『コンフィデンスマンJP 英雄編』に登場する「英雄」とポーランドのヒーロー・ショパン
映画やドラマをよりドラマチックに盛り上げているクラシック音楽を紹介する連載。
第12回は、公開中の映画『コンフィデンスマンJP 英雄編』。大人気シリーズで大金を騙しとる数々のコンゲームを繰り広げてきた信用詐欺師たちが、今作では「英雄」と対峙していく。劇中に流れるショパンのポロネーズ第6番《英雄》との共通点は?
1997年大阪生まれの編集者/ライター。 夕陽丘高校音楽科ピアノ専攻、京都市立芸術大学音楽学専攻を卒業。在学中にクラシック音楽ジャンルで取材・執筆を開始。現在は企業オ...
マルタ島で大暴れのコンゲーム
信用詐欺師のダー子(長澤まさみ)、ボクちゃん(東出昌大)、リチャード(小日向文世)が、おサカナ(ターゲット悪徳組織)から大金を騙しとるコンゲームを繰り広げる映画『コンフィデンスマンJP』シリーズ。2022年1月14日(金)に公開された『英雄編』では、古代ギリシャ彫刻を持つ元マフィアをターゲットにさだめ、マルタ島でまたもやひと暴れする。
これまではチームで手を取り合いコンゲームに励んできたダー子、ボクちゃん、リチャード。しかし、今回は違う。かつて悪徳富豪から美術品を騙し取り、それらを貧しい人々に分け与えたことで「英雄」と謳われた「ツチノコ」の称号を得るべく、3人はバトルを行なうことになる。
英雄と対峙する信用詐欺師たち
今作でダー子は、元マフィアのゴンザレス(城田優)を守るという名目上の理由で、海上自衛官になりきる。しかし、ダー子を狙う刑事の丹波(松重豊)や、インターポール(国際警察)を名乗るマルセル真梨邑(瀬戸康史)も現れる。これまでは、警察などの組織が手の及ばぬ場所でチャレンジしてきたダー子たち。偽物の英雄を演じながら、本物の英雄と対峙せざるを得なくなるわけだ。
お察しの通り、今作のキーワードは「英雄」。クラシック音楽での「英雄」といえば、ベートーヴェンの交響曲第3番や、ショパンのポロネーズ第6番がある。『コンフィデンスマンJP 英雄編』には、後者のショパン作品が登場する。
ちなみにこの副題の「英雄」とは、ショパン本人がつけたものではない。しかしショパンが残した《英雄》をはじめとするポロネーズ作品は、その名の通り、ポーランド人にとって「英雄」という存在に等しい。
ポロネーズとは、ショパンを生んだポーランドの民族舞踊の一種だ。ゆったりとした格調高い3拍子の上に、特徴的に「タンタタ・タ・タ・タ・タ」とリズムが響く。華麗で流れるようなフレーズから、堂々とした荘厳な作風まで、祖国愛に溢れたショパンはポロネーズ作品を16も残した。
持たざる者のための英雄の姿をショパンに重ねる
ショパンが作曲家として初めて書いた作品は、ポロネーズだった。ポーランドでその才を発揮し、新天地を求めて祖国を出るが、直後にロシア軍への蜂起が発生。亡国の歴史を歩んできたポーランドの不運がショパンに降りかかった。以降、彼がポーランドに帰ることは叶わなかった。彼が最後に残したのも、同じく祖国由来の民族舞踊のマズルカ。戻れぬ祖国に想いを馳せた人だった。
ショパンの作品は、同じ祖国を逃れた人々、そして現在のポーランド人の胸にもなお打ち続けている。その存在はヒーローそのものだといえる。
『コンフィデンスマンJP 英雄編』では、まさに「持たざる者のための英雄=ツチノコ」が描かれる。祖国を出て行き場を探す者たちの誇りとなったショパンに、その姿が重なる。
しかし『コンフィデンスマンJP』シリーズは、積み重ねてきた物語の種を予想以上にどんでん返してくる特徴ももつ。多くの者が信じてやまない「英雄」は、本当に誰かを守るヒーローなのか、それとも仮面としての姿なのか。喜んで騙されたい。
出演:長澤まさみ 東出昌大 小手伸也/小日向文世
松重豊 瀬戸康史 城田 優 生田絵梨花 広末涼子 織田梨沙 関水 渚 赤ペン瀧川 石黒 賢 梶原 善 徳永えり 髙嶋政宏 生瀬勝久 真木よう子 角野卓造 江口洋介
監督:田中亮
脚本:古沢良太
主題歌:Official髭男dism「Anarchy」(ポニーキャニオン)
制作プロダクション:FILM
配給:東宝
製作:フジテレビ・東宝・東宝芸能・FNS27社
©2022「コンフィデンスマンJP」製作委員会
関連する記事
ランキング
- Daily
- Monthly
関連する記事
ランキング
- Daily
- Monthly