読みもの
2021.07.02
音楽ファンのためのミュージカル教室 第16回

劇団四季のミュージカル『アナと雪の女王』で舞台オリジナル楽曲や秀逸な演出を楽しむ

音楽の観点からミュージカルの魅力に迫る連載「音楽ファンのためのミュージカル教室」。
第16回は、2021年6月24日(木)に開幕した劇団四季のディズニーミュージカル『アナと雪の女王』を山田治生さんがレポート! 舞台ならではの見どころや、新たに作曲された新曲12曲、最新技術を取り入れた演出に迫ります。

山田治生
山田治生 音楽評論家

1964年京都市生まれ。1987年、慶應義塾大学経済学部卒業。1990年から音楽に関する執筆活動を行う。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人 -ある日本人指揮者の...

エルサは「ありのままで」を歌い、氷の宮殿を造り上げる。
撮影:阿部章仁
©Disney

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ディズニー・ミュージカルの歴史

ウォルト・ディズニー・カンパニーが、ミュージカルの舞台に進出したのは1990年代のことであった。

1966年に創業者ウォルト・ディズニーが急逝し、71年にはウォルトの兄のロイ・オリヴァー・ディズニーも亡くなり、その後、ウォルト・ディズニー・カンパニーは低迷を続けていた。しかし、本格的なミュージカル・アニメーション映画『リトルマーメイド』(1989)の成功によって、息を吹き返す。

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1990年代に入り、『美女と野獣』(1991)、『アラジン』(1992)、『ライオンキング』(1994)、『ターザン』(1999)などのミュージカル・アニメ映画が立て続けに大ヒットした。いわゆるディズニー・ルネサンスである。

1993年、ディズニーは、劇場(ブロードウェイ)進出のために、ディズニー・シアトリカル・プロダクションズを設立。そして同社の第1弾となる『美女と野獣』をブロードウェイで1994年に開幕した。

ブロードウェイ・ミュージカル『美女と野獣』サウンドトラック

1997年には、やはりアニメ映画として大ヒットした『ライオンキング』を舞台化。ブロードウェイでの第3弾『アイーダ』(2000)は、映画ではなく、ヴェルディのオペラをミュージカル化した。音楽は新たにエルトン・ジョンが作曲。その間、1996年のアニメ映画『ノートルダムの鐘』も舞台化し、1999年からベルリンで上演されたが、『ノートルダムの鐘』はブロードウェイで上演されなかった。

そのほか、2004年には実写映画『メリー・ポピンズ』を舞台化。2006年には『ターザン』、2008年には『リトルマーメイド』をブロードウェイで開幕し、2018年の『アナと雪の女王』に至るまで、ヒット作を連発している。

ミュージカル『リトルマーメイド』オリジナル・ブロードウェイ・キャストによる録音

『アナと雪の女王』で7作目となる劇団四季とディズニーのコラボ

劇団四季とディズニーのコラボレーションは、『美女と野獣』(1995年開幕)で始まった。『キャッツ』や『オペラ座の怪人』など、ロイド・ウェッバーのミュージカルの上演が人気を博していた劇団四季にとって、ディズニーとの提携は大きな節目となった。

以後、『ライオンキング』(1998)、『アイーダ』(2003)、『リトルマーメイド』(2013)、『アラジン』(2015)、『ノートルダムの鐘』(2016、オフブロードウェイで上演されたバージョン)が劇団四季によって上演されている。今回開幕した『アナと雪の女王』(2021)は7作目にあたり、劇団四季とディズニーの提携25周年を祝うものとなった。

『リトルマーメイド』より「パート・オブ・ユア・ワールド」2018年MV

ミュージカル『アナと雪の女王』の特徴は12の新曲とこだわりの日本語訳

今年6月24日に劇団四季がNOMURA野村證券ミュージカルシアター JR東日本四季劇場[春]で開幕した『アナと雪の女王』の原作は、いうまでもなく、大ヒットした同名のアニメ・ミュージカル映画(クリス・バック&ジェニファー・リー監督)である。

アレンデール王国の王女エルサは、生まれながらに持っていた雪や氷を操る魔法の力を隠すために、人(妹アナを含む)と距離を置いて暮らすようになる。王と王妃である両親が亡くなったあと、エルサは、無事、戴冠するが、アナと言い争っているときに魔法を暴発させてしまう。戴冠式に集まっていた人々に怪物と言われ、エルサは城から逃げ、自ら造った氷の宮殿で1人で生きていくようになるのであった。

『アナと雪の女王』ブロードウェイ公演より

ブロードウェイ版は、2018年3月にセント・ジェイムズ劇場で始まった。しかし、新型コロナ感染症拡大により、2020年3月にブロードウェイの全劇場が閉鎖され、ブロードウェイでの公演は終了してしまった。劇団四季も、本来、『アナと雪の女王』を2020年9月にJR東日本四季劇場[春]のこけら落としとして上演し、ロングランする予定であったが、コロナ禍により、公演は延期。それでも2021年5月上旬には海外からのクリエイティブ・スタッフとの本格的な稽古もスタートし、6月24日にようやく開幕することができた。

舞台版の作詞・作曲は、映画版と同じく、クリステン・アンダーソン=ロペスロバート・ロペス夫妻が担った。これまでに『リメンバー・ミー』や『アナと雪の女王2』などの映画音楽も手掛けている2人が、『アナと雪の女王』の舞台版のため、新たに12曲を作った。台本はジェニファー・リー。演出はマイケル・グランデージ

日本語版の台本と訳詞は高橋知伽江。高橋は、映画の日本語版でも訳詞を手掛けたが、舞台版ではそれをそのまま使うのではなく、映画で有名になったキー・フレーズは残しながらも、より原文に忠実なものを新たに作ったのであった。

最新技術も取り入れた演出、より深みが増す新曲……舞台版だからこその楽しみがいっぱい

筆者は開幕前日6月23日のプレビュー公演を鑑賞した。この日のキャストは、エルサが岡本瑞恵、アナが三平果歩、クリストフが神永東吾、オラフが小林英恵、ハンスが杉浦洸、ウェーゼルトンが山本道、オーケンが竹内一樹。そして、指揮が時任康文であった。

物語の冒頭、子供時代のエルサが魔法を使う。さまざまな舞台上の仕掛けで魔法が表現されるわけであるが、こういうのを見ると、やはり、動画ではなく、生の舞台に限ると思ってしまう。第1幕のラストで、エルサは「ありのままで(Let It Go)」を歌いながら魔法を解き放ち、氷の宮殿を造り上げる。プロジェクション・マッピングやLEDパネルを駆使したこのシーンには、音楽的にも視覚的も、圧倒された。

アナとハンス。エルサの戴冠式で出会い、意気投合する。
©Disney

また、雪だるまオラフでのパペットの使用は、『ライオンキング』のティモンを想起させる。俳優が着ぐるみをかぶって演じるトナカイのスヴェンは生々しくて驚かされた。

舞台版では、新たに12曲が追加されたが、「危険な夢(Dangerous to Dream)」や「モンスター(Monster)」でエルサの内面の葛藤がより深く描かれ、「あなたを失いたくない(I Can’t Lose You)」ではエルサとアナの姉妹の複雑な心情が歌われる。舞台版は、新たな歌によって、映画版よりも、一層、内容的に深くて厚みのあるものとなっている。

「危険な夢(Dangerous to Dream)」、「モンスター(Monster)」、「あなたを失いたくない(I Can’t Lose You)」

舞台版は、2幕構成が採られている。第1幕を「ありのままで」のシーンで圧倒的に締め括り、第2幕をサウナ付き山小屋の主人、オーケンのゆるくてコミカルなシーンで始めて緩急をつけるところなどは、舞台としてさすがによく考えられていると思った。

舞台版で音楽的な負担の増えたエルサを岡本瑞恵は見事に歌い切り、三平果歩は弾けるようなアナを魅力的に演じる。そして2人が姉妹のキャラクターのコントラストを印象的に表現していた。

どうすることもできない理由によって作られた姉妹の心のディスタンスがどう取り除かれ、2人がどう心のつながりを取り戻すのか、さまざまなディスタンスを強いられている今の私たちにとって、タイムリーなテーマのミュージカルといえるだろう。何度も観たくなる名作の登場である。

劇団四季『アナと雪の女王』プロモーションVTR

山田治生
山田治生 音楽評論家

1964年京都市生まれ。1987年、慶應義塾大学経済学部卒業。1990年から音楽に関する執筆活動を行う。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人 -ある日本人指揮者の...

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