読みもの
2020.06.13
オペラ2演目も上演へ! アフターコロナの新スタイルを提案

100周年のザルツブルク音楽祭、「悪魔は細部に宿る」を警句に新プログラムで始動!

ザルツブルク音楽祭は、5月15日に規模を縮小して開催することを発表し、そして6月9日に音楽監督マルクス・ヒンターホイザー氏による記者会見で、新しいプログラムの内容を発表しました。
どのように縮小するのか、客席数はどれくらい減るのか、そして演奏者と観客の感染症対策はどのように行なわれるのか……。毎年欠かさずザルツブルク音楽祭を訪れてきた山之内克子さんが、最新情報をレポートします。

ザルツブルク音楽祭の動向を愛をもって見守る人
山之内克子
ザルツブルク音楽祭の動向を愛をもって見守る人
山之内克子 西洋史学者

神戸市外国語大学教授。オーストリア、ウィーン社会文化史を研究、著書に『ウィーン–ブルジョアの時代から世紀末へ』(講談社)、『啓蒙都市ウィーン』(山川出版社)、『ハプス...

ザルツブルク音楽祭の風物詩である演劇『イェーダーマン』の舞台と観客席は、大聖堂前の広場に設置される。今年は座席が制限されるものの、従来通り全14回の公演を守り抜く。

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念願の開催へと踏み切った音楽祭本部

新型コロナウイルス感染拡大を早期に抑え込み、早くも4月末からさまざまな領域で規制緩和に乗り出したオーストリア政府は、5月15日、文化イベントについても新たな緩和措置を発表した。参加者同士の距離を保つなど、一定の条件をクリアすれば、6月1日から100人以下の、さらに、8月1日以降は1000人以下のイベント開催が許可されることになったのである。

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この決定の直後、ザルツブルク音楽祭公式ホームページは、カバー写真をコレーギエン教会の白い画像に一新して、開催実現に向けたメッセージを発信した。全世界の主要な音楽イベントが相次いで中止や延期を決めるなか、最終決定を5月末まで延ばしてきたザルツブルク音楽祭が、いよいよ本格始動に向けて一歩を踏み出した瞬間だった。

5月15日に更新されたホームページのカバー写真。
添えられているのは、音楽界の設立者のひとり、フーゴ・フォン・ホーフマンスタールの言葉、「意志の力が目覚めていれば、めざす目的はもはやほとんど達成されたも同然なのだ」。
ホフマンスタールは、友人リヒャルト・シュトラウス、マックス・ラインハルトと手を結び、第一次世界大戦直後の1920年、著しい混乱期に陥ったオーストリアに強い意志を持ってザルツブルク音楽祭を設立した発起人の1人。
コロナ禍のなかで音楽祭の灯を絶やすまいと尽力した関係者が、自身の苦心をこの創設者の偉業に重ね合わせていたことが読み取れる。

声明は、プログラムを一新し、政府の規制にしたがって期間と公演数を縮小して開催に備えるとし、この危機を乗り越えて音楽の素晴らしさを分かち合えることへの喜びをくり返しあらわにした。

未曾有の感染拡大のなかで、あえて開催にこだわり続けたザルツブルク音楽祭に対しては、「コロナの危機を過小評価し、非現実的な態度をとり続けている」という批判の声も多かった。5月15日のメッセージは、こうした批判に応えるかのような一文で結ばれている。

ザルツブルク音楽祭は、いま、コロナ禍という困難な時代に、芸術の力を通じてひとつの問題提起をなしえることを、この上なく誇りに感じています」。

だが、ソーシャル・ディスタンスをはじめ、感染予防策をしっかりと講じながら、これほどの大イベントを無事に挙行するという課題には、当然、想像を絶するような苦労が伴うはずである。5月15日の声明から今日にいたるまで、多くの関係者が重ねて口にする「悪魔は細部に宿る」という警句には、今後、新プログラム立ち上げからリハーサル、本番にいたるまでの道のりで待ち受けるはずのあらゆる困難に対する強い覚悟があらわれている。

気になる新プログラムの内容は?

昨年11月に発表された100周年を祝うプログラムには、記念イヤーにふさわしいあまたの趣向が凝らされていた。

新演出の《魔笛》、《ドン・ジョヴァンニ》、《エレクトラ》、《ボリス・ゴドゥノフ》、そしてアンナ・ネトレプコ主演の《トスカ》を中心に、オペラ作品だけでも10演目、全200公演を超える豪華なプログラムが、ここでいったいどのように縮小され、変更されるのか。開催決定声明ののち3週間、世界中の音楽ファンが固唾を呑んでその行方を見守った。

その後、新プログラムについての会見は数回にわたって延期され、内外ではさまざまな憶測が飛び交った。しかし、6月9日、音楽監督マルクス・ヒンターホイザー氏が正式発表した演目とスケジュールは、意外にも従来の公演内容を比較的忠実にトレースするものだった。

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