レコードプレーヤー解剖 仕組みと使い方を知ってレコードを存分に楽しもう
好きな音楽を好きな音で、お金をかけずに楽しみたい――そんな贅沢な願いにオーディオ暦40年の筆者が応えます。実はたった1つのアイテムからでもスタートできるオーディオ道を、ゆっくり気ままに歩いてみませんか?
じつはレコードプレーヤーはとてもシンプル
昔、小学館の学年誌の付録でソノシートとボール紙で組み立てるレコードプレーヤーが付いてきたことがありました。
ソノシートはペラペラで透明の塩化ビニールでできたレコードで、本に挟んでも厚みが出ないため雑誌の付録によく使われていました。
プレーヤーの構造はよく覚えていないのですが、レコード針の代わりに画鋲が使われていたのを覚えています。ソノシートに画鋲の針を当てて、ソノシートを手で回すとちゃんと曲が流れました。画鋲が振動して音が出ているだけなので、それほど大きな音は出ませんが、ちゃんと聞こえるのです。
じつは前回ご紹介したレコードプレーヤーも、仕組みはこれと大差ありません。
もちろん電気で動くので、モーターが入っていたり、レコード針はダイヤモンドだったり、針の信号は電気信号として出力されたりと、凝った仕掛けにはなっていますが、実はレコードはとてもシンプルなメディアなのです。
各部分の名称
さて、これからレコードプレーヤーの仕組みについて説明していきますが、その前に各部分の名称を簡単に示していきます。
今回はオーディオテクニカのAT-LP60XBTを例に取りますが、このクラスのフルオートプレーヤーは大体同じ構造になっています。
まず、レコードを載せて回転する円盤は「ターンテーブル」や「プラッター」と呼びます。ただ、「ターンテーブル」はこの円盤そのものを指すこともあれば、円盤の下に組み込まれたモーターなどを回転させるための機構全体を指すこともあるので、この記事では以降「プラッター」に統一します。
本体の中央には、レコードの穴に差し込む「スピンドル」という突起が付いています。
また、プラッターはたいてい金属でできているため、レコード盤を保護したり振動を遮断するために、LPレコードとほぼ同じ大きさの「(ターンテーブル)シート」を置きます。
シートの材質はゴム、革、フェルトなど様々で、付属のものを使ったり、音の好みやデザインで選んでもOKです。
右側の棒のようなパーツは「トーンアーム」と呼びます。トーンアームの先には「レコード針」が付いています。
レコードは塩化ビニールでできた円盤に、外側から内側に向かって溝が刻まれています。この溝は断面がV字になっていて、V字の左右の壁に凹凸(山と谷)があります。
回転している円盤に「レコード針」を「落とす」と、針先が凹凸に当たって振動します。この振動を電気信号に換えると、そのまま音声信号になっている、という仕組みです。
プラッターを回転させる方法はふたつ
言うまでもなく、プラッターはモーターで回転させます。その方法はいくつかあるのですが、現在でもメジャーな方法はふたつだけです。
モーターが直接プラッターを回転させる「ダイレクト・ドライブ」と、モーターとプラッターをベルトで繋ぐ「ベルト・ドライブ」です。
モーターの振動がそのままレコードに伝わりやすいダイレクト・ドライブは、精度の高いモーターや高度な制御が必要です。そのため高額になりがちなので、ちょっと高めのレコードプレーヤーに採用されています。
一方ベルト・ドライブは、モーターの振動をベルトが吸収してくれるので、高性能なレコードプレーヤーを比較的簡単に作れます。そのため安価なレコードプレーヤーに多い方式です。
ただしヨーロッパの高級プレーヤーも多く採用しているので、ベルト・ドライブ=安物、というわけではありません。
そして、今回例として取り上げるプレーヤーAT-LP60XBTも、ベルト・ドライブになります。
レコードプレーヤーの使い方
AT-LP60XBTを最初に箱から出すと、プラッターは取り外されて梱包されています。むき出しの本体はこんな感じです。
中央にスピンドルがあって、その奥に白い大きめの歯車があります。この歯車はトーンアームを動かすためのもの。
AT-LP60XBTは、ボタンひとつで自動的にレコードの始めに針を落としてくれて、終わるとトーンアームが自動で元の位置に戻って回転が止まる、フルオートプレーヤーです。
歯車はそのための仕掛けで、自分で針を落として自分で止めるマニュアル式のプレーヤーには、こうした仕掛けはありません。
スピンドルから10時くらいの方向にある金色のコマのような部品(プーリーと言います)、これがモーターの回転する軸になります。
次にプラッターを袋から取り出します。AT-LP60XBTのプラッターは、最初からベルトが取り付けてありました。このベルトの一部を先ほどのプーリーに引っ掛けることで、モーターの回転がプラッターに伝わるようになります。
プラッターに密着しているベルトをプーリーに引っ掛けやすいように、予めリボンが挟んであるのが親切ですね。
最後にシートをのせればほぼ完成。あとはダストカバー(レコードプレーヤーを覆う透明の蓋)を取り付けるだけですが、なくてもホコリが溜まりやすくなるくらいで支障はありません。ダストカバーがないレコードプレーヤーも多いです。
どんな組み合わせで聴くか
このAT-LP60XBTでは、音声の出力は、「LINE」「PHONO」そして「Bluetooth」が選べます。Bluetoothに関しては前回もご紹介しましたので、今回は「LINE」と「PHONO」について説明します。
レコードプレーヤーは普通、単体では音が出ません。レコードプレーヤーをアンプに繋いで、アンプに接続したスピーカーから音を出します。
つまり、アンプとスピーカーは別に用意しなくてはいけません。このアンプの種類によって、「LINE」と「PHONO」を選ぶことになるのです。
まず、レコード針で拾ったレコードに刻まれた音は、針の振動を電気信号に変換して出力されます。この信号、もともとが小さな針の振動ですので、信号の電圧も微小です。
例えばCDプレーヤーなどの信号は普通2V程度ですが、比較的出力電圧が高いと言われているオーディオテクニカのVMカートリッジでも、3.5mV程度とものすごく小さいのです。
また、レコードは溝の凹凸で音を記録するものです。つまり大きな音、とくに重低音になると溝の凹凸が大きくなってしまい、隣の溝に当ってしまいかねません。
そこで、あらかじめ記録するときには低音を小さくして溝を刻み、再生するときに低音を大きくするという特殊な処理をしています(信号の電圧を上げたり低音を大きくするのが、前回触れた「フォノイコライザー」の役割です)。
そのため、レコードが一般的だった時代のアンプはフォノイコライザーを内蔵し「PHONO入力」というレコードプレーヤー専用の入力端子が用意されていました。
いまでも本格的なアンプには、PHONO入力があるものがほとんどです。ただ、入門者向けのアンプやデジタル・アンプなどは、PHONO入力がないタイプも多いのです。
AT-LP60XBTはフォノイコライザーを内蔵しているため、「LINE」に切り替えればPHONO入力のないアンプにも繋ぐことができます。一方、アンプ側にPHONO入力があったり、単体のフォノイコライザーを使いたい場合は、「PHONO」に切り替えればOKです。
さて、AT-LP60XBTを組み立てて、アンプとスピーカーを繋ぎます。あとは付属のACアダプターを繋げば準備完了です。
かけたいレコードの穴をスピンドルにはめてプラッターに置き、レコードに指定されている「SPEED」に回転数を切り替えて(LPは「33」、EPと12インチシングルは「45」)、「SIZE」をレコードの大きさに切り替えます(LPと12インチシングルは「12″」、EPは「7″」)。あとは「START」を押すだけ。演奏が終われば自動で止まりますが、途中で止めたいときは「STOP」を押します。
このあたりの操作方法は、他のフルオート式のレコードプレーヤーでもほぼ同じ。じつに簡単です。
一番の違いはトーンアーム
いかがでしたか。これでレコードが思う存分楽しめますね。
ただ、いずれ「もう少し良いレコードプレーヤーを」と思うときがくるかもしれません。中級以上のモデルが今回のような入門機ともっとも違う点は、自分の好きなレコード針に交換できることです(正確には、レコード針と発電ユニットを内蔵する「カートリッジ」を交換します)。
ただしカートリッジは、重さも大きさも、レコード針にかかる重さ=「針圧」もまちまちです。こうしたいろいろなカートリッジに対応するため、中級機以上のトーンアームはけっこう複雑で、面倒な調整も必要です。
ただ逆に言うと、中級機と入門機の違いはカートリッジが交換できることだけと言ってよいかもしれません。もちろん中級機のほうがターンテーブルの回転力やトーンアームの精度は上がるのですが、正直に言って入門機でも十分な性能があります。
幸いAT-LP60XBTに取り付けられているレコード針は、非常に高性能。実際に普段使っているシステムと組み合わせてみても、まったく不満がありません。むしろ操作が簡単なので、ついつい普段よりもレコードを聴いてしまいました。
そう、レコードプレーヤーはあくまでレコードを聴く道具です。まずはレコードの楽しさを存分に味わって、プレーヤーが壊れるくらい使い倒しちゃいましょう。
そのうちにレコードプレーヤーのステップアップについても取り上げますので、お楽しみに。
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