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2022.09.10
毎月第2土曜日更新

クラシック専門ライターの音楽界トレンド・ウォッチ~日本の新世代チェリスト7選

クラシック音楽界でいま気になるヒト・コトを、音楽専門ライターの視点から解説!

城間 勉
城間 勉

1958年東京生まれ。子どものころからピアノを習ってはいたが、本当にクラシック音楽に目覚めたのは中学生時代にモーツァルトの魅力に触れてから。バレンボイム&イギリス室内...

宮田大©日本コロムビア

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宮田大に続く世界水準の男性チェリストたち

人声にもっとも近い楽器はチェロだそうだ。その音色は男性的で、ダンディなバリトン・ヴォイスとも共通するものだ。実際に周波数の範囲からも両者はほぼ一致するという。

だからといって、男性向きの楽器かといえばもちろんNO。内外でも女性チェリストが活躍しているのはいうまでもない。けれどもチェロをひたむきに弾いている男の姿はすこぶるかっこいい。絵になるのだ。とくに無伴奏曲に向かっているときは──。

ということで、今回はあえて、男性チェリストを話題にしたい。それも日本の若い世代のチェリストたちに。

これまで人気男性チェリストといえば、どうしても外来ばかりで、ジャン=ギアン・ケラス、マリオ・ブルネロ、ゴーティエ・キャプソン、レジェンド級ではミッシャ・マイスキーやヨーヨー・マあたりがクローズアップされてきたけれども、ここ約10年の間に出現した日本発の新世代プレイヤーたちは音楽性で彼らに勝るとも劣らず、ビジュアル面しかり。音楽界に新たな息吹をもたらしている。

とくに活動が目覚ましい若きプレイヤーたちを独断で選び紹介する。いずれも世界水準といっても過言ではない若者たちだが、この新しい波には宮田大の活躍がトリガーとなっている感がある。

宮田大©日本コロムビア

ここで宮田大についておさらい。現在30代ながら、いまやチェロ界を牽引するトップランナーとして走り続ける彼は、2009年のロストロポーヴィチ国際コンクールで優勝以来、脚光を浴びてきた。

ソロ活動はもちろんのこと、サイトウ・キネン・オーケストラや水戸室内管弦楽団のメンバーとして精力的な活動を展開する。今年もセイジ・オザワ松本フェスティバルに参加した。親しみやすい穏やかな雰囲気(愛されキャラ?)と恐るべき実力の同居。このギャップには、いまさらながら驚かされる。

さて、宮田大に続く21世紀を行く“超若手6人”を挙げる。

まずは、一部で“ポスト宮田大”と目される上野通明。1995年生まれ。2021年のジュネーヴ国際コンクールで日本人として初優勝、ほかにも著名な国際コンクールで上位に入賞して以来、改進を続ける。

コンチェルトや現代曲にも果敢に挑戦、いぶし銀のようなトーンで観客の心をわしづかみにする。あどけない雰囲気を残すが音楽は凛としてたくましい。ケルンから拠点をベルギーに移した。

上野通明

つづいて佐藤晴真。1998年生まれ。2019年に難関で知られるARDミュンヘン国際音楽コンクールで優勝。これも日本人初の快挙だった。

2018年のワルシャワでの「ショパンと彼のヨーロッパ国際音楽祭」に出演後、翌年に日本で本格デビューを飾った。ドイツ・グラモフォンと契約し、「ブラームス作品集」、「ドビュッシー&フランク作品集」をリリースしている。現在、ベルリン在住。

佐藤晴真

そして岡本侑也。1994年生まれ。2017年エリザベート王妃国際音楽コンクール第2位入賞ほか多くの受賞歴を誇る凄腕で、前述のアーティストたち同様に内外の著名オーケストラと共演し成功を収めているのは当然として、特筆すべきは、2019年にイタリアと日本でかのクリスチャン・ツィメルマンらと室内楽ツアーを敢行、ブラームスのピアノ四重奏曲を演奏して絶賛されたことだ。これにより岡本の格がぐーんと上がった。尊敬するチェリストはカザルスだという。

岡本侑也©Shigeto Imura

笹沼樹。1994年生まれ。東京交響楽団のトップで弾いていたので、目にされた方も多いことだろう。数々のコンクールに入賞し、著名楽団と共演、また数多の音楽祭にも出演している。

現在はソリストと室内楽で活躍していて、クァルテット・アマービレ、ラ・ルーチェ弦楽八重奏団のメンバーでもある。今年の年末にはバッハの無伴奏チェロ組曲全曲に挑む。

笹沼樹©Taira Tairadate

伊東裕。1992年生まれ。彼もこの8月より東京都交響楽団の首席奏者として演奏しているので、オーケストラ・ファンにもすっかりお馴染みの存在。

葵トリオ(ピアノ三重奏)として第67回ARDミュンヘン国際音楽コンクールで優勝し、大ニュースとなったのも記憶に新しい。そのあどけなさを残す雰囲気と裏腹に、生まれる豊穣な響きと覇気に満ちた音楽とのギャップがいい。都響では彼を“見に来る”人が増えたという人気者。

伊東裕

ラストは三井静。1992年生まれ。幼少期をボストンで過ごし、5歳でチェロを始める。ザルツブルクなど海外で学び、すでにヨーロッパの様々な音楽祭にも出演している。

彼を有名にしたのは、2020年にミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団の厳しいオーディションに合格し、正団員に選ばれたこと。

実はこの8月に京都のロームミュージックセミナーに受講生として参加し、宮田大からレッスンを受けて課題曲のブラームスのソナタを弾いた時は、息を飲む美しさで会場の人皆が引き込まれた。

三井静 ©Anoush Abrar

齋藤秀雄に繋がり、レジェンド堤剛、毛利伯郎から薫陶を受け、さらに未来をめざす日本のチェロ奏者たち。

レパートリーもバッハやベートーヴェン、そして現代作品までものにしている。黛敏郎の《BUNRAKU》など普通に弾きこなし、ひと昔まえは“聖典”として敬遠されていたバッハの無伴奏も、いまやHIP(歴史的奏法)も取り入れて果敢にチャレンジする。良いことだと思う。

この秋、チェロのコンサートが集中的に開かれるのでぜひ足を運び、ご自身で彼らの凄さを確かめてほしい。“あなた好み”のチェリストに出会えるかもしれませんよ。

新国立劇場がシーズン開幕でバロック・オペラを上演

《ジュリオ・チェーザレ》 パリ・オペラ座公演より Photo: Agathe Poupeney

新国立劇場がこの10月にヘンデルの名作《ジュリオ・チェーザレ》を上演、同劇場が打ち出したバロック・オペラシリーズの第2弾となる(コロナ禍のため2020年から延期となっていた舞台)。

バロック・オペラというのは、すでにヨーロッパでは定着している言葉で、バロック時代のモンテヴェルディやヘンデル、ラモーまたはその同時代の作品を古楽器(モダン楽器でも古楽様式)で演奏するオペラを指す。

すでに神奈川県立音楽堂(今年はヘンデル《シッラ》を上演)や北とぴあ国際音楽祭(今年はリュリ《アルミード》を上演)が、これまで海外から古楽団体や歌手を招いて質の高い公演を実施しているが、ここにきて新国立劇場がようやくこの分野にチャレンジすることになった。

バロック・オペラが特定のファンだけでなく、オペラ愛好家全般に楽しんでもらえる意義は大きい。

今回の新国立劇場《ジュリオ・チェーザレ》で注目されるのは、バロック音楽の大家リナルド・アレッサンドリーニの指揮はもちろんのこと、先月のセイジ・オザワ松本フェスティバル《フィガロの結婚》と同じロラン・ペリーの演出。ここで彼は「古代や史実の夢想として自由に舞台化したい」と語る。

そして豪華でしかも適材適所な配役。タイトル・ロールにバッハ・コレギウム・ジャパンとの共演歴もあるパワフルな歌唱が際立つマリアンネ・ベアーテ・キーランド、クレオパトラに目下絶好調の森谷真理、ロシア出身の端正なバリトン、ヴィタリ・ユシュマノフのアキッラ、そしてトロメーオの藤木大地、ニレーノの村松稔之が舞台に華を添える(両者とも元来はカストラートの役)。

日本を代表するカウンターテナー2人の登場は希少。カウンターテナーの魅力を味わいたい方はぜひご覧になっていただきたい。

公演時間は全3幕4時間15分(休憩含む)と長大だが、分かりやすいストーリーとテンポの良いドラマの運び、つぎつぎと繰り出される歌手たちの名技性溢れる歌唱により、かなり楽しめるオペラ体験となるはずだ。

城間 勉
城間 勉

1958年東京生まれ。子どものころからピアノを習ってはいたが、本当にクラシック音楽に目覚めたのは中学生時代にモーツァルトの魅力に触れてから。バレンボイム&イギリス室内...

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