孔雀は気取って歩く
東京藝術大学声楽科卒業。尚美ディプロマ及び仏ヴィル・ダヴレー音楽院声楽科修了。声楽を伊原直子、中村浩子、F.ドゥジアックの各氏に師事。第35回フランス音楽コンクール第...
Paon se pavane
パン・ス・パヴァーヌ
孔雀は気取って歩く
前回〈ホロホロ鳥〉のみ紹介したラヴェルの 歌曲集《博物誌》 だが、他の4 曲も興味深い。
例えば1曲目の〈孔雀〉は、その羽の模様や気取った歩き方、鳴き声などが、作詩者ルナールの手で「花嫁を待ちながら結婚式の練習をしている花婿」に見立てられ、さらにラヴェルによってその様子が華麗に表現されている。
ラヴェル:《博物誌》 Nr.1 〈孔雀〉 (ルナール詩)
孔雀でラヴェルと言えばパヴァーヌ(pavane)だ。
例によって経緯がわかりづらいが、フランス語の孔雀(paon パン)は、ラテン語でのpavo(パーヴォ)を語源にもつ。pavoは形を変えずスペインに渡り、孔雀のようにゆっくりと歩く踊りのステップにpavana(パヴァーナ)の名がついた。これがフランスに入ってきたのがpavaneである。
さらに、se pavaner(ス・パヴァネ) といえば「(パヴァーヌのように)気取って歩く」という動詞にもなり、三人称単数現在で活用させるとse pavane(ス・パヴァーヌ)と、踊りと同じ発音になる。
ラヴェル:《亡き王女のためのパヴァーヌ》
ラヴェルの意図は「昔のスペインの宮廷で小さな王女が踊ったような音楽」だそうだ。しかし、この叙情的なメロディを聴きながら、実際にパヴァーヌの歩いて進むようなステップを踏むのは難しい。16-17世紀に流行したパヴァーヌの音楽は、もう少し拍のはっきりしたもののようだ。
アルボー:《私の命をうばう美女》
筆者は《亡き王女》に、畏れ多くもフランス語の歌詞をつけたことがある。
内容は孔雀でもベラスケスでもなく、真冬の失恋をテーマに作ったが、メロディの流れに合わせて作詞するのに苦心した。この曲の多くのフレーズが、音価の長い音から始まるためだ。
仏語の文章の初めには「私は」を意味する「je(ジュ)」や定冠詞の「le(ル)」などを置きたくなる。しかしこれらの単語は、いずれも「無音のe(ウ)」と呼ばれる、ほとんど発音されない母音をもつので、長くのばしにくい語なのだ。
悩んだ末、歌い始めの音にfleur(フルール、花)とかvent(ヴァン、風)、neige(ネージュ、雪)といった、短くかつ意味も音も強めの単語を置き、後はパズルのように詩句を組み立てた。
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