映画『ハーツ・ビート・ラウド』は、過去に音楽を志した者なら胸アツ必至⁉︎
話題の音楽映画『ハーツ・ビート・ラウド』を映画ライターのよしひろまさみちさんが見どころたっぷりに紹介します。この父娘の音楽や進路への夢を描いたドラマに、共感する人多し!
音楽誌、女性誌、情報誌などの編集部を経てフリーに。『sweet』『otona MUSE』で編集・執筆のほか、『SPA!』『oz magazine』など連載多数。日本テ...
Spotifyで忘れかけていた過去の夢が再び
なぜかロック映画をONTOMOで。いや、ロックはロックでもいわゆるゴリゴリのロックじゃないのよ。父と娘の成長物語を、美しい旋律で彩る音楽映画。ハートフルな音楽映画がお好きなら、ロックに興味がなくても絶対観るべき傑作よ。
まず、その映画『ハーツ・ビート・ラウド たびだちのうた』は、こんなストーリー。
舞台はニューヨーク・ブルックリンのレッドフックというエリア。元ミュージシャンで今はレコード店の店主をしているフランクは、シングルファーザーとして娘のサムと暮らしているのね。サムはLAの医科大学への進学が決まっているんだけど、レコード店は大赤字。進学支援金は出るとはいえ、赤字続きではヤバイ、ということで、店をたたむことを決意するの。
その夜フランクは、サムがキーボードをチロッと弾いたコード進行を気に入って、勢いで一曲作って宅録(古い)しちゃう。フランクは完成した曲「ハーツ・ビート・ラウド」を、これまた勢いでSpotifyにアップロード。すると、瞬く間に楽曲は拡散し、インディーズのプレイリスト入り。
かねてから親子でバンドをやりたい、と思っていたフランクはテンションMAXになるものの、サムは進学が決まってるし。一方のサムは、LAへの移住&初の一人暮らし&夢の医大生生活スタートを前に、ローズと恋仲になったばかりで、音楽のことなんて考える余裕もないし。果たしてこの父娘の関係、どうなるの!? というお話。
親子で音楽の趣味がバッチリあって、そのうえ演奏までできるなんて、音楽好きには夢のようよね。それがロックだったっていうだけで、クラシックのファンもジャズのファンも感情移入はできるはずなのよ。
しかもよ、この父娘はどちらもそれぞれにキャリア面での悩みを抱えているうえに、共通の悩みは「親離れ・子離れ」。シチュエーションこそ違えども、誰もが通る道を父サイド、娘サイドの両側面から描いているの。だから、親の世代、子の世代、どちらにもズキュンと響く作品になっているのね。
時代は変わる……しかし古きも大事
それを効果的に盛り上げているのが、彼らが作り出した楽曲群。あ、もちろん彼らが作ったワケじゃなくて、監督・脚本のブレット・ヘイリーと数作組んでいるキーガン・デウィット。監督はデウィットが作った4曲をもとにして、この作品に流れるしっとりしたトーンを作り出したのね。
ちなみに、『レ・ミゼラブル』と同様に、撮影では実際に演奏をしていて、彼らの奏でる音はそのまま収録されているそうな(全部の演奏シーンではないけど)。
あと、この作品が教えてくれるのは、ほんの10年くらい前と比べると、いかに簡単にレコーディングできちゃうか、ってことと、それを簡単に世に放つことができるってことね。
ほら、20年くらい前までは、「宅録」っていうだけでセールスポイントになったほどだったじゃない(中村一義とかね)。でも、今やDTMは当たり前だし、一人でオーケストラ級の編成を作曲~打ち込みできちゃう。この作品でフランクとサムが使うのは、ギターとキーボードとサンプラー+Macだっていうのに、仕上がりは3ピースバンド以上。そのうえ、Spotifyにアップするだけでインディデビューできちゃうんだから、時代は変わったわ……。
その時代の変遷ってのも、フランクのレコード店のクローズにたとえられているのよね。物語的には「新たな一歩を踏み出すために、古いものを捨てる」っていう、いわばコンマリの断捨離的なエピソードではあるけど、ストリーミング配信全盛の時代にレコードはそれほど売れるもんじゃないってことを意味しているのよね(「古いものは古いもので大事」っていうことも最後の最後で描いてくれるのが救いよ)。切ない。
あ、ちなみにブルックリンのレッドフックという場所は、マンハッタンの摩天楼が丸見えの埠頭がある場所。フランクが初めて自分たちの曲を耳にする「BAKED」っていうスイーツショップ(新宿・伊勢丹に入ってます)や、バーのシーンで出てくる「ブルックリン・ラガー」っていうビール(日本ではキリンが販売中)など、ブルックリンロケならではのディテール満載なので、そこもチェックよ。
6月7日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカ
提供:ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント
配給:カルチャヴィル
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