インタビュー
2023.02.24
ドラマチックにする音楽 vol.18

朝ドラ『舞いあがれ!』作曲家・富貴晴美さん、作品の根底にあるのは現代音楽とロシア音楽

ドラマや映画をよりドラマチックに盛り上げている音楽を紹介する連載。
今回は、現在放映中のNHKの連続テレビ小説『舞いあがれ!』の音楽を手がけている作曲家の富貴晴美さんにインタビュー。『わが母の記』や『日本のいちばん長い日』、『関ヶ原』で日本アカデミー賞優秀音楽賞を3度受賞するなど、いま最も映画・ドラマ業界で活躍中の作曲家。『舞いあがれ!』の音楽のほか、映画音楽を志した背景や、制作で大切にしているポリシー、そして音楽の源泉を伺いました。

桒田萌
桒田萌 音楽ライター

1997年大阪生まれの編集者/ライター。夕陽丘高校音楽科ピアノ専攻、京都市立芸術大学音楽学専攻を卒業。在学中にクラシック音楽ジャンルで取材・執筆を開始。現在は企業オウ...

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富貴晴美(ふうき・はるみ)

作曲家・編曲家・ピアニスト。大阪府出身。ドラマ、映画、アニメ、ミュージカル、CM音楽の作曲を多く行なう。2013年『わが母の記』で第36回日本アカデミー賞音楽賞優秀賞を最年少で受賞。以降の受賞もあわせて3度の日本アカデミー賞音楽賞優秀賞に輝く。他にも映画では『そして、バトンは渡された』、『鹿の王 ユナと約束の旅』、『かがみの孤城』、ドラマではNHK大河ドラマ『西郷どん』、連続テレビ小説『マッサン』など、多数の音楽を手がけている。
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作曲家を志したきっかけは『タイタニック』

——現在放送されている『舞いあがれ!』をはじめ、同じく朝ドラの『マッサン』や大河ドラマ『西郷どん』、ほかにも上映中の映画『かがみの孤城』など、数えきれないほどの映画やドラマの音楽を手がけてきた富貴さん。

元々はクラシック音楽の世界で作曲を学んでいたそうですが、もともと劇伴の作曲家になりたかったのでしょうか?

富貴:もともと5歳の頃から近所のピアノ教室に通っていたのですが、決定的なきっかけは小学6年生の時に映画『タイタニック』に出会ったことです。

序盤に船が出港するシーンがあるのですが、ストーリーが始まって間もないのにも関わらず、なぜか涙がばーっと溢れてきて。映像と音楽に引き込まれたんですね。そこで「映像につける音楽を作る仕事があるんだ」と知って、映像のサウンドトラックを作る作曲家になりたい、と思ったんです。

家族は誰も音楽をやっていなかったのですが、まずは母が近くの音楽教室に行き、受付で「娘が作曲家になりたいって言っているんですけど……」と相談したんです(笑)。すると受付のおじいちゃんが「友達に作曲家がいるよ」とその場で連絡してくれて。そこで紹介していただいたのが、私が通うことになる国立音楽大学の作曲専攻の教授だったんですよ。そのご縁で、レッスンに通い始めました。

 

——ということは、「いきなり映画音楽の作曲家を目指す」というよりも、まずはクラシックの世界できちんと作曲を学ぶ形でスタートされたのですね。

富貴:そうですね。私はそれまで、独学で作曲をしていて、『タイタニック』の劇伴のようなきれいな感じの音楽をたくさん作っていたのですが、それを先生のレッスンに持っていっても、うんともすんとも反応がなくて……。

まずは理論を勉強しよう」ということになり、作曲を学ぶ方にはお馴染みの和声の勉強を開始しました。当時はとにかく理論、理論の繰り返しで、もう全然楽しくなく(笑)。

——憧れの映画音楽のような作品には、まだ着手できなかったわけですね。

富貴:中学・高校と和声をみっちりやっていて、「どうして和声なんてしないといけないんだろう」という疑問と逃げたい気持ちばかりで、スピードは本当に遅かったですね……。

でも、一通り和声の勉強を終えたときに、頭の中で音の構築ができるようになったんです。ピアノをわざわざ弾かなくても、頭の中で想像した音がすべて鳴るようになって。やっぱり基礎は大事なんだなと思いました。

——やはり、和声は作曲を行なう上で基礎中の基礎ですよね。大学では現代音楽に没頭されたとか。

富貴:はい、そうです。大学時代に指導いただいたのが、現代音楽の第一人者である福士則夫先生でした。映像につける劇伴のようにきれいな音楽を学ぶよりも、この先生につくならば現代音楽をしっかりと学んで、得られるものを得たいなと思って。

これも、最初は本当に楽しくなかった(笑)。現代音楽なんて全然詳しくなかったし、「キーキー」とか「ガーガー」みたいな音ばかり出る作品だという印象があって、最初は「これは一体何なんだろう」と。でも、たくさんの作品を聴き、譜面を見るうちに、「現代音楽って、映画音楽に似ているな」と気づいたんです。

——というと、つまり……?

富貴:どちらもメッセージ性が強いんです。この音楽やこの作曲家は何が伝えたいのか、何を表現したいのか。映画音楽だったら、クライマックスに向けて音をどうやって積み重ねていくのかが大切になるわけですが、現代音楽も「この瞬間のために、こうやって構築していく。映画音楽と同じだな」と。そうした共通点に気づいていくのも、譜面を読み解くのも楽しくなってきて、奥が深いなと思ったんです。

——現代音楽と一口に言っても幅は広いですが、例えばどんな作曲家に関心を持っていたのですか?

富貴:メシアンを多く勉強しましたね。あとは福士先生の周りの邦人作曲家や、三善晃さんや武満徹さんなど、たくさん研究しました。自分の作品をみてもらうだけでなく、たくさんの作品に触れて、いいところは盗む。そんなレッスンで、本当に楽しかったのを覚えています。

——三善晃もそうですが、映画音楽を手がけていた邦人作曲家はたくさんいますね。

富貴:そうですね! 私、黒澤明監督の作品も大好きなんですが、彼の作品でもよく邦人作曲家が名を連ねていますよね。現代音楽と映画ってすごく合うんです。映像を邪魔しないというか、現代音楽が現代音楽でなくなる瞬間があって。それに触れるのがとても楽しくて、ドキドキするんです。

——その後、実際に映像の音楽のお仕事につかれましたね。

富貴:大学在学中に、お仕事をいただくようになりました。現代音楽を学んでいる一方で、「いつか映画音楽を作りたい」という気持ちは変わっていなかったので。

まずはCM音楽の制作会社に入社しましたね。CMって、15秒や30秒というミニマルな世界の中で物語を繰り広げる、おもしろい世界なんですよ。だから音楽の作り方も、ある意味現代音楽や映画音楽に似ていて、すごく勉強になりました。

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