読みもの
2024.08.26
音楽学者の湯浅玲子さんが子どもにもわかる言葉で解説!

アラベスクってなぁに? ドビュッシーやシューマン、ブルクミュラーの曲名の疑問に迫る

ドビュッシーやシューマン、そしてブルクミュラーの名曲でおなじみの「アラベスク」。もともとどのようなものを指す言葉だったのでしょうか?
湯浅玲子さんが、子どもにもわかりやすい言葉でやさしく解説します!

初出:『ムジカノーヴァ』2013年9月号の「ムジカノーヴァ子ども音楽塾」

湯浅玲子
湯浅玲子 音楽学・音楽評論

桐朋学園大学卒業、同研究科修了(音楽学)。曲目解説やCDライナーノートのほか、 各種音楽雑誌に、特集記事、連載記事、楽曲分析、エッセイ、演奏会評などを執筆。月刊誌『ム...

フォンテンブロー城のマリー・アントワネットの私室。ポンペイ様式のアラベスクで装飾されている。

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アラベスク Arabesque とは?

アラベスクとはフランス語で、「アラビア風の」という意味です(アラビアは、『アラビアン・ナイト』の舞台ともなった地域で、アジアとアフリカの間にあります。地図で探してみましょう)。

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アラビア風の唐草模様や幾何学的模様(まっすぐな線〈直線〉や曲がった線〈曲線〉で描いた図形)が、美術品や音楽、バレエなどでそれぞれに表現され、広がっていきました。さっそく、いろいろな「アラベスク」をご紹介しましょう。

模様のアラベスク

アラビア風の唐草模様とは、このような模様を言います。

ダマスクスにあるウマイヤ・モスクのレリーフ。アラビア風の唐草模様が描かれている。

唐草模様と言えば、日本の風呂敷でも見かけますね。日本の唐草模様は、まずギリシャから中国に伝わり、日本へは中国から伝わったと言われていますから、もとをたどれば、同じものかもしれません。

また、アラビア風の幾何学模様というのは、下記のようなものです。

アラビア風の幾何学模様(ボスニア・ヘルツェゴヴィナにあるフェルハト・パシャモスクのドーム)
唐草模様の風呂敷

このような模様は陶器(食器など、ねん土で形を作って、かまで焼いたもの)で見たことがありませんか?

アラビア風の唐草模様や幾何学模様は、「アラベスク模様」とも呼ばれます。いずれも、きれいで細かい飾り(装飾)がたくさんついていますね。

1368〜1450年に作られたとされる中国の陶器
(ロサンゼルス・カウンティ美術館蔵)

宮殿のアラベスク

アラベスク模様は身の回りのものだけでなく、建物や庭にも使われました。下の写真はフランスのルイ14世という王様が建てたヴェルサイユ宮殿です。

ヴェルサイユ宮殿の庭園

この庭は、1667年から70年にかけてつくられたもので、4つのアラベスク模様が噴水のまわりを取り囲んでいます。このような庭園はフランス式庭園と呼ばれ、その後、こうして宮殿にも使われたことで、ヨーロッパ中に広まりました。

アラベスクという言葉に対して「優雅」「上品」「高貴」、といった印象が持たれるようになったのは、宮殿に使われたことも大きく関係していると考えられます。

音楽のアラベスク

「アラベスク」は、音楽作品のタイトルとしても使われるようになりました。《アラベスク》というタイトルがついている曲は、優雅でロマンチックな雰囲気を持っていて、アラベスクもようを思わせる飾りがついていることが多いです。ピアノ曲の《アラベスク》では、みなさんがよく知っているブルクミュラーの《アラベスク》のほか、シューマンの《アラベスク》、そしてドビュッシーの2曲の《アラベスク》が有名です。

ブルクミュラー:『25の練習曲』より《アラベスク》

シューマン:《アラベスク》

ドビュッシー:《2つのアラベスク》

先生に楽譜を見せてもらって、絵のように眺めてみてください。装飾音符のような動きに「模様のアラベスク」が見えてきませんか? ドビュッシーは、「旋律が曲線のように動き、装飾のことを考えて作った曲が感動をもたらすのだ」と述べています。まさにアラベスクの特徴を曲にしようと考えていたのですね。

ドビュッシー《2つのアラベスク》より「アラベスク第1番」の手稿

バレエのアラベスク

ここまでお話しした模様と音楽のアラベスクから、アラベスクに対して、細やかで、流れるような動きをイメージしたかもしれませんね。バレエのアラベスクはどうでしょう? 片足で立ち、もう一方の足を後ろへまっすぐに伸ばす動きの静かなポーズです。模様と音楽のアラベスクとは正反対です。

バレエのアラベスクのポーズ

バレエの場合は、動きではなく体全体でアラベスクを表現していて、そのポーズの形に意味があるのです。手も足もすべて使い、バランスをとることで、人体の線を美しく見せるのがバレエのアラベスクです。

絵画と彫刻のアラベスク

バレエのアラベスクを絵画と彫刻で表現した画家がいます。フランスの画家、エドガー・ドガです。ドガは数多くのバレリーナの絵を描きました。ドガの絵について同じ画家であったゴーギャンは。「ドガにとっての人体は、線のアラベスクを作り出すためだけにある」と述べています。

エドガー・ドガ《アラベスクの幕切れ》(1877年、オルセー美術館蔵)

ドガは、絵画のほかに多くの彫刻も残しています。彫刻でアラベスクを表現した作品も何点か残っていますが、彫刻ではバレエの舞台衣装を着せないで、体の線だけでアラベスクを表現しました。

エドガー・ドガ《アラベスク1》(メトロポリタン美術館蔵)

「アラビア風」というひとつの言葉が、こんなにもさまざまな形で解釈されてきたことがわかりますね。アラビア風の模様には、人の想像力をかきたてる魅力があったのでしょう。

湯浅玲子
湯浅玲子 音楽学・音楽評論

桐朋学園大学卒業、同研究科修了(音楽学)。曲目解説やCDライナーノートのほか、 各種音楽雑誌に、特集記事、連載記事、楽曲分析、エッセイ、演奏会評などを執筆。月刊誌『ム...

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