「3密」を避けてもできる! 音楽に合わせて体を動かす活動
新型コロナウイルス感染症に関する学校の対応に、多くの先生方が先行きの見えない不安に襲われた4月。「教育音楽 小学版」6月号の特集では、現場の先生方に「今後の音楽の授業はどうすればいいのか」当時の考えをお聞きしました。その中から筑波大学附属小学校の髙倉弘光教諭の記事をご紹介します。
全国の音楽の先生に役立つ誌面をつくるため、個性あふれる先生、魅力的な授業、ステキな部活……音楽教育の現場を日々取材しています。〔音楽指導ブック〕〔教育音楽ハンドブック...
「体を動かす活動」というと、全身を大きく使ってグループで表現活動をしたり、『おちゃらか』や『なべなべ』のように友達と触れ合ったりすることを連想します。残念ながら、今はこれらの活動は我慢しなくてはなりません。
しかし、椅子に座ったままでも、また一人でもできる「体を動かす活動」にはやりようがありますし、有効だと思っています。キーワードは「体の一部を動かす」「その場で動く」です。では、実際に活動を考えていきましょう。
歌唱教材で……
歌唱とは言っても、歌わない学習です。歌唱教材で音楽の「なにがしか」を学ぶという意識で授業をします。
例えば、範唱CDをかけて、子どもが楽譜をなぞるということもあるでしょう。実際の音と音符とをつなげる作業です。ここでは「なぞる」ことをもう少し掘り下げていきましょう。
指1本にします。もっと言うなら指の先(爪)で楽譜をなぞるようにします。音の上がり下がりに気を付けて、音符の玉の中心を通るようになぞるのです。こうすることで、旋律の動き(上がり下がり)を意識して教材と向き合うことができます。
さらに、旋律の動きを豊かに感じ取るために、腕全体を使います。ハ長調の場合、低いドは膝(または机の天板辺り)に手を置きます。ドレミファ……と上がっていくに従って腕(手)も上げていきます。ソは肩の高さ、つまり水平です。そして高いドは地面に対して垂直にピーンと真上に伸ばすように指示します。
例えば4年の歌唱共通教材『とんび』(葛原しげる作詞/梁田 貞作曲)ならば、「とーべとべとべ とーんびー」のフレーズで下のドから上のドまで音が一気に駆け上がっていくことを実感できます。子どもからは「なるほど。とんびに『飛べ飛べ』って言っている感じが旋律の動きに表れているね」「とんびが地面から飛んでいった感じだね」という発言が出てきそうです。
この活動は、学習指導要領のA表現の(1)のイ「曲想と音楽の構造や歌詞の内容との関わりについて気付くこと」に相当します。つまり、旋律の動きと歌詞との関係に子どもが気付く(知識)、そのための手立てとして腕を大きく動かす、つまり体を動かすわけです。座ったままできます。
このように、腕を上げたり下げたりする活動を通して、音の高さの違いを筋肉感覚で感じ取ることができます。高校の物理の勉強を思い出してください。高い所にある物体は「位置エネルギー」が大きくなりますよね。音も同じと考えます。だから、『とんび』の学習でも低いドから始まり一気に高いドまで腕を上げていくと、当然筋肉のエネルギーが必要なわけです。
そのとき、旋律が上がったことに気付くだけでなく、クレシェンドで歌うことが自然なのではないか、という強弱表現にまでアイデアが持てるようになる可能性があるのです。
同じ手法で扱える歌唱教材はないかと考えると教材研究も楽しくなります。6年の歌唱共通教材『ふるさと』(文部省唱歌/高野辰之作詞/岡野貞一作曲)も、この活動に適していると思います。
『かえるのがっしょう』で……
腕を上げ下げする活動を用いてクイズもできます。2年生の『かえるのがっしょう』(ドイツ民謡)です。教師は子どもたちと対面して立ちます。子どもは座ったまま、あるいは立ったままの姿勢です。
教師が、
と膝を打ちながら歌います。それに続いて子どもたちはジェスチャーだけまねします。動きのまねっこですね。
続いて、
と教師が歌い、手も次第に上げていきます。先ほどと同じ要領です。子どもも動きだけまねします。
続いて「ミ・ファ・ソー」→子どもがまね、「ソ・ラシ・ドー」→子どもがまね、と教師が4拍分の旋律を即興的に歌い、子どもは動きだけをまねする遊びをします。ジェスチャーをはっきりさせることがポイントです。
それが終わったら「今度は少し長いですよ! 8拍です。しかも先生は歌いません。ジェスチャーだけします。何の歌か当ててください」と言ってから『かえるのがっしょう』の最初のフレーズを演じます。そう「ドレミファミレド」ですね。それをジェスチャーだけでやるのです。想像がつきますか? 低学年の子どもでも「はい!分かった!」となるはずです。
音が鳴らなくても、腕の動きだけで音楽が可視化され、「分かった!」につながります。歌えませんから、サイレント・シンギングとジェスチャーだけで『かえるのがっしょう』を歌ってみましょう。それができたら輪唱もジェスチャーだけで。2パート、3パート、4パートと増やすこともできますね。その場でジェスチャーだけの合唱。間違わずに成功したら「やったー!」と声が上がることでしょう(おっと!大声はいけません)。
鑑賞の学習で……
私は日常的に鑑賞の学習に体の動きを取り入れています。例えば『剣の舞』(ハチャトゥリアン作曲)を聴いて、合いの手(トロンボーンによる下行のポルタメント)が聞こえたら手を上げたり、その場に立ったりする活動です。
『春の海』(宮城道雄作曲)でもクラスを尺八グループと箏グループに分け、自分のグループの楽器の音色が聞こえたときに立つ活動をしています。その場でもできることですし、かなり楽しい活動ですから、今回の制限化では鑑賞学習を少し多めに扱うということも大変有効だと思います。
もう一つご紹介します。『白鳥』(サン・サーンス作曲)の旋律を体の動きで表す活動です。この曲はご存じの通り、チェロによるとても優雅な旋律が特徴的です。私はこれまで体全体を使った身体表現を提案してきましたが、今回はそれを椅子に座って行う方法を提案したいと思います。旋律の動きを腕、いや手の動きで表現するのです。
先ほどの歌唱の例にあるように、手の動きで音の高さを表します。さらに今度は手(左右どちらか)、指の動きを含めた手の表情も加えて『白鳥』の旋律を動いてみましょう。
はじめは教師も手(指の動きも)と腕だけのバレリーナになったつもりで、子どもと向き合って動いてみましょう。子どもはきっとまねをするでしょう。
それができたら座ったまま短いフレーズごとに一人ずつ動きのリレーをするというのもいいと思います。座席の1列ずつ前に出てきて動きを披露し合ってもいいと思います。こうすることで、何度も『白鳥』を鑑賞することができますし、ゆったりした曲想を体感することもできるしょう。子ども一人一人の動きには個性が出るものです。みんなで認め合えると素晴らしいですね。
こんなことにも気を付けて(留意点)
何と言っても「3密」を避けることです。音楽室は普通教室より広い場合があります。間隔を広く取って椅子を配置し、子どもたちが椅子の位置から大きく動かないように心掛けましょう。
動き回らなくても体を動かす活動を取り入れることはできます。学習のねらいをしっかり持って授業を展開されるとよいと思います。
(4月時点)
——『教育音楽 小学版』2020年6月号特集「緊急事態!どうするこれからの授業」より/髙倉弘光(筑波大学附属小学校教諭)
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