読みもの
2021.08.20
高坂はる香の「思いつき☆こばなし」第75話

オリンピックのカメラとコンクールのピアノ、メーカーの開発の成果がここに!

高坂はる香
高坂はる香 音楽ライター

大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動...

メイン写真:ショパン国際ピアノコンクールのピアノセレクションの様子(2015年)。撮影:筆者

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オリンピック関連のネットニュースのなかに、五輪はカメラメーカーにとって重要なプロモーションの場だという記事を見かけました。これまでキヤノンとニコンが二大勢力だったところ、今回はソニーが躍進しているらしい。

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被写体が素速く動き、さらには水の近くであったり、遠くからしか撮影できなかったりするスポーツ写真は、専門性が高く、特別な装備も求められるはずです。競技の内容を熟知している必要もあるでしょう。

その意味では、クラシックの舞台写真も、専門性が高いジャンルです。常に薄暗く、被写体はよく動き、しかし、動くわりに派手なポーズが出るのは一瞬。さらに、シャッター音をはじめ、わずかでも音を立ててしまうと怒られる……。よりよい写真のためには、ここがチャンスだと予想して狙い撃ちができる、作品への知識も求められます。

今でこそ、暗い場所で撮影するカメラ性能もあがり、また、デジタルデータをあとからレタッチすることもできますが、昔はフィルムで、その場で確認もできませんでしたから、ますます大変でした。

そして近年は、ミラーレスというシャッター音のしないカメラが出て、カメラマンさんたちの気遣いストレスはかなり軽減されたと思います。

それ以前は、消音カバーでカメラをぐるぐる巻きにし、そこに手を突っ込んで細かい操作をしなくてはならないうえ、小さな音でも立ててしまうと、敏感な聴衆から冷たい目線が飛んできて、本当に神経を使う作業でした。ストラヴィンスキーの《ペトルーシュカ》みたいな派手な作品なら、大音量に紛れるチャンスもたくさんありそうですが、ショパンの《子守唄》とかラヴェルの《亡き王女のためのパヴァーヌ》とか弾かれた日には、永遠にシャッターチャンスは巡って来そうにない……。

ストラヴィンスキーのバレエ音楽《ペトルーシュカ》から「ロシアの踊り」

ショパンの《子守唄》Op.57、ラヴェルの《亡き王女のためのパヴァーヌ》

それにしても、こういう大きな大会がメーカーのプロモーションの場だという話になると、やっぱりピアノコンクールにおける、ピアノメーカーの戦いのことが思い浮かびます。これはどちらかというと、スポーツでいうなら、選手が使うシューズやウエアの開発競争に近いかもしれません。

普段からプレイヤーと交流し、どんな機能が求められているのか、どうするとプレイヤーが最大の力を出せるのかを考えながら、日頃の本番のため努力するのはもちろん、数年に一度の大舞台を集大成の発表の場として、開発を重ねていくという。

先に開催されたショパンコンクールの予備予選では、ホールにもともとあったスタインウェイとヤマハのピアノが使用されていました。

これが10月の本大会になると、おそらく4、5社のピアノが揃い、ピアニストは15分程度のセレクションの時間で、自分が使う楽器を選ぶことになります。

今度のコンクールにどのピアノが出るのかはまだわかりませんが、日本のヤマハやカワイの楽器も出てくるはずです。一部のメーカーは、このときのために何年もかけて用意し、選定した楽器をワルシャワに持ち込み、大舞台に臨みます。

こうした機会があることによって、ピアノという楽器には、ピアニストの表現をより自由にするための改良が加えられていくのですね。

高坂はる香
高坂はる香 音楽ライター

大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動...

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