読みもの
2026.03.03
ブラジル音楽史に残るボサノヴァ名盤の誕生秘話

小野リサが綴る! アントニオ・カルロス・ジョビンのドキュメンタリー映画『エリス&トム 』

ブラジルを代表するシンガー、エリス・レジーナが、「イパネマの娘」の作者アントニオ・カルロス・ジョビンとタッグを組んだアルバム『エリス&トム』。ブラジル音楽史に残る名盤のレコーディング風景を記録したドキュメンタリー映画『エリス&トム ―ボサノヴァ名盤誕生秘話―』の公開に先がけ、カルロス・ジョビン本人との親交が深かったボサノヴァ歌手・小野リサさんに、本作の魅力をご紹介いただきました!

小野リサ
小野リサ

ブラジル・サンパウロ生まれ。10歳までの幼少時代をブラジルで過ごし、15歳からギターを弾きながら歌い始める。1989年アルバム「カトピリ」でデビュー。ナチュラルな歌声...

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対照的な2人、作曲家トムと歌手エリスの出逢い

ブラジル音楽史に輝く名盤『Elis & Tom』は、発表当時から多くの人々に愛され、今なお特別な輝きを放ち続けています。ボサノヴァの創始者の一人であり、クラシック音楽にも深い造詣をもつ作曲家アントニオ・カルロス・ジョビンと、圧倒的な歌唱力と豊かな表現力を誇る歌手エリス・レジーナの共演は、当時としては意外性に満ちた画期的な企画でした。

エリスは、広い音域と繊細な感情表現を自在に操る、極めて個性的なシンガーでした。一方でジョビンは、クラシック音楽の影響を受けた洗練された旋律美と、ボサノヴァ特有の静謐な世界観をもつ作曲家でした。

エリス・レジーナ
トム・ジョビン(アントニオ・カルロス・ジョビン)

アルバム『Elis & Tom』では、ピアノをジョビン自身と、エリスの夫であり優れたピアニストでもあるセザール・カマルゴ・マリアーノが担当し、卓越した音楽性をもつメンバーとともに、躍動感あふれるサウンドを築き上げています。

その演奏のなかで、当初は対照的であった2人の音楽性が、制作を通じて次第に歩み寄り、融合していく過程が鮮明に感じられます。

カルロス・ジョビンは、自身のもつクラシック的な旋律の美しさを大切にしながらも、エリスのもつ表現力とリズム感を尊重し、ボサノヴァのリズムをより際立たせるが、そこには、自らのスタイルに固執するのではなく、エリスという唯一無二の存在に寄り添い、新たな音楽をともに創り上げようとするカルロス・ジョビンの柔軟さと深い芸術性と包容力が感じられ、音楽は次第と優しいカルロス・ジョビンの世界に包まれます。

この歴史的プロジェクトを実現させたのは、名プロデューサー、アロイジオ・ジ・オリヴェイラです。彼の先見性と音楽的洞察が、この奇跡の共演を可能にしました。静謐で洗練されたカルロス・ジョビンの音楽性と、情熱的で力強いエリスの表現は、本作において見事に融合し、それぞれの個性を超えた新たな音楽の地平を切り開いています。

とりわけ「Águas de Março(三月の雨)」では、2人がかけ合うように歌い交わし、瑞々しくチャーミングな魅力を生み出しています。その自然で喜びに満ちた対話は微笑ましく、このアルバムを象徴する瞬間となりました。また、バラードにおいては、エリスのこれまでにない深い叙情と静かな美しさが際立ち、カルロス・ジョビンの作品に新たな命が吹き込まれています。

本作の制作過程は映像としても記録され、2人の創造的対話と音楽が生まれる瞬間が鮮明に映し出されています。異なる個性をもつ2人の芸術家が出会い、互いを尊重しながら新たな音楽世界を切り開いた『Elis & Tom』は、時代を超えて輝き続ける永遠の名盤です。その音楽は今なお新鮮な感動をもって、聴く者の心に深く響き続けています。

ブラジル音楽史に残る名盤のレコーディング風景が映画に!

このアルバムの制作過程は後にドキュメンタリー映画『エリス&トム ―ボサノヴァ名盤誕生秘話―(原題:Elis & Tom: Só Tinha de Ser com Você)』として映画化され、その創造の瞬間と2人の芸術的対話が記録されました。この映像を通して、本作の奥深さと価値は一層明確に感じられます。

「Águas de março(三月の雨)」の録音のときに、2人でマイクに向かって笑いながら歌う姿が微笑ましい。このシーンは音では想像していたけれども、実際に観ることができて、思わず私も楽しくなってしまいました。

この素晴らしい作品が映画として新たな命を得たことに、心からの喜びを感じます。

上映情報
ドキュメンタリー映画『Elis & Tom エリス&トム ボサノヴァ名盤誕生秘話』

出演:

エリス・レジーナ (1945~1982)

ポルト・アレグレ出身の歌手。
10代の頃からラジオ番組で活動し、1965年に第1回ブラジル・ポピュラー音楽フェスティバルで優勝。「ハリケーン」という綽名を持つ彼女は、1960~70年代までブラジルの国民的スターとして人気を博した。1982年に薬のオーバードーズとアルコール中毒によって急逝。享年36。

トム・ジョビン(アントニオ・カルロス・ジョビン)(1927~1994)

リオデジャネイロ出身の作曲家。
ボサノヴァの生みの親の一人と称されている。ピアノ奏者として活動を開始し、1959年に映画『黒いオルフェ』のサントラで注目を浴び、1960年代に「イパネマの娘」の大ヒットで世界的なスターとなる。エリスとデュエットした「三月の水」も人気曲。1994年に心臓発作で逝去。享年67。

小野リサ
小野リサ

ブラジル・サンパウロ生まれ。10歳までの幼少時代をブラジルで過ごし、15歳からギターを弾きながら歌い始める。1989年アルバム「カトピリ」でデビュー。ナチュラルな歌声...

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