読みもの
2020.08.14
高坂はる香の「思いつき☆こばなし」第22話

社会における音楽家の役割とは? ピアニストのマリア・ジョアン・ピリスさんの答え

高坂はる香
高坂はる香 音楽ライター

大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動...

©️Felix Brode

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コンサートが徐々に再開し、演奏家にインタビューをする機会がまた増えてきました。

インタビュー取材をするときは、大体の場合、依頼主からこんなテーマで話を聞いてほしいという提案があります。その内容は、公演について、その方の音楽性を育んだ経歴や今取り組んでいることについて、というのが一般的。

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しかし、コロナ禍以降、これに加えて、「社会における音楽家の役割について聞いてみて」という提案が増えました。

それは、音楽家にとって根源的な問いです。コンサートは人が集うことが前提の芸術活動。これが難しくなった今、音楽芸術を存続させるための支援の必要性も訴えられています。そんななか、音楽家を取り巻く業界全体が、この問いについて考えているのでしょう。

実は、私はコロナ禍以前から、この大変面倒な質問を音楽家に投げかけ、意見を聞くのが好きでした。その答えから、彼らの覚悟や音楽に向かうスタンスが窺えるからです。あとは自分自身が、社会の中で人としてどう生きていくべきかという問いの答えへのヒントを、なんとなくいつも求めているというのもありますが。

その中で印象に残るのは、ピアニストのマリア・ジョアン・ピリスさんにお話を伺ったときのことです。ピリスさんはこれまで、若い音楽家のための教育に加え、農業や環境にまつわる活動も続けてきた方

2018年、コンサート活動から引退することを表明したマリア・ジョアン・ピリスのトップトラック

そこで尋ねました。「多くの人は、安定した立場や成功を手に入れると、人を助けることを忘れがちなのに、なぜあなたは社会のための活動を続けられているのでしょうか」と。

すると、ピリスさんはこうおっしゃいました。

私にとって、とても自然なことだからです。もし私が、自分が得たものを自分だけのものとして留めておけば、それはすぐに役に立たないものになってしまうから。

活動してくる中には、失敗もありました。でも今は、自分がしていることに意味があると思えるのなら、それでいいと感じています。他人がちゃんと理解してくれなくても、自分自身で確信できているなら、それでいいんです

その確信を得るためには、「常に正直でいること」も大切だとおっしゃっていました。自分をごまかしていたら、あとで辛くなるのは自分である……。音楽に限らず、すべての仕事や行ないに通じることかもしれません。

©️Felix Brode
マリア・ジョアン・ピリス
1944年、ポルトガルのリスボンに生まれ、1948年には初の公演を行なった。1970年、ベートーヴェン生誕200周年記念コンクールに優勝して国際的な活動を始め、極めて高い評価を得ている。1970年以降、芸術が生活、地域社会、教育に与える影響の研究と、社会の中で教育学的理論を実践するための新たな方法の立案に力を注いでいる。ここ10年間は、世界各地から集まった学生を対象に多くのワークショップを実施し、自らの哲学や教授法を紹介。ベルギーのエリザベート王妃音楽大学で教鞭を執る。
高坂はる香
高坂はる香 音楽ライター

大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動...

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