人種や民族の問題に音楽はどう関われるのか〜『バレンボイム/サイード 音楽と社会』
大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動...
人類が延々と抱え続けてきた、人種に由来する差別と社会のあり方の問題が、再び、世界的に取り沙汰されています。
そんな今読み返したいのが、『バレンボイム/サイード 音楽と社会』(みすず書房/2004年)。グローバリゼーションが広がる一方、強まってゆく排他主義や民族至上主義の問題について、バレンボイムとサイードが対話する部分もあります。
指揮者のダニエル・バレンボイムは、ブエノスアイレス生まれのユダヤ人で、イスラエル国籍。一方の故エドワード・サイードは、エルサレムに生まれカイロで育ち、ニューヨークに暮らしたパレスチナ人の文化研究者。
二人は1999年、ユダヤやパレスチナの問題を音楽でつなぐ試みとして、アラブ人、イスラエル人とドイツ人の演奏家を集めてオーケストラ(ウェスト・イースタン・ディヴァン管弦楽団)を結成し、「ウェスト・イースタン・ディヴァン・ワークショップ」を行なったことが知られています。
とはいえ、バレンボイムはこの経験のあとでも、音楽こそがどんな人種や宗教の壁も越えられる、などという楽観的なことは言っていません。
「音楽が中東問題を解決するだろうということにはならない」「音楽はすべてであると同時に何ものでもない」。ただし、人と人との友好関係を達成させる“可能性がある”ことは、自らのプロジェクトの中でわかった、としています。
この本の中ではそのほかにも、音楽はなぜ心を動かすのか、本物とはなにか、音楽とどう関わればよいのかなど、興味深いトピックスが語られます。
対話の題材は、今回、アメリカを発端に世界に広がっている問題とは少し異なりますが、人種や宗教の違う人々が心を通わせること、祖国を愛することとファシスト的な思想の違いについて、考える糸口を与えてくれます。
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