レポート
2025.09.17
銀座で俊英たちが競演!

ヤマハ初の奨学生コンサートは華麗なる室内楽

国内外の音楽文化の発展に寄与するため、1999年から次代を担う逸材への支援を続けてきた、ヤマハ音楽振興会による「ヤマハ音楽支援制度/音楽奨学支援」。
2025年8月31日、奨学生コンサートを初開催しました。ピアノ、弦楽器、管楽器の奨学生たちが個性あふれる豊かな音楽を奏で、聴衆の熱い拍手に包まれたコンサートの模様をレポートします。

小倉多美子
小倉多美子 音楽学/編集・評論

武蔵野音楽大学音楽学学科卒業、同大大学院修了。現在、武蔵野音楽大学非常勤講師。『音楽芸術』、『ムジカノーヴァ』、NHK交響楽団『フィルハーモニー』の編集に携わる。『最...

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ヤマハ音楽奨学支援 奨学生コンサート 初開催

1999年にスタートし四半世紀余にわたり、国内外の音楽文化の発展に寄与するため、次代を担う逸材への支援を続けてきた、ヤマハ音楽振興会による「ヤマハ音楽支援制度/音楽奨学支援」。音楽奨学支援には毎年、国内外で研鑽を積む多くの学生から応募があり、選出されるのは5名前後。過去の奨学生に、成田達輝(ヴァイオリン)、阪田知樹(ピアノ)、務川慧悟(ピアノ)、辻彩奈(ヴァイオリン)、佐藤晴真(チェロ)、森田啓介(チェロ)等々、今や国内外で活躍するスターたちを輩出している。

2025年8月31日、満を持してヤマハ音楽振興会が奨学生によるコンサートを初開催。プログラミングが絶妙で、奏者も幅広い聴衆も心を躍らせるコンサートとなった。奨学生たちのデュオやアンサンブルによる知られざる名曲や特別編成ヴァージョンでのオーケストラ作品が組まれ、世界の檜舞台が待っている若き実力派たちによる夢の協演が繰り広げられた。

初の奨学生コンサートに出演した5名は、直近の2022~24年度に選出された気鋭の新進。そして、プロデューサーに指揮者・ピアニスト・古楽器奏者として活躍する大井駿(18年度奨学生)が、ピアノ演奏とトークに登場した。

カラフルな奨学生たち

今回出演の竹本百合子(ヴァイオリン/2024年度奨学生)、古澤香理(ヴァイオリン/2024年度奨学生)、児玉隼人(トランペット/2024年度奨学生)、水野魁政(ピアノ/2023年度奨学生)、嘉屋翔太(ピアノ/2022年度奨学生)を、曲間のトークや「活動リポート」も交えてご紹介しよう。

竹本百合子は、東京藝大附属音高、同大卒業後、ベルリン芸術大学大学院マスターソロ課程を今夏修了。ベルリンで学びながら、ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団のアカデミー生になり、契約団員としてツアーにも参加。ベルリンとミュンヘンを行き来した。

古澤香理は、桐朋女子高等学校音楽科、ベルリン芸術大学を卒業後、ベルリン・ハンスアイスラー音楽大学を卒業、秋からコンサートマスター課程で学ぶ予定。「ベルリンに来て8年になる」古澤は、ベルリン芸大では教授のアシスタントも務め、ベルリン・ドイツ交響楽団にエキストラで出演する経験も積み、「オーケストラや指導、ソロなど多様に成長していきたい」と抱負にあふれる。

写真左から、古澤香理(ヴァイオリン)、大井駿(ピアノ)、竹本百合子(ヴァイオリン)。マルティヌー:2本のヴァイオリンとピアノのためのソナタ

2009年生まれの児玉隼人は、24年日本管打楽器コンクール全部門で史上最年少で優勝。既に国内主要オーケストラとの共演も重ね、デビューアルバムもリリースした、まさにライジングスター。今春からドイツ・カールスルーエ音大に通い、「フランスやスペイン、スイスにも行きながら見聞を広げることもできている」と、ヤマハの支援を噛みしめている。

水野魁政は、東京音楽大学ピアノ演奏家コースを卒業後、「在学中に師事していたファルカシュ・ガーボル先生に誘われて」リスト音楽院に留学。修士、ソリスト・ディプロマ、室内楽の3つの課程を修了し、今年8月に帰国した。水野が音楽に道を絞ったのは意外に遅く、「空手(黒帯!)、書道と並び、ピアノは趣味の1つで、ピアノに集中したのは高2から」。

写真左から、水野魁政(ピアノ)、児玉隼人(トランペット)。J.S.バッハ:協奏曲 ニ長調 BWV972

嘉屋翔太は、開成中学・高等学校から東京音楽大学を特別特待奨学生として卒業。ウィーン国立音大でディプロマを得た短期留学はあり、フランツ・リスト国際ピアノコンクール第2位(最高位、21年)も得ているが、長期の留学の意図はなかったようだ。「スイスやドイツ、オランダ、ハンガリーなど様々な国で演奏できたことが刺激になった」とのこと。「誰にでも音楽は開かれているべき」と、独自のメソッドで嘉屋翔太ピアノ教室を主宰してもいる。

写真左から、嘉屋翔太(ピアノ)、水野魁政(ピアノ)。息の合ったラヴェル:ラ・ヴァルスに、聴衆も喝采した。

妙なるプログラミング

プログラムは、バッハがヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲をチェンバロ用に編曲したBWV972の協奏曲を児玉のピッコロトランペットと水野のピアノで開幕。丁寧なデュナーミクの起伏で彫琢した第1楽章、児玉の高い技巧性が炸裂した第3楽章で、一気に祝祭感が広がった。成熟した演奏で深い印象を残した竹本のビーバー「パッサカリア」に続き、古澤と嘉屋によるロマン派のシューマン「ヴァイオリン・ソナタ第2番」。抑制と豊かな感性を織り交ぜた嘉屋のピアノで、古澤が隅々まで艶のある音色を響かせた。バルトークがティリンコの味わいを託した《3つのチーク県の民謡》と、リスト「ハンガリー狂詩曲第15番」で、どんな難技巧も軽々と聴かせた水野。「ピアノ・ソナタ第2番」でヒンデミット独自の和声感やウィットを浮かび上がらせた嘉屋。

後半は、マルティヌーが新古典主義全盛のパリで作曲した華やかでユーモアあふれるソナタを古澤、竹本、大井で。竹本と古澤によるモーツァルトの「鏡のカノン」に続き、息の合った水野と嘉屋が喧騒の渦へと引き込んだラヴェル《ラ・ヴァルス》。最後を飾ったのが、全員でのガーシュウィン《ラプソディー・イン・ブルー》(ヤマハ奨学生出身の作曲家・横山未央子による特別編成編曲版)。5名でも響きのゴージャスさはさすがヤマハ奨学生の競演。児玉のジャジーなセンスも抜群で、拍手に沸いたラストとなった。

大井は「各奏者の個性が発揮される選曲をお願いしましたし、成果発表の枠を超え、コンサートとしても楽しめるプログラムを意図しました。今回の奨学生コンサートの強い特色としては、ヤマハの奨学生は少数精鋭で、なかなか一緒に演奏する機会の少ない楽器でもトッププレイヤー同士の自由闊達な意見交換を経て、すばらしい化学反応が生まれたこと。また、奨学生OGの方の編曲の力も得て、粒ぞろいの奏者全員で一緒に演奏できるプログラムをもち、貴重で有意義な場となったことではないでしょうか」と語った。

アンサンブルの楽しみの裾野を鮮やかに拡げたヤマハの奨学生コンサート。来年も開催される予定とのこと。次代を担う気鋭たちが、どんなプログラミングで競演するのか。今から楽しみだ。

音楽プロデューサーを務めた大井駿(写真左)と奨学生たち
公演データ
ヤマハ音楽奨学支援 奨学生コンサート

日時:2025年8月31日(日)15:30開演

会場:ヤマハホール

出演:竹本百合子(ヴァイオリン)、古澤香理(ヴァイオリン)、児玉隼人(トランペット)、水野魁政(ピアノ)、嘉屋翔太(ピアノ)、大井駿(本コンサート音楽プロデューサー)

曲目:

J.S.バッハ:協奏曲 ニ長調 BWV972

ビーバー:パッサカリア ト短調

シューマン:ヴァイオリンソナタ第2番 ニ短調 作品121より 第1楽章

バルトーク:3つのチーク県の民謡 BB45b

リスト:ハンガリー狂詩曲 S.244 第15番 イ短調「ラーコーツィ(ラコッツィ)行進曲」

ヒンデミット:ピアノソナタ 第2番 ト長調

マルティヌー:2本のヴァイオリンとピアノのためのソナタ H.213

モーツァルト:2本のヴァイオリンのための4つの鏡のカノン KV Anh.C10.16より 第1番

ラヴェル:ラ・ヴァルス

ガーシュウィン(横山未央子 編):ラプソディー・イン・ブルー

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小倉多美子
小倉多美子 音楽学/編集・評論

武蔵野音楽大学音楽学学科卒業、同大大学院修了。現在、武蔵野音楽大学非常勤講師。『音楽芸術』、『ムジカノーヴァ』、NHK交響楽団『フィルハーモニー』の編集に携わる。『最...

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