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2024.06.28
2024年の活動を紹介する記者会見から

舘野泉88歳の挑戦。インド・ブータン・ネパールへ演奏旅行、ノルドグレンの記念公演も

ONTOMO編集部
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東京・神楽坂にある音楽之友社を拠点に、Webマガジン「ONTOMO」の企画・取材・編集をしています。「音楽っていいなぁ、を毎日に。」を掲げ、やさしく・ふかく・おもしろ...

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6月27日、都内でピアニスト舘野泉の2024年の活動を紹介する記者会見が開かれた。

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フィンランドで出版された評伝の日本語翻訳版が発刊

まず6月28日に、『奇跡のピアニスト 舘野泉』の日本語翻訳版がみずいろブックスより出版。フィンランドの教会音楽家で、音楽に関する記事を多く執筆しているサリ・ラウティオ氏が約3年半をかけて、綿密な取材をもとに執筆した評伝で、昨年フィンランドで『ピアノのサムライ』のタイトルで出版されたものだ。

「アジアのまったく文化が異なる国から出てきたピアニストがどうやってこれまで活動をしてこられたかということを追跡している。ヨーロッパの人間からみた視点が面白いと思っています。僕はフィンランドに住んでいるから、北欧の音楽が得意だと思われることが多いけれど、それがずっと不満なんです(笑)。ムソルグスキーやヤナーチェク、プロコフィエフ、ショスタコーヴィチ、ストラヴィンスキー、ハチャトゥリアン、アルベニスや南米の作曲家などいろいろと弾いてきた。そのこともこの本にはよく書かれていますので、読んでいただきたいなあと思います」

舘野さんの膝上にあるのがフィンランドで出版された原書『ピアノのサムライ』

音楽を好きで求めている人たちのところへ行って弾くほうが面白い

9月には、インド、ブータン、ネパールへ演奏旅行を行なう。ネパールでは標高約1,400メートルの首都カトマンズ、ブータンでは国に2台しかないグランドピアノを使って特別支援教育を受ける子どもたちにも演奏を届ける。

「家内のマリアが亡くなって、親しくしている方から、これからいったい何を楽しみにやっていきますか、というようなことを尋ねられたときに、ネパールとブータンに行ってみたいと言ったんです。まさか行けるとは思っていなかったんですけど。僕は世界のどこへでも、音楽を好きで求めている人たちのところへ行って弾くほうが面白い。その土地のものを食べられるし、風土や歴史も見られる。だからこれまでもアジアのいろいろな国に行っているし、モンゴルではラヴェルの左手のコンチェルトを弾きました。モンゴルのオーケストラは日本では知られていないけれど、奏者がモスクワやサンクトペテルブルクで教育を受けているから、素晴らしくうまいんですよ。

インドには40年くらい前にフィンランド大使館のサポートで行ったことがあります。そのときはベートーヴェン『ピアノ・ソナタ第17番《テンペスト》』、ショパン『ピアノ・ソナタ第3番』、ムソルグスキー《展覧会の絵》を弾きました。これまで僕は、クラシック音楽があまり浸透していない国でも、質の高い音楽を演るのが本当ではないかと思ってやってきました。今回は、特別支援教育の学校の生徒も参加するときいているので、もう少し規模の小さい曲をうまく配列してプログラムに入れるのもいいかなと思っています。例えば吉松隆さんの『3つの聖歌』、光永浩一郎さんの《サムライ》も候補の一つです」

生誕80年の記念コンサートを開くノルドグレンとの思い出

9月20日には、フィンランドを代表する作曲家のひとり、故ノルドグレン(1944-2008)の生誕80年を記念して、旧東京音楽学校奏楽堂で音楽仲間と記念コンサートを開く。ノルドグレンは舘野との親交が深く、「小泉八雲の怪談によるバラード」(全10曲)、ピアノ協奏曲3曲、「小泉八雲の怪談によるバラードⅡ」などのピアノ作品はすべて、舘野に捧げられている。

「彼とは、フィンランドのラジオ・オーケストラと矢代秋雄のピアノ協奏曲を演った時に、曲目解説をプログラムに書くので話を聞きたいと言われて会ったのが最初です。そのときはとても内気な様子で、大丈夫かなと思っていたら、曲をまるでレーザー光線で透視するかのような素晴らしい文章が出来てきて感激しました。

彼が1970~73年に東京藝術大学に留学していたときにもずいぶん会って、ピアノ曲を書いてくれないかと頼んだけれど、ピアノのことをあまり知らないし、全然弾けないし、できないと言われて。あるとき2人で東京から大阪まで新幹線で旅をしたときに、食堂車で食べて飲んで話しているうちにお酒の調子があがってきて、とうとうピアノ曲を書いてくれることになったんです。そうしてできたのが『小泉八雲の「怪談」によるバラード 《耳なし芳一》』だった。小泉八雲の怪談を英語で初めて読んだときに『耳なし芳一』の印象があまりに強烈で、その受けた印象を書きたかったとのことでした。仙台で初演したら、その素晴らしさにみんながびっくりして、レコード会社から録音したいと言ってきた。ダイレクトカッティングだったので大変でしたが、素晴らしい出来になりました。その後7、8年かかったけれど、『小泉八雲の「怪談」によるバラード』全10曲のシリーズを作って、全曲録音もして、欧米でも演奏してきました。

僕が左手のピアニストになったときには、また『怪談』で作ってみようということになって、『小泉八雲の怪談による3つのバラードⅡ』を書いてくれたんです。これがまた、すごく力のある音楽で……。ほんとうに音楽を、ずーっと一緒に書き続けてくれました」

会見の中で、光永浩一郎《海と沈黙》、「小泉八雲の怪談による3つのバラードⅡ」から《振袖火事》が演奏された(6月28日、スタインウェイ&サンズ東京)

バースデー・コンサートで邦楽器との共演に挑戦

11月4日には、東京文化会館小ホールでバースデー・コンサートを開く。今年も3つの委嘱新曲を予定。今回の目玉は、平野一郎作曲による「左手ピアノと雅楽による《水夢譚》」で、左手ピアノに加えて、笙や尺八、琵琶など日本の伝統的な楽器が取り入れられる。

「邦楽といっても、使われる楽器は最初から日本にあったのではなくて、インドやシルクロードから日本に伝わってきたものですね。ピアノ=洋琴を弾く舘野泉という者も新しい新参者として、日本にすでに何百年も前に伝わってきた楽器と一緒に演奏するというプロットなんです。だから、楽器どうしが融合するのかも反発するのかもまだ分からない。多分9月くらいには曲ができてくると思うんだけれど。長さも分かっていなくて、40分くらいになるかもしれない。どういうものが出てくるか、楽しみにしていてください」

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東京・神楽坂にある音楽之友社を拠点に、Webマガジン「ONTOMO」の企画・取材・編集をしています。「音楽っていいなぁ、を毎日に。」を掲げ、やさしく・ふかく・おもしろ...

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