写真術が普及して数十年が過ぎていた当時、同世代のアルフレッド・スティーグリッツやロベール・ドゥマシーらとともに、芸術性ある写真表現を追求、印象派や象徴主義の絵画にも通じる美術表現を体現したキューンの活動は、同じオーストリア=ハンガリー二重君主国にあって国際的な活躍をみせました。それは、古くからある交響曲という分野に新境地をもたらした指揮者/作曲家マーラーのそれと重なる部分も多いように感じられます。

数ある彼の作品から、演奏作品の内容にもよく合った、チロル地方の丘の景色を撮ったこの1枚を選んだharmonia mundi franceの制作陣、改めてセンス溢れる仕事ですね。

じっくり手元でこの絵図を眺めながら、改めて、マーラーと同時代人の人たちが初めて作品に接したときの瑞々しい驚きに思いを馳せてみたいものです。

マーラー:交響曲第4番
今回のCD
マーラー:交響曲第4番

フランソワ=グザヴィエ・ロト指揮 レ・シエクル管弦楽団(古楽器使用)

ザビーヌ・ドヴィエル(ソプラノ)

harmonia mundi france(フランス)2022年9月3日

HMM905357(原盤)/KKC6565(日本語解説添付版)

白沢達生
白沢達生 翻訳家・音楽ライター

英文学専攻をへて青山学院大学大学院で西洋美術史を専攻(研究領域は「19世紀フランスにおける17世紀オランダ絵画の評価変遷」)。音楽雑誌編集をへて輸入販売に携わり、仏・...