ショパンの「雨だれ」はここで生まれた? マヨルカ島へ美が生まれた暮らしを探す旅
ショパンの「雨だれ」を含む『24の前奏曲』が完成したのは1839年、マヨルカ島ヴァルデモッサの荒れ果てた修道院で書き進められました。療養を勧められての旅でしたが、天候不順で体調は逆に悪化。ピアノがなかなか届かず、住民からは避けられ……そのような生活の中から生まれた、繊細極まる美。ショパンと同じ環境を体験するためにヴァルデモッサに泊まった音楽評論家、道下京子さんの旅行記をお届けします。
2019年夏、息子が10歳を過ぎたのを機に海外へ行くのを再開。 1969年東京都大田区に生まれ、自然豊かな広島県の世羅高原で育つ。子どもの頃、ひよこ(のちにニワトリ)...
マヨルカ島と言えば、フレデリック・ショパン(1810~49)が恋人で作家のジョルジュ・サンドと、彼女の子どもたちとともに滞在した場所として知られています。
ピアニストのイーヴォ・ポゴレリッチさんは、マヨルカ島について、かつて私とのインタビューの中で次のように語っていました。
「自分の尊敬している人の住んでいた家を訪れた印象ですが、率直に言うと、ここで生活することは楽ではなかっただろうと。ここを訪れると、彼らは本当にごく普通の生活を送っていたことや、その生活から芸術作品の素晴らしい『美』が生み出され、残されていることに気づくでしょう」
ポゴレリッチさんのインタビュー以来、私のなかでマヨルカへの思いが募り、2024年3月下旬にその地を訪れました。
ショパン『24の前奏曲』(イーヴォ・ポゴレリッチp)
マヨルカ島はヨーロッパ屈指のリゾート地
ショパンの時代には、フランスのマルセイユからマヨルカまでは蒸気船が運航していたと言われています。私はスペインの首都マドリードから飛行機に乗り、1時間半でマヨルカの中心都市パルマに到着。想像していたよりも近代的で、空港にはさまざまな航空会社の飛行機が駐機し、空港の外には高速道路が走っていました。
マヨルカ島は、屈指のリゾート地として知られ、観光客の大半はヨーロッパ、とくにドイツやイギリスから多く訪れているそうです。美しい海に囲まれたその島には、白い砂浜も広がっています。
1日目は、中心部からほど近いビーチ沿いに宿泊しました。泳げるのは4月からのようです。その日の夜は、プリンシパル劇場でハイドン《スターバト・マーテル》を鑑賞。終演後、劇場から外へ出ると、パレードに遭遇。復活祭直前の時期で、そのあと立ち寄ったタパスの店員によると、ちょうど「聖なる週間」だったそうです。
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