デザインの視点から楽器を革新する
「楽器」と「乗り物」。一見まったく関わりのない2つが、共に描く未来とは?
10月12~14日にかけて六本木ヒルズで行なわれた「Yamaha Design Exhibition 2018 "Tracks"」では、ヤマハ株式会社とヤマハ発動機株式会社が、デザインをコンセプトに、大胆でユニークな展示を披露した。越境的な発想が、楽器や音楽そのもののあり方にも新しい光を当てるかもしれない。現地からレポート。
音楽療法専門誌「チャレンジ!音楽療法2003」(2002年)「the ミュージックセラピー」(2003年vol.1~2011年vol.20/音楽之友社)の編集・取材・...
「乗り物」が音楽になる? ヤマハならではのパフォーマンス
巨大なボルトやナット、デザインされたバイクスタンドやタイヤといった乗り物のパーツによって構成された演奏装置「&Y03 eMotion Tracks」が強烈なインパクトを放つ。パフォーマーによってハンドルがぐるぐると回されると、海辺や高原で自然の風に吹かれているかのようなサウンドが響く。「ピアノ!」「ドラム!」のパフォーマーの声を合図に自動演奏がスタートすると、まるでセッションに加わるかのように、コンセプトモビリティ「MOTOROiD」がゆっくりと自律走行して近づき、ダンスのような動きを披露した。
そんなSF映画のワンシーンを思わせるようなバーチャルパフォーマンスを体感できたのは、ヤマハ(株)とヤマハ発動機(株)による合同デザイン展「Yamaha Design Exhibition 2018”Tracks”」(六本木ヒルズ大屋根プラザ)。2社はこれまでも同じヤマハブランドを使用する企業として、デザインを共通テーマとするさまざまな活動を行なってきた。3回目となる今回の展示コンセプトは“Tracks”=軌道」。「トラック」は乗り物の軌道という意味合いと同時に、「サウンドトラック」など音楽に関係する言葉でもある。楽器と乗り物という、一見まったく関わりはないと思われる2つの企業が、共に思い描く理想の時間やシーンを象徴的に表現している。
両社のデザイン担当者が「大まじめに遊ぼう」と、バンドのセッションのように打ち合わせを重ねるなかで、このコンセプトは生まれてきた。そうした試みの背景には、もっと幅広い層に楽器(もしくは乗り物)に親しんでもらうためには何が求められているのかを探求する、という目的がある。
音楽業界に携わる人は「楽器は誰にとっても身近なもの」と当たり前のように思いがちだが、楽器に馴染みのない人にとっては、実は気軽に試してみようとする対象ではない、というのだ。楽器には「練習が必要」「難しそう」「時間がかかる」などのイメージが根強くあるからだ。
「手にしやすい楽器を開発するなら、和声法に則って演奏できる楽器という発想を変えればいい」
では、それを打ち破る革新は、どのようにしたら生み出せるのか。そんな発想から両社のデザイン部門の共演が始まった。しかし、デザインという視点から考えるとき、楽器に新たなデザインの可能性はあるのだろうか。そんな疑問を、あえてヤマハ発動機デザイン本部長の長屋明浩氏に投げかけてみたら、意外な答えが返ってきた。
「デザインの余地は無限にあると思います。それには和声という枠を越える必要があると思います。われわれも公道を走るバイクをデザインするときには道路交通法という法律に縛られていますが、公道ではないところを走行する乗り物をデザインするときには、もっと自由な発想でデザインできます。多くの人がやってみたいと思える楽器、手にしやすい楽器を開発するなら、和声法に則って演奏できる楽器という発想を変えればいいのだと思います」
お互いの専門分野にいるだけではとても思いつかない、あるいはとてもできない、ある意味では掟破りのような発想をもたなければ革新は生まれない。それは楽器やバイクに限ったことではなく、すべての物に共通するが、人間の豊かな感情にアクセスして共感を呼び起こす音楽と、風を感じて生きている実感を得られるバイクとは、「人の感動を掘り起こす」という同じ目的をもつものとして、良い影響を与え合う可能性があるのかもしれない。
「デザインから発想するからこそ辿り着ける大胆な革新」という試みに出会い、未来の楽器、未来の乗り物に思いを馳せた1日となった。次回の合同デザイン展では、どんな革新の可能性が提案されるのか。今から期待が高まっている。
関連する記事
-
AI×アンドロイド「オルタ3」の4社共同プロジェクト始動! 発表会にオペラの大野...
-
音楽との偶発的な出逢いの場を作る――音楽体験の新たな次元
-
今年の夏は天体ショー目白押し! 雄大な星空を眺めながら聴きたい音楽
ランキング
- Daily
- Monthly
関連する記事
ランキング
- Daily
- Monthly