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2021.10.13
音楽ファンのためのミュージカル教室 第19回 10月の特集「映画と音楽」

バレエ的なダンスも圧巻!ガーシュウィンの名曲が散りばめられた『パリのアメリカ人』

音楽の観点からミュージカルの魅力に迫る連載「音楽ファンのためのミュージカル教室」。
第19回は、ガーシュウィンの名曲「パリのアメリカ人」をフィーチャーした同名のミュージカル作品を深堀り! ガーシュウィンのミュージカル音楽全般について、そして、2021年10月15日(金)から松竹ブロードウェイシネマで上映される『パリのアメリカ人』の見どころと聴きどころを解説します。

山田治生
山田治生 音楽評論家

1964年京都市生まれ。1987年、慶應義塾大学経済学部卒業。1990年から音楽に関する執筆活動を行う。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人 -ある日本人指揮者の...

松竹ブロードウェイシネマ『パリのアメリカ人』を代表するダンス・シーン。ⒸAngela Sterling

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元来はミュージカル作曲家として次々にヒット作を生み出したガーシュウィン

ジョージ・ガーシュウィン(1898~1937)は、「アイ・ガット・リズム」、「バット・ノット・フォー・ミー」、「私の彼氏」、「ス・ワンダフル」、「やさしい伴侶を」などのジャズのスタンダート・ナンバーが知られているが、今挙げた歌はすべて、もともとはミュージカルのナンバーとして書かれたものである。ミュージカルのなかで歌われて人気を博し、いつのまにかスタンダード・ナンバーへとなっていったのである。つまり、ガーシュウィンは、ジャズの作曲家ではなく、ブロードウェイのミュージカル作曲家であった。

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ジョージ・ガーシュウィン(1898~1937)
ニューヨークのブルックリンに生まれ、13歳でピアノと和声を習い始める。1919年に歌曲「スワニー」が人気歌手に気に入られたのをきっかけに、ソングライターとして活躍。管弦楽法は独学で学び、1924年には《ラプソディ・イン・ブルー》を作曲し、ジャズとクラシックを融合させた「シンフォニック・ジャズ」として成功を収める。

ちなみに、「アイ・ガット・リズム」と「バット・ノット・フォー・ミー」はミュージカル『ガール・クレイジー』(1930)、「私の彼氏」はミュージカル『レイディ、ビー・グッド』(1924)、「ス・ワンダフル」はミュージカル『ファニー・フェイス』(1927)、「やさしい伴侶を」はミュージカル『オー、ケイ』(1926)のために書かれた。

そのほか、ガーシュウィンは、超人気ダンサーのフレッド・アステアのミュージカル映画『踊らん哉(Shall We Dance)』の音楽も担った。そして映画のなかで歌われた「誰にも奪えぬこの思い」もスタンダード・ナンバーとなった。

映画『踊らん哉(Shall We Dance)』サウンドトラック

ガーシュウィンのナンバーとミュージカルの相性はすこぶる良い。それが本来の姿であるから当然である。『クレージー・フォー・ユー』(1992)のように、ガーシュウィンの没後、彼の過去のミュージカル(『ガール・クレイジー』)を基にして新たに作り上げられたブロードウェイ・ミュージカルもある。

映画では、1951年に、ガーシュウィンの音楽を用いて、『巴里のアメリカ人』と題するミュージカル映画が作られた。『踊る大紐育』などの映画で人気のあったジーン・ケリーが主役ジェリーを務め、新人であったレスリー・キャロンが相手役リズを演じた。そしてガーシュウィンと親交のあったピアニストのオスカー・レヴァントがピアニスト、アダム役で出演しているのも、音楽ファンなら見逃せない。

1951年製作の映画『巴里のアメリカ人』サウンドトラック

舞台版ではバレエが見どころとなり、名ダンサーたちが活躍

今回上映されるロス・マッギボン監督の映画『パリのアメリカ人』は、1951年の映画『巴里のアメリカ人』を原作として作られた舞台作品(2014)を映像に収めたものである。

2014年に制作された、クリストファー・ウィールドン演出・振付のミュージカル『パリのアメリカ人』は、1951年版の大枠を残しながらも、ストーリーでも、ガーシュウィンの楽曲の選択でも、かなりの変更がなされている。

最大の変更は、見どころの中心が、タップ・ダンスからバレエ的なダンスになっているところではないだろうか。1951年版ではタップで人気のあったジーン・ケリーが主役を務め、今回の2018年版では、ニューヨーク・シティ・バレエのプリンシパルであったロバート・フェアチャイルドが主役を演じている。

ロバート・フェアチャイルド演じるジェリー。
ⒸAngela Sterling

舞台版『パリのアメリカ人』は、2014年12月、パリのシャトレ座で初演され、2015年4月にブロードウェイのパレス劇場で開幕した。

演出・振付のウィールドンは、イギリス出身(1973年生まれ)で、英国ロイヤル・バレエを経てニューヨーク・シティ・バレエでダンサーとして活躍したが、振付家としての才能を花開かせ、2000年にダンサーを引退。ニューヨーク・シティ・バレエの座付きの振付家を経て、現在は、世界的な振付家として活躍している。『パリのアメリカ人』は彼にとって初めてのミュージカル演出作品であった。

ブロードウェイでのプロダクションは、ロバート・フェアチャイルドが主演男優賞、ウィールドンが振付賞など、4部門でトニー賞を受賞した。日本では2019年1月から劇団四季が上演した。

大戦後のパリで夢見る青年たちが恋に落ちる

今回の映画『パリのアメリカ人』は、2018年、ロンドンのドミニオン劇場での上演を撮影したものである。ブロードウェイでトニー賞を受賞したフェアチャイルドがここでもジェリーを演じている。男たちが恋するリズを演じるリャーン・コープは英国ロイヤル・バレエ出身。

松竹ブロードウェイシネマ『パリのアメリカ人』予告編

舞台は、第二次世界大戦終了直後、1945年のパリ。ナチス・ドイツから解放されたパリは自由を取り戻しつつある。

ジェリー・マリガンは、アメリカの退役軍人でありながら、画家を志し、パリにとどまっている。ユダヤ系アメリカ人作曲家、アダム・ホックバーグは、カフェでピアノを弾く。ジェリーも、ミュージカル・スターを夢見るフランス青年、アンリ・ボーレルも、アダムのいるカフェの常連だ。

ジェリーはパトロンを得て、リズが所属するバレエ団の舞台デザインを任される。
ⒸAngela Sterling

そしてその3人は、若いバレリーナ、リズ・ダッサンに恋をしてしまっていた……(パリでの画家、作曲家、歌手、ダンサーの恋物語は、プッチーニの《ラ・ボエーム》を思い起こさせる)。

リズが働く百貨店ギャラリー・ラファイエットで一生懸命アプローチするジェリー。
ⒸAngela Sterling

聴きごたえのある管弦楽曲と最大の見せ場となるダンス・シーンに注目!

もちろん、この作品では、「アイ・ガット・リズム」、「私の彼氏」、「ス・ワンダフル」、「シャル・ウィー・ダンス」、「フー・ケアーズ」、「バット・ノット・フォー・ミー」、「誰にも奪えぬこの思い」など、ガーシュウィンのナンバー(歌詞は、ジョージ・ガーシュウィンの兄、アイラ・ガーシュウィン)がふんだんに使われているが、ピアノ協奏曲へ調、「3つの前奏曲」第2番、セカンド・ラプソディ、「キューバ序曲」、「パリのアメリカ人」などの歌の入らない器楽的な作品が積極的に用いられているのも印象的である。

「アイ・ガット・リズム」、「ス・ワンダフル」、「キューバ序曲」

「アイ・ガット・リズム」が出てくるシーン。
ⒸAngela Sterling

最大の見どころは、ミュージカルのタイトルにもなったガーシュウィンの代表的なオーケストラ曲である「パリのアメリカ人」(この映画では、「パリのアメリカ人」とは、ジェリーのことを指すのだろうが、もともとは、パリに滞在していたガーシュウィン=つまり作曲者自身のことをいう)を使った、リズとジェリーの長大なダンス・シーンに違いない。

「パリのアメリカ人」

セーヌ川を背にリズとジェリーが踊る美しいシーン。
ⒸAngela Sterling

思わず拍手をしたくなってしまうようなライヴ映像。『パリのアメリカ人』という一編のバレエ作品を見たような充実感がある。また、アンリが、夢にみたラジオ・シティ・ミュージックホールで歌うシーン(「アイル・ビルド・ア・ステアウェイ・トゥ・パラダイス」)も記憶に残る。そしてそれらはどちらも幻想……。

映画『パリのアメリカ人』は、ガーシュウィンの音楽がミュージカル劇場に戻り、ダンスとの新たなコラボレーションを生み出した作品といえるだろう。

上映情報
松竹ブロードウェイシネマ『パリのアメリカ人』

日時: 2021年10月15日(金)より全国順次限定公開

会場: 東劇(東京)、なんばパークスシネマ(大阪)、ミッドランドスクエア シネマ(名古屋)、ほか

作曲&作詞: ジョージ・ガーシュウィン&アイラ・ガーシュウィン

台本: クレイグ・ルーカス(原案:ミュージカル映画『巴里のアメリカ人』)

出演:
ジェリー・マリガン役 ロバート・フェアチャイルド
リズ・ダッサン役 リャーン・コープ
アンリ・ボーレル役 ハイドゥン・オークリー
マイロ・ダヴェンポート役 ゾーイ・レイニー
アダム・ホックバーグ役 デイヴィッド・シードン=ヤング
マダム・ボーレル役 ジェーン・アッシャー

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山田治生
山田治生 音楽評論家

1964年京都市生まれ。1987年、慶應義塾大学経済学部卒業。1990年から音楽に関する執筆活動を行う。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人 -ある日本人指揮者の...

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