林田直樹の越境見聞録

「音楽の追求」と「家庭の幸福」は両立しうるのか? ~ディズニー/ピクサーの新作映画「リメンバー・ミー」

読みもの
2018.04.05

ONTOMOエディトリアル・アドバイザー、林田直樹による連載コラム。あらゆるカルチャーを横断して、読者を音楽の世界へご案内。連載第1回は、3月に封切られたディズニー/ピクサー新作『リメンバー・ミー』を音楽から読み解きます。

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林田直樹 ONTOMOエディトリアル・アドバイザー/音楽ジャーナリスト・評論家
林田直樹
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林田直樹 ONTOMOエディトリアル・アドバイザー/音楽ジャーナリスト・評論家
1963年埼玉県生まれ。慶應義塾大学文学部を卒業、音楽之友社で楽譜・書籍・月刊誌「音楽の友」「レコード芸術」の編集を経て独立。オペラ、バレエから現代音楽やクロスオーバ...

家族、家族、家族!

いったい何度このフレーズが、錦の御旗のように、強制力をもって、この映画で繰り返されることだろう。

そうだよ、一番大事なのはわかってる。

 

だが、メキシコの昔風の小さな町に暮らす、あたかも19世紀のままのような大家族を題材にしなかったら、この家族というフレーズは、いまや万人には説得力をもたないかもしれない。

それほどいま、家族というものが多様化を極め、バラバラになりかけているのだから。

 

もちろん、製作者側は、いまの時代のそうした事情は先刻ご承知の上だろう。

家族というものが崩壊しかかっているからこそ、あえてこうした映画が作られた。

 

だが私は、全く別な文脈でこの映画を観た。

 

音楽の全否定に始まり、音楽の再肯定に終わる――。

それが、ディズニー/ピクサーの新作アニメーション映画「リメンバー・ミー」(リー・アンクリッチ監督)の全体を通じる、物語の構造でもある。

 

音楽の全否定とはどういうことか?

 

 「音楽に身を捧げるあまり、こともあろうに家族を捨てて、自分の都合を優先してしまった者がいる――そんなろくでなしは、もう家族なんかじゃない」

そう烙印を押されてしまった者が過去にいる、とある大家族についてのストーリーが「リメンバー・ミー」である。

 

音楽は、“惜しみなく与えてくれる”恵みである反面、それに従事する者からは“惜しみなく奪う”という性格も持っている。

家族や周囲の献身的な協力がなければ、プロの音楽家としてやっていくのは難しい。

プロの音楽家という職業を極めようとするならば、プライヴェートな家庭の幸福とは、なかなか両立しにくい。決して手堅い仕事とは言えないのだから当然だろう。何か月もツアーに出たりして家を空けたりするのは日常茶飯事。そんな仕事を選んだ以上、きちんとした家庭人として全うするのは難しい。

 

それでも音楽をやりたい。自分の好きな道を選びたい――。そんな音楽少年ミゲルを主人公に、話は進んでいく。

 

COCO ©2017 Disney•Pixar. All Rights Reserved.

 「リメンバー・ミー」は、最初から最後まで、メキシコの風俗や文化、そして民族的な色彩の豊かな音楽がいっぱいに詰まっている映画だ。その中心となっているのが、「死者の日」という考え方である。

日本流にいえば、お盆のようなものだ。亡くなった人たちが、年に一度この世に帰ってきてくれる。彼らもそれを楽しみに、あの世で暮らしているのだ。

 

この世とあの世を結びつける絆はただ一つ、「記憶」である。

死んでしまった人のことを、生きている人が「覚えている」「思い出してくれる」ということが、大切なのだ。

 

「リメンバー・ミー」が素晴らしいのは、この「記憶」ということが、人生で最も重要な価値のひとつであり、それが音楽の本質と(そして家族の本質と)深く関わりあっているということを、雄弁に示した点にある。

ラストシーンで、記憶障害のために、一番大切な思い出さえも忘れ去ろうとしている、ひいおばあちゃんのココのために、ミゲルが歌うことによって起こる奇跡は、音楽の持つ真価そのものであり、ディズニー映画史上最高の名シーンのひとつだろう。

映画全体のテーマソングとなっている「リメンバー・ミー」(作詞・作曲は、「アナと雪の女王」のクリステン・アンダーソン=ロペス&ロバート・ロペス)は、使われる場面によって、まるで違う効果を発揮する。

劇中の、ここぞというシーンで、しかるべきアレンジと声によって歌われてこそ、この歌は生きる。それは映画だろうがオペラだろうが、同じことである。

 

日本語吹き替え版と字幕版と両方観たが、それぞれに良さがあった。

日本語では、何といっても、ミゲル役の声優・石橋陽彩(いしばし ひいろ)がいい。2004年生まれの13歳。クラシック音楽の耳で聴いても、正真正銘の天才じゃないかと思うくらいに歌がうまいし、声が素敵。英語版よりもいいくらいだ。

英語版で面白いのは、ほぼすべての歌が巻き舌のメキシコなまりで歌われているところ。それがつい真似したくなるくらいに泥臭くていい味なのだ。ブロークン・イングリッシュこそが世界共通語だという気さえした。

 

ラストに流れるエンディング・テーマとしての「リメンバー・ミー」(日本語版はメキシコ出身のシシド・カフカの歌、アレンジは東京スカパラダイス・オーケストラが担当)もいいけれど、映画の中にふんだんに盛り込まれたラテン的な雰囲気あふれる音楽(マイケル・ジアッキーノ&ジャーメイン・フランコ)にも注目したい。

ミゲル少年がちょっと通りを走り抜けるときの数秒の音楽でさえ、考え抜かれていて、まるでメキシコ音楽の万華鏡のようになっているのだ。

初心者の知識ゼロから、メキシコの文化に親しみたいという人にとっても、最高の機会を与えてくれる音楽映画である。

ミゲルと<死者の国>の人々。
COCO ©2017 Disney•Pixar. All Rights Reserved.
伝説のミュージシャン、エルネスト・デラクルス。ミゲルにとっての憧れの存在で、ミゲルが大好きな曲「リメンバー・ミー」が代表曲。
COCO ©2017 Disney•Pixar. All Rights Reserved.
孫を溺愛するミゲルのおばあちゃん、エレナ。
COCO ©2017 Disney•Pixar. All Rights Reserved.
リメンバー・ミー
イベント情報
リメンバー・ミー

主人公は、ミュージシャンを夢見る、ギターの天才少年ミゲル。しかし、厳格な《家族の掟》によって、ギターを弾くどころか音楽を聴くことすら禁じられていた……。ある日、ミゲルは古い家族写真をきっかけに、自分のひいひいおじいちゃんが伝説のミュージシャン、デラクルスではないかと推測。彼のお墓に忍び込み美しいギターを手にした、その瞬間──先祖たちが暮らす“死者の国”に迷い込んでしまった!

そこは、夢のように美しく、ガイコツたちが楽しく暮らすテーマパークのような世界。しかし、日の出までに元の世界に帰らないと、ミゲルの体は消え、永遠に家族と会えなくなってしまう…。唯一の頼りは、家族に会いたいと願う、陽気だけど孤独なガイコツのヘクター。だが、彼にも「生きている家族に忘れられると、死者の国からも存在が消える」という運命が待ち受けていた……。絶体絶命のふたりと家族をつなぐ唯一の鍵は、ミゲルが大好きな曲、“リメンバー・ミー”。不思議な力を秘めたこの曲が、時を超えていま奇跡を巻き起こす!

3月16日(金)~ 公開中

監督:リー・アンクリッチ 共同監督:エイドリアン・モリーナ

製作:ダーラ・K・アンダーソン 製作総指揮:ジョン・ラセター

音楽:マイケル・ジアッキーノ 歌曲:ロバート&クリステン・アンダーソン・ロペス

日本版エンドソング ♪「リメンバー・ミー」(シシド・カフカfeat.東京スカパラダイスオーケストラ)

 

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