——舞台では凄腕のギャンブラー・スカイと恋に落ちる、生真面目で純情なサラ役。宝塚では男役だった明日海さんにとって初めてのヒロイン役ですが、決まったときのお気持ちは?
明日海 サラについては本当に私でいいのか、何かの間違いじゃないのか、という気持ちでした(笑)。私にとってこの役は、宝塚のトップ娘役のイメージなんです。最初に宝塚の舞台で映美くららさんが演じるサラを見たのですが、もうサイズ感からして守りたくなるような感じでした。舞台で真面目なサラがお酒を飲んでパーッとはじけるシーンとか、すごく可愛らしかった。
ただ、サラの一生懸命なところは自分と似ている気がするんです。稽古場では「一生懸命なサラの姿が明日海さんと重なるね!」と言われるくらい頑張りたいと思います。
——踊り子のアデレイド役を、宝塚時代に明日海さんと同期で元雪組トップだった望海風斗さんが演じることも、大きな話題ですね。
明日海 キャストが発表されるまで、誰が何の役かは知らなったので、あとで聞いたときはびっくりしました! やっぱり知ってる人がいるのはすごく安心します。望海とは退団後にも一度『エリザベート』のガラコンサートで会ったんですけど、こんなに早く共演できるとは思っていなかったので、楽しみですね。
でも、舞台で2人とも女性の役で対面するのが全然想像がつかなくて……(笑)。ご覧いただく方には物語にのめりこんで観てもらわないといけないので、最初はお互い慣れないと思いますが、素敵な舞台になるように励みます。
——サラが恋に落ちるスカイを演じる井上芳雄さんの印象は?
明日海 井上さんを生で初めて見たのは『ミス・サイゴン』でした。それ以降も『モーツァルト!』のヴォルフガングや、『シャボン玉とんだ 宇宙(ソラ)までとんだ』『リトルプリンス』なども見させていただき、長身で甘いマスクで声がよく通る、ミュージカル界のプリンスそのものだなと思いましたね。
初めて生で歌を聴いたときは、歌うことの喜びや役になりきったエネルギーが、人の何十倍もキラキラしている感じがしました。目の輝きと歌いだす前の「ブレス」だけでパーッと人の心を掴んで、曲の世界が広がって。ミュージカル界で第一線を走ってきた方が持つ、人を虜にする説得力を目の当たりにしました。
——『ガイズ&ドールズ』は名曲揃いの作品ですが、特に聴かせどころの歌は?
明日海 デュエットソングの「初めて知る想い」は、私にとって芳雄さんの美声を間近で聴ける、とても贅沢な曲です。すごく甘いラブソングなのですが、井上さんが演じるスカイは素敵なので、サラとして心が動くままに演じればいいんだろうなと今は思っています。あと、サラの素直な心や初めての恋で高まるトキメキを表現するには、気持ちだけではなく歌の技術も必要。それは心して稽古したいと思います。
『ガイズ&ドールズ』より「初めて知る想い」
——次に明日海さんがお好きな楽曲について教えてください。音楽を好きになったのはいつ頃ですか?
明日海 子どもの頃は田舎で暮らしていたので、お稽古事に行くまでの2~30分のドライブの間、よく音楽を聴いていました。母がクラシックを好きだったので、Jポップ以外にも、ヴィヴァルディの《四季》は「春」「夏」「秋」「冬」をずっと聴いていましたね。中学生くらいからショパンが好きになって、成長してちょっとひねくれてくると(笑)、スメタナの「モルダウ」やラフマニノフなどを聴いていました。
——今も音楽はよく聴かれますか?
明日海 私は周囲に影響されやすいほうで、悲しい曲を聴くとセンチメンタルな気分になるし、ノリノリの曲
昔も今も大好きなのは、ダ・カーポさんの「野に咲く花のように」。子どもの頃、祖母が家の離れにカラオケを置いていたので、近所の人たちとよくカラオケで歌っていたんです。当時テレビで見ていたドラマ『裸の大将』の主題歌で、歌詞がすごく優しくて。今もお風呂で歌うんですよ。
ダ・カーポ「野に咲く花のように」
明日海 クラシックだとドビュッシーの「月の光」とベートーヴェンのピアノ・ソナタ第14番《月光》。「月の光」は繊細で美しいし、《月光》は重めですが、どちらも情感に訴えてきて、曲の持つ世界観に惹かれます。
ドビュッシー:《ベルガマスク組曲》より「月の光」、ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第14番《月光》
——宝塚時代は花組トップスターとして、『ポーの一族』など数々の舞台で多くのファンを魅了されましたが、思い出の楽曲はありますか?
明日海 そうですね……宝塚には少し独特なところがあり、タカラジェンヌが自分たちを称えたり、劇団を称えたりする歌が多いんですよ。「私は~夢を売る、フェアリー」とか(笑)。私は宝塚が大好きで入団したので、これらの曲は聴くだけでテンションがあがります!
ほかにも「清く正しく美しく」という歌を聴くと、今も身が引き締まって背筋が伸びますし、「この愛よ永遠に(TAKARAZUKA FOREVER)」は前奏がかかっただけで、タカラジェンヌなら誰もが踊りだしたくなります。
明日海さん出演の花組公演『ポーの一族』舞台映像
——在団中は『エリザベート』『ロミオとジュリエット』『スカーレット・ピンパーネル』など、海外ミュージカルにも多く出演されて、艶のあるクリアな歌声が素敵でした。歌への想いを聞かせてください。
明日海 宝塚に入った頃は大きな声も出ませんでしたし、そもそも人前で歌うことが恥ずかしくて、気持ちを表現するときはバレエやマイムの方が多かったですね。「歌は苦手」というコンプレックスがあったんです。そこから芝居が好きになれて、「芝居心を利用して歌も上手なりたい」という気持ちが芽生え、歌で心を伝えるためには技術も必要になってきて。歌はすごく遠回りして、やっと好きになった気がします。
今はこういう仕事についたので、どんな方の歌でも「こういう骨格だからこんな声がでるんだな」とか「マイクの距離はこんな感じなんだ」とか、つい研究しながら聴いてしまいますね。だからこそ、テクニックを感じさせずに心を掴むような方に、より感動してしまいます。
——心に残る歌声のアーティストはいますか?
明日海 最近だと土居裕子さん! もちろんテクニックもすごいのですが、それを超えたエネルギーを感じたんです。土居さんの心の底にあるものを観ることができたとき、とてつもないギフトをいただいた気持ちになりました
——明日海さんにとって音楽とはどんな存在でしょうか?
明日海 常に私たちの周りにあって、人の気持ちと共にあるもの。ミュージカルでお芝居しているときは、BGMになってお客様の心を掻き立て、感情をすごく高いところにまで誘導してくれたりします。人の心に一番近いところにあるものなのかなと思いますね。
——最後に『ガイズ&ドールズ』をご覧になる方へのメッセージを。
明日海 この作品にはまったく悪い人が出てきません(笑)。愛しいキャラクターばかりが登場して、口ずさんで帰れるようなナンバーがばかりのミュージカルです。今のこのご時世に、満たされた気持ちになって頂くのにピッタリの作品ですので、ぜひ見に来てください。
日時: 2020年6月9日(木)~7月9日(土)
会場: 帝国劇場
出演: 井上芳雄、明日海りお、浦井健治、望海風斗、田代万里生、竹内將人、木内健人、友石竜也、瀬下尚人、未沙のえる、林アキラ、石井一孝、ほか
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