
没後20年記念——生涯現役だった“ゴジラの作曲家”伊福部昭

日本の民族性を追求し、『ゴジラ』をはじめ300本以上の映画を音楽で支えた作曲家として知られる伊福部昭。元・東京音楽大学学長を務めるなど音楽教育者としても知られる伊福部の生涯を、没後20年に辿ります。

1963年埼玉県生まれ。慶應義塾大学文学部を卒業、音楽之友社で楽譜・書籍・月刊誌「音楽の友」「レコード芸術」の編集を経て独立。オペラ、バレエから現代音楽やクロスオーバ...
伊福部作品の本質を象徴する「ゴジラ」
「これは、とてつもない作曲家だったんだ……」
1991年12月13日、府中の森芸術劇場でおこなわれた「伊福部昭喜寿記念コンサート」を取材したときのこと。
黛敏郎、石井真木、芥川也寸志、三木稔らそうそうたる作曲家たちがずらりと並び、「門下生」として伊福部昭のことを「先生、先生」と崇め奉る様子は、いまも目に焼き付いている。
コンサートの最後に、映画音楽を手がけた『ゴジラ』にちなんで本物のゴジラの着ぐるみが登場した。当時編集者だった私は、『音楽の友』の誌面のために、終演後ステージ上の指揮台でゴジラと伊福部のツーショット写真を撮影した。
そのときの伊福部は指揮を終えたばかりだったので、全身汗でびっしょりだった。当日集まっていた著名作曲家たちの誰よりも腰が低く、見知らぬ若い編集者に対しても、とても丁寧な態度だったのが印象に残っている。
伊福部昭というと、やはり「ゴジラの音楽を書いた人」というのが一般的なイメージだが、本人はそれを決して否定しなかった。むしろ自身の音楽の本質を象徴する存在としてゴジラを大切に考えていた。だからツーショット写真にも喜んで応じた。
放射能を口から吐く巨大な怪獣ゴジラは、戦後日本が復興して作り上げた都市を破壊する。それは人間が自然を支配できると思い上がった現代の科学や文明のあり方に対する、汚染された自然界からの復讐でもある。
音楽的ルーツとなったアイヌ文化
1914年、北海道の釧路に生まれた伊福部昭は、網走や札幌を転々とし、十勝の音更町で少年時代を過ごす。そこでアイヌの文化に親しく接したことが音楽的な原点にもなっている。
スペインのファリャ、ロシアのストラヴィンスキーのように、その国の民族的伝統に根ざしながら、新しい音楽を創造しようという、広い意味での民族音楽楽派の流れの中で伊福部の音楽をとらえることもできるだろう。
伊福部がアイヌとの接点をルーツとしながらも、日本の国境をはるかに越えて北方にも南方にも広がっていくようなアジア的スケールを持っていることは重要である。中央ではなく、周縁にこそ目を向けさせてくれるのだ。
1930年代、まだ20代だった伊福部が作曲した《日本狂詩曲》《土俗的三連画》《シンフォニア・タプカーラ》には、ほかの誰でもない伊福部だけにしかない世界観や独自の響きやリズムの感覚が、すでに確立されていたことは驚きである。
そこには寒冷な自然とともに暮らす人々の生活感があり、額に汗して働く人々の哀歓がある。遠い過去からの営みがある。
伊福部の音楽の特徴として、よく挙げられるのが「オスティナート」である。つまり、一定のリズムのパターンが執拗に繰り返されるのだ。それは大地に生きる者たちのたくましさと密接につながっており、先史時代から続いてきた神事の舞踊や労働歌を彷彿とさせる。
伊福部の音楽に急速に脚光が当たるようになったのは、1995年からキングレコードによって開始された『伊福部昭の芸術』シリーズのレコーディングが大ヒットしたことがきっかけである。
広上淳一指揮・日本フィルによるセッション録音に作曲者自らが立ち会い、監修者として参加したこのシリーズは、初期の管弦楽作品に始まり、舞踊音楽《サロメ》や《SF交響ファンタジー》へと作曲の歩みを追うもので、このCDによってどれほど多くのファンが伊福部作品の魅力に目覚めたことか、その功績は計り知れないものがある。
日本近代音楽全般に対するクラシック音楽ファンの関心の高まりも、これが契機となったことは間違いない。
やがて折に触れてのライブ録音も加わって、『伊福部昭の芸術』シリーズは2006年に作曲家が亡くなった後も、若い世代の演奏家たちの手によって継承される名シリーズとして現在も継続中である。
伊福部作品の名盤紹介
『譚 伊福部昭の芸術1 初期管弦楽』
《日本狂詩曲》に描かれる夜の祭りのイメージのなんと抒情的でノスタルジックなことだろう。小さな村の情景のような《土俗的三連画》、エネルギッシュな《交響譚詩》、いま聴いても決して飽きることのない名作ばかりを初期から書いていたのは驚きである。1995年録音。
広上淳一指揮・日本フィル
KICC175 キングレコード
『これが伊福部昭だ!』
『伊福部昭の芸術』シリーズからのコンピレーション・アルバム。ゴジラの足音と鳴き声も含まれており、選曲のバランスもいい。《SF交響ファンタジー第1番》、《管弦楽のための「日本組曲」》、《交響譚詩》、《舞踊音楽「サロメ」》より〈7つのヴェールの踊り〉、《シンフォニア・タプカーラ》第3楽章など。2014年発売。
広上淳一、本名徹次指揮・日本フィル 石井真木指揮・新交響楽団
KICC-1130 キングレコード
『易 伊福部昭の芸術13 ピアニズムの深淵』
《リトミカ・オスティナータ》(1961/69/71)での外山啓介と広上淳一・指揮札響の繰り広げる熱気あふれるライヴには目を見張らされる。わらべ歌を中心としたシンプルな《子供のためのリズム遊び》、シンフォニックな世界を凝縮した《ピアノ組曲》を、松田が美しく弾いているセッション録音も聴き応えがある。2025年録音。
松田華音(ピアノ)、外山啓介(ピアノ)、広上淳一指揮・札幌交響楽団
KICC-1629 キングレコード
― N響100年特別企画「邦人作曲家シリーズ」 ―
2026年4月24日(金) 19:00開演
NHKホール
伊福部昭:交響譚詩 他
2026年7月4日(土) 14:00開演
すみだトリフォニーホール 大ホール
伊福部昭:ヴァイオリンと管絃楽のための協奏風狂詩曲(ヴァイオリン協奏曲第1番)他
2026年11月3日(火)14:00開演
杉並公会堂 大ホール
伊福部昭/編纂:和田薫:宇宙大戦争マーチ
伊福部昭/編纂:和田薫:ゴジラ(1954)
伊福部昭/編纂:和田薫:《SF交響ファンタジー第1番》より“宇宙大戦争~怪獣総進撃マーチ” 他
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