォステクス製 バスレフ型スピーカーボックス OMF800P-E
奥行きのある、ゆったりと落ち着いた雰囲気の響きになりました! 各音源の印象はこうなりました。
A: 児童合唱の残響が豊かに。ファンタジックな雰囲気が増しました。
B: 弦楽器の音の立ち上がりが滑らかで、美しい。奥行きが生まれました。
C: オーケストラの鳴りがふくよかに。フレーズの息の長さが伝わります。
ゆったり滑らかな音には2つの秘訣があります。
まずは、70Hzという低い周波数から高音域に向けて、綺麗に音が伸びていること。実はコレ、このサイズにしてはかなり優秀な低域の再現性能なんですね。音楽を恰幅良くリッチに描写します。
次に、フェイズプラグと呼ばれるスピーカーユニット中央の音響拡散パーツ。このトンガリが振動板から出た音を綺麗に空間へと広げて、演奏を滑らかかつ饒舌に表現します。ルックス通りの、品の良い音が楽しめましたね。
マークオーディオ製スピーカーユニット&Stereo編 MOOK付録スピーカー
生形さんが設計されたMOOK付録のスピーカーです。キットを使ってだれでも手作りできます。後日、私もトライしてみましたが、大雑把で工作なんて普段しない私でも作れました! 鳴らしてみたら、びっくりするほどいい音がしましたよ! 手作りすると、愛着もひとしおですね。
さて、このスピーカーに私が感じた特徴は、とにかく「音がきめ細かく、ブリリアント」。とても小さいのに! サイズ感と音の臨場感とのギャップがたまりません。各音源の印象です。
A: 塊として聴こえていた合唱が、子どもたちがひな壇でパートごとに分かれているのがわかってしまう感じ。
B: 冒頭のピアノソロは、これまで音色の変化に乏しい演奏かと思っていたのに(失礼!)、奏者は一音一音、丁寧に変化を付けていたことが判明。今まで、ゴメン!
C: スパーンと響く打楽器の音がすごすぎて、笑いが起こる。
一生懸命作って下さって、設計者としてホントに嬉しい限りです。
飯田さんがおっしゃるように、演奏表情の細部まで克明に描写されることが大変に印象的で、実に気持ちがいいです。まさにこれは、このスピーカーユニットメーカーならではの、音への追従性の良さ、反応の良さです。つまり、敏感で繊細なスピーカーなんですね。
でも、それだけではなくて、ロングストローク設計という、振動板の前後運動が深い可動幅をもつのもこのメーカーの特長で、ちっちゃいのに、とにかく底力がすごい。ワイルドな一面もあるんです。
また、エンクロージュアを、余計な箱鳴きをなるべく抑えた設計にして、ユニットがもつ繊細さが一層浮き立つようにしました。打楽器とか金管楽器の勢いがとにかく快活で、笑っちゃうほど爽快ですよね。
加工業者さんと何度もやり取りをして作り上げた甲斐がありました。
マークオーディオ製スピーカーユニット&UBUKATA MODEL DBR-3
MOOK付録キットとほぼ同時期に、生形さんが設計してリリースされた無垢材仕様のスピーカーDBR-3です。
ああ、無垢材。やっぱり自然素材はたまりません。手触りも、見た目も美しく、やっぱり高級感にうっとりしてしまいます。傾斜がポイント。この形によって、スピーカーの前に座った人間の耳の位置に、ほどよく音のシャワーが注がれるのであります。
こちらの音の印象は、「安定感という大人の色気。奥行きと深みで優しく包まれる」。豊かな質感がたまりません。各音源の印象は以下。
A: ひな壇のパート分けのみならず、今度は歌っている子どもたちの表情まで見えてくるようであります。ハーモニーの変化に従って、子どもたちの頬がバラ色に染まったり、表情に柔らかな陰りがさしたり。音の質感は視覚的イメージをも大きく喚起し、左右するのですね。
B: ピアニストの表情付けのみならず、ハンマーが弦をアタックする音がしっかりと、かつ柔らかに伝えられます。楽器そのものの生音、つまり、コンサートグランドピアノの箱鳴り感がして、木の香りがしてきそうです。弦楽器の響きも滑らかで、深みのある音になりました。
C: コンサートホール感が増強。 全体的にゆとりのあるサウンドとなって、奥行きが感じられると同時に、連打される低音の迫力が増してゾクゾクしました。
まず、箱のサイズが大きくなったことによって、音楽の表現に大幅な余裕が生まれました。それから、木の材質が向上するとともに板の厚みが倍になったので、よりブレのない芯と密度のある響きが出てきました。さらに、フロントを「楢」、それ以外に「赤松」、という硬度の異なる天然木素材の組み合わせによって、締まりがありながらも、仄かな柔らかみある音が楽しめるように設計しています。飯田さんがおっしゃるように、演奏の表情に心地よい色味や深みが再現されていますね。
ちなみにフロントの傾斜は、リスニングポイントの最適化に加え、スピーカー内部で起きる不要な反射も抑える効果も担っています。
無垢材ですが、実は既製品ではよほど特別なスピーカーでないと採用されません。何百万円もするスピーカーでも、実は、中身は先程のMOOKと同じMDFという材料が使われていたりします。これはコストや生産性、そして音の安定性からです。
しかし、このキットの板材は、無垢材や天然木を使いながらも、より均質な音が得られるよう、肉厚な板材を継ぎ合わせて作られているんです。したがって、天然素材ならではの手触りや質感と芯のある音を実現しながらも、板材の個性による個体差が均質化され、安定した音を得ることに成功しています。ちょっとお値段張りますが、決して後悔はさせません!(笑)
インシュレーターという小物
インシュレーターは、スピーカーの響きが机に伝わることを軽減して、スピーカー本来の音を、濁りなく楽しめるようにするものです。
ONTOMO Shopのインシュレーターは、硬い無垢のカリン材に金属の鋲が埋め込まれたもので、スピーカーを点で支えます。
オヤイデ製品は、天然石のみのシンプルな円盤タイプです。今回の使用では、前者は、より華やかで明瞭な音色に、後者は、より透明感のある方向でスピーカー本来の音を引き出すように感じられました。再生音量や再生ソースによってもその利き具合は変化するでしょう。
ケーブルを変えてみました
DACとアンプをつなぐ、いわゆる赤白ケーブルを、「RCAケーブル・プレミアム」(ONTOMO Shopで販売)に変更してみました!
あらぁ……とため息が出る、音の変化。少年合唱の声に張りが生まれ、艶やかに。ピアノと弦楽器の対話がより立体的に。オーケストラの楽器ひとつひとつの輪郭がしっかり伝わりました。ケーブルの世界、おそるべし!
より純度の高い銅材を用いたケーブルへと変更しました。
音の純度が高まって一層の透明感を得るとともに、雑味が減って音にさらなる艶や張りが生まれましたね。このケーブルに使われている線材は、既に生産完了品で今ではもう手に入りませんが、その音質に根強いファンもたくさんいる素材なんです。
サブウーファー、贅沢2個使い!
そして今回、贅沢にも、低音を補強するサブウーファーを2台導入してみました。フォステクス製アクティブ・サブウーハーPM-SUBmini2です。生形さん曰く、「ウーファーは、聴くものというより、感じるもの」。机の下、足元に設置。
確かに、耳をそばに当ててもよくわからないのですが、触るとしっかり振動しています。そして、実際に付けると付けないのとでは、まるで違う! 音場の広がり具合がまるで違う! 一段、よりリアルな音になる印象。音源と自分との間にあった(気がしていた)ベールが、これで完全に取り払われたような感覚です。
サブウーファーとは、通常のスピーカーでは再生できない、極めて低い音を再生するための機器です。フォステクス製品は密閉型という方式を採用しており、よりタイトで自然な低音が得られるのが特長です。特にクラシック音楽ソースの再生では、低域にも豊かなステレオ成分が含まれているため、今回のように2台使いにすると効果が絶大なんです。演奏から伝わる臨場感がグンとアップしましたね。
まとめ
音の出どころの違いによって、こんなにも音源の印象が変わってしまうなんて……。気軽に楽しめるストリーミングの音源だからこそ、少しの工夫で毎日の音楽ライフが数ランクアップしてしまう。少しずつでも、自分の好みに応じて改善し、デスクトップに向かうお仕事の時間を、豊かで楽しいものにしていきたいと、あらためて感じました。
今回の試聴で、リアルに欲しいと思ったのは、やっぱり無垢材仕様のスピーカーDBR-3ですね。デスクトップ上で少しスペースはとりますが、そのぶん音の質感に余裕が生まれるので、心にもゆとりができそうです。
そこまで整えてしまえば、パソコンのストリーミング音源のみならず、CDの鑑賞もしっかり仕事場でしたくなるのが人情。レビュー記事を書くことも多いので、PCの前で CDもしっかり聴きたい! CDプレーヤー探求という、あらたなる野望が湧き出てしまいました……。
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