レポート
2023.07.28
8月25日(金)サントリーホール「湯浅譲二・作曲家のポートレート -アンテグラルから軌跡へ-」

作曲家・湯浅譲二を囲む記者懇談会から~前衛の大家、人生の総決算となる公演開催

林田直樹
林田直樹 音楽之友社社外メディアコーディネーター/音楽ジャーナリスト・評論家

1963年埼玉県生まれ。慶應義塾大学文学部を卒業、音楽之友社で楽譜・書籍・月刊誌「音楽の友」「レコード芸術」の編集を経て独立。オペラ、バレエから現代音楽やクロスオーバ...

撮影:池上直哉 提供:サントリーホール(記事内の写真すべて)

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今年94歳を迎えるレジェンドが姿をあらわす

去る7月5日、サントリーホールのブルーローズにて作曲家・湯浅譲二自らが出席しての記者懇談会が開かれた。今年8月12日の誕生日で94歳(1929年福島県郡山市生まれ)を迎える作曲家が公の席に姿をあらわす貴重な機会だったため、多くの音楽マスコミ関係者が参加した。

これは8月25日にサントリーホール大ホールでおこなわれる「湯浅譲二・作曲家のポートレート -アンテグラルから軌跡へ-」を踏まえたもので、指揮者で作曲家の杉山洋一も同席した。

 

記者懇談会に登壇した杉山洋一(左)、湯浅譲二(右)の各氏(7月5日・サントリーホール ブルーローズ)
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この懇談会では、若い頃の思い出話が多く語られた。

はじめ医学を勉強していたがそれをやめて作曲家を目指そうとしたときに、詩人の西脇順三郎に美学を学ぶようアドバイスされたこと。武満徹と一緒に仏文学者の佐藤朔のところに遊びに行ったこと。仏教哲学者の鈴木大拙の本を読んで多くを教えられたこと。ヴァレーズには会っていないがクセナキスは遊びに来てくれたこと。メシアンよりもジョリヴェのほうが自由な作曲という意味で好きだったこと――。

「メシアンは学者だから……」と湯浅さんが言われたとき、筆者がかつて取材した際に、湯浅さんが「アカデミズムの奴ら」という言葉を使って、反逆精神をギラッと見せたことを思い出した。

湯浅さんが1950年代に秋山邦晴や武満徹らとともに参加した「実験工房」(中心人物は詩人の瀧口修造)は、いわば反アカデミズムであり、多様なジャンルで前衛を志す芸術家たちの集まりであった。

最新作《オーケストラの軌跡》が全曲世界初演

NHK大河ドラマ『草燃える』やテレビ時代劇『木枯し紋次郎』、映画『お葬式』、さらには童謡《はしれちょうとっきゅう》など、幅広い分野で活躍し、電子音楽にも早くから積極的だった湯浅さんは、音楽の世界だけで音楽を考えようとしないこと、実験精神を忘れないこと、それが創作の根底に常にあることだった。

「若いときに新しい音楽を聴くとぞくぞくするし、うれしかった」と語る湯浅さんは、終始穏やかな表情を浮かべていた。孫やひ孫の世代の取材者たちからの尊敬のまなざしに囲まれて、とても温かい雰囲気の記者懇談会だった。

 

湯浅譲二 Joji Yuasa, Composer
1929年福島県郡山市生まれ。少年期より音楽活動に興味をおぼえ独学で作曲を始める。49年慶応大学教養学部医学部進学コースに入学。在学中より秋山邦晴、武満徹らと親交を結び、51年「実験工房」に参加、作曲に専念する。以来、オーケストラ、室内楽、合唱、劇場用音楽、インターメディア、電子音楽、コンピュータ音楽など、幅広い作曲活動を行なっており、国内はもとより、世界の主要オーケストラ、フェスティバルなどから多数の委嘱を受けている。
これまでにニューヨークのジャパン・ソサエティ、DAAD のベルリン芸術家計画、シドニーのニュー・サウス・ウェールズ音楽院、トロント大学など世界各国から招聘を受け、また、ハワイにおける今世紀の芸術祭、香港のアジア作曲家会議、英国文化振興会主催の現代音楽巡回演奏会、アムステルダムの作曲家講習会ほかに、ゲスト作曲家、講師として参加するなど、国際的に活動している。81年からカリフォルニア大学サン・ディエゴ校教授(現在名誉教授)を務め、日本大学芸術学部、東京音楽大学、桐朋学園大学などで後進の指導にあたる。97年、ヴァイオリン協奏曲により第28回サントリー音楽賞を受賞。98年より 2011年まで、「サントリーホール国際作曲委嘱シリーズ」のアーティスティック・ディレクターを務めている。10年国際現代音楽協会(ISCM)名誉会員に選ばれる。受賞:ベルリン芸術祭審査員特別賞(1961)、イタリア賞(1966・67)、サン・マルコ金獅子賞(1967)、尾高賞(1972・88・97・2003)、日本芸術祭賞(1973・83)、飛騨古川音楽賞大賞、京都音楽賞大賞(1995)、サントリー音楽賞(1996)、芸術選奨文部大臣賞(1997)、紫綬褒章(1997)、日本芸術院賞・恩賜賞(1999)、文化功労者(2014)

その中でも杉山洋一さんが湯浅さんの曲を「音のエネルギーの移動」「その追体験」という言葉を使って説明されたのは、とても強い説得力があった。

今回、メインの楽曲のひとつとして最後に演奏される最新作《オーケストラの軌跡》(サントリー芸術財団委嘱作品・全曲世界初演)は、「オーケストラでこんなことができるんだって、みんなをびっくりさせるような曲になる」ものとして構想されていたのだという。

8月25日のコンサートは、前衛の大家である作曲家・湯浅譲二の人生の総決算となる一夜となることだろう。

公演情報
湯浅譲二 作曲家のポートレート-アンテグラルから軌跡へ-

日時:2023年8月25日(金) 19:00開演
会場:サントリーホール 大ホール
出演:杉山洋一(指揮)東京都交響楽団
曲目

エドガー・ヴァレーズ:《アンテグラル(積分)》小オーケストラと打楽器のための
ヤニス・クセナキス:《ジョンシェ(藺草が茂る土地)』大オーケストラのための
湯浅譲二:《哀歌(エレジイ)》オーケストラのための[編曲世界初演]
湯浅譲二:《オーケストラの時の時》オーケストラのための
湯浅譲二:《オーケストラの軌跡》[全曲世界初演 サントリー芸術財団委嘱作品]
チケット:S 席 5,000 円 A 席 4,000 円 B 席 3,000 円 学生席 1,500 円
問合せ:サントリーホールチケットセンター 0570-55-0017(10:00~18:00、休館日を除く)
※学生券はサントリーホールチケットセンター(WEB・電話・窓口)のみ取り扱い。25 歳以下、来場時に学生証提示要。お一人様 1 枚限り。

 

詳細はこちら 

林田直樹
林田直樹 音楽之友社社外メディアコーディネーター/音楽ジャーナリスト・評論家

1963年埼玉県生まれ。慶應義塾大学文学部を卒業、音楽之友社で楽譜・書籍・月刊誌「音楽の友」「レコード芸術」の編集を経て独立。オペラ、バレエから現代音楽やクロスオーバ...

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