教員をしている保護者からのクレーム……若い教員はどう対応すればいい?
学校に一人が当たり前の音楽科教員。「授業がうまくいかない」「相談しようにも誰にも言えない」など、教師を取り巻く悩みは尽きません。そんな教師の悩みを知り尽くした明治大学の諸富祥彦教授に、教科教育を超えた悩みに答えていただく『教育音楽』のご長寿連載「教師の悩み相談室」。今回は受け持つ子どもの親が教師だった場合のクレーム対応について教えてもらった記事をご紹介します。
担任をしている子どもの保護者に、小学校の教員をしている方がいます。他の保護者とは違って同業者ならではの指摘をされてしまいます。まだ20代の私は、正直プレッシャーを感じて非常にやりづらいです。
保護者対応は大きな悩み 逆恨みもよくある話
私は「悩める教師を支える会」でたくさんの先生方の悩みを聞いてきました。悩みの内容は主に四つで、一つ目は今大変話題になっている「多忙さ」です。教師の仕事はブラックです。あまりに多忙で否が応でも心身が疲れきってしまう方が多くいます。
二つ目は学級経営と生徒指導です。子どもとの関係をどうやってうまくコントロールするか、それが悩みの種になっています。
そして三つ目が保護者対応、四つ目が同僚や管理職との付き合いです。これらが相混じって難しくなるのですが、保護者からのクレームにどう対応するかはとても大きな悩みです。
その中でも少なくないのが同業の保護者への対応です。ある先生から聞いた話では、保護者が野球部の顧問をしている担任に食って掛かってきたそうです。その母親は中学校の教師で、「あなたも先生なら教師の悩みぐらい分かるでしょう」と話し始めました。「夫も中学校の教師なんです。あなたと同じ野球部の顧問をしています。夫が野球部の顧問をしているせいで我が家はもう何十年お盆もない、正月もない、ゴールデンウィークもない生活です。ひたすら野球部の顧問だけをしている毎日。いつも子どもたちと『実質的にシングルマザーの家庭だよね』と話しています。だから私は野球部の顧問が大嫌いなんです」と言ったそうです。
食って掛かられた担任としては「それはご主人に言ってよ……」と言いたくなったことでしょう。しかしそういった逆恨みはよくあります。しかも同業者のことだからよく分かる。
「教師の敵は教師だ」と言っている人がいましたが、保護者から「あの件はどうなっているんですか? 私も教員だから分かっていますよ」なんて言われたらやりづらいですよね。若手の先生なら自分より年上の保護者も多いでしょうから大変です。
まず頼ってみる、そして相談。同業者だからこそ分かり合える
ではどうすればいいのか。もしも相手の指摘が正しいものであれば、まず「ありがとうございます」と感謝することです。これがクレーム対応の基本です。
次に「こんなこと言われたくない」と萎縮すると余計責められるので、逆に相談するのです。「お母さまも教員だからお聞きするのですが、同じようなことがあったらどうされますか? よろしければヒントをいただきたいのですが」と言ってみましょう。若い先生から頼られるといい気持ちになるはずです。
教師には「頼られ好き」な方が多いです。「今は保護者として来ているのだから頼っちゃいけない」などと思わないことです。「教師の先輩としてお聞きしたいのですが」と「先輩」という言葉を使いましょう。先輩と言われたらぐっときます。まずは頼ってみる。そして相談してみましょう。
保護者の期待に完璧に応えることはできないことも、同業者なら分かっていると思います。だから率直に困っていることについて意見を聞くことは悪くありません。「なるほど。もう少し教えてください」「私はこうすればいいんでしょうか?」と積極的に話を膨らませます。そして「それでいいんだよ」と言わせれば、相手は「後輩を指導してあげた」といい気持ちになる。でも実はこちらが手のひらで転がしているのです。
ポイントは聞き上手になることです。「同業者から指摘をされた」というのではなく「教えをいただいた」「先輩として指導してくれようとした」と認知を変えてみる(リフレームする)のです。
リフレームとは、角度を変えて違った捉え方をしてみることです。相手を我が師と思って「これでよろしいのでしょうか?」と丁寧に指導を仰ぐような姿勢で尋ねてみるのです。1回学べば、同様の保護者とのやり取りでも使えます。
相手の上に立つことで自己満足を感じるタイプの人は一定数います。「なるほど。そうしてみるといいかもしれませんね。勉強になります。ありがとうございます」と伝えていい気持ちにさせる。学べるところは学ばせていただきましょう。それがうまくいくコツです。
後は先生も話を聞いてあげるとよいでしょう。悩みはいろいろあるでしょう。愚痴のこぼし相手になれるかもしれません。同業者は分かり合えることが絶対にあります。だから身構えるのではなく話を向ける。そのうち相手に「お互い苦労しているな。こんな保護者がいたら私も困るだろう」と思ってもらえれば、だんだん軟化してくるはずです。
クレームには固まらない 相手を大事にすること
保護者からの厳しい指摘に対して一番良くないのはビビってしまうこと、指摘してきた人に対して固まってしまうことです。相手が固まっていると人間は本能的に攻撃したくなるのです、それはいじめても相手が耐えていると、もっといじめたくなる心理と同じです。クレームもどんどんエスカレートしていきます。ブレーキが利かなくなってついつい言ってしまうのです。
そういうときはどうすればいいのか。「あ、図星」と怯みそうになっても「ああ、そうですか。なるほど。どうもありがとうございます」「なるほど。おっしゃる通り。勉強になります」と、とにかく返すのです。こちらが固まって沈黙しているとボコボコにやられてしまいます。一度固まると動き出すのは難しいので、何かしら言葉を発しておくことが大切なのです。
格闘技でも守りに入っているときに体勢を立て直したり、間を取ったりしておくのが大切なのと同じです。一気呵成に攻められないように「距離を取る」のです。
そして忘れてはいけないのがクレーム対応の基本、ねぎらいです。「わざわざ起こしくださってありがとうございます」というおもてなしの心。「大切なことを教えてあげた」という気持ちになってもらうことです。
文句を言う人は多くの場合「大事にされたい」と思っているものです。文句を言われると「やられた」と思わず固まりそうになりますが、「ああ、この人は人に大事にされたいんだな」と思って対応するのです。結局「相手を大切にする」ということが原則です。
同業者だからこそ、いろいろなことが見えて何かを指摘したくなることがあります。特に保護者の方が年上の教師の場合に、そういった気持は強くなるでしょう。でもそれは同業者だからこそ教えてあげたいという気持ちの表れかもしれません。そのときは「ありがとうございます」と感謝して謙虚に耳を傾けてみましょう。学べる点もあるかもしれません。相手の納得感も高まるでしょう。
――『教育音楽 小学版』2019年10月号連載「教師の悩み相談室」より/諸富祥彦(明治大学教授)
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