メンタルトレーニング小説『みさきの丘から』~県立みさきが丘高校吹奏楽部

第4話「俺ってカッコいい」〜周囲の期待がプレッシャーに。どうコントロールする?

読みもの
2020.01.21

県立みさきが丘高校吹奏楽部の部員たちの心の葛藤をショートストーリーでつづる、メンタルトレーニング小説『みさきの丘から』。最後に、メンタルやチームプレーなどの課題解決のヒントを、メントレアドバイザー・クローゼが提案!
第4回は、自意識過剰な男子のメンタルについて。

岡村明子 作家
岡村明子
岡村明子 作家
コンサートホールで働く傍ら、趣味で文芸活動をしている。 第93回コスモス文学現代詩部門新人賞、第2回「いい夫婦川柳大賞」優秀賞、第38回神奈川新聞文芸コンクール短編小...
メントレアドバイザー・クローゼ
黒瀬大輔 メンタルトレーニングコンサルタント
黒瀬大輔
メントレアドバイザー・クローゼ
黒瀬大輔 メンタルトレーニングコンサルタント
14歳よりオーボエを始める。桐朋学園大学、ブレーメン芸術大学を卒業。元ハノーファー連邦警察オーケストラ首席オーボエ奏者。ドイツで演奏活動を行っていたが、演奏家に対する...

トランペット白石遥人「俺ってカッコいい」

「ねえねえ、知ってる? 2年で一番人気がある男子。誰だと思う?」

学校の休み時間。同じクラスで前の席に座っているフルートの小島美音が、特徴的な大きな目をさらに見開き、後ろを振り返って聞いてきた。

自分が可愛いってわかってる女子の表情。トランペットの白石遥人はその質問もさることながら、まぶたに刺さりそうなぐらいカールさせたまつげが気になっていた。そのまつげにも自信が満ち溢れているような気がする。ま、俺は興味ないけどね。

「知らね。っていうかそれってこの学年の話? それともうちの部の話?」

「吹奏楽部に決まってるでしょ。1年の女子たちが噂してるの聞いちゃったんだよね」

「……誰」

「教えない」

「は? なんだそれ。聞いといてそれ、なくない?」

「実はねえ……」

思わせぶりですぐに結論を言わないから女ってムカつく。だいたい、2年の男子は5人しかいない。その中で一番も何もないだろう。女の噂話なんて、まじ、どうでもいいし。お前はまつげの上につまようじでも載せてろ。

「白石先輩!らしいよ」

「まじか!」

「トランペット上手だし、ここぞという時に絶対外さない、頼れる! って。しかも女子にあんまり媚びないところがカッコいいんだってさ」

しらけかかった気持ちが一気にルンルンだ。ありがとう美音。そのまつげも許す。女子にモテれば、男子は誰でもうれしいのだ。よし、今日も練習がんばるぞ。

夏のコンクールが終わると3年生はいったん引退、自由参加となり、団長も代替わりして、実質的に2年生が吹奏楽部を運営していくことになる。

まだ楽器を始めたばかりの1年生の面倒も見つつ、自分たちだってそれほど経験に差があるわけでもない2年生が、一応は先輩としての体面を保つためには、そう、1年生より上手でなくてはいけない。1年生に「カッコいいな、ああなりたいな」と思われるような演奏がしたい。それは誰もが思っていること。

トランペットのそれは格別だ。トランペットは常にスターでなくてはならない。大事な場面で、すべてを凌駕する輝かしい音色を響かせるには、度胸と自信が必要だ。

 

今日は、1か月後に迫ったアンサンブルコンテストのための金管五重奏の練習だ。ニヤニヤしながら練習室に現れた遥人を見て、メンバーからはカッコいいどころか「あいつどうした、キモイ」と言われていたのだが、そんな声は耳に入らない。俺様、カッコいい。今日は調子よく吹けそうな気がする!

ところが、遥人の自信は、吹き始めてものの5分で崩れていく。

こんなはずじゃないのに。どうしても吹き通せない。同じところで唇が保てなくなり、音を外す。

やっぱり、今日もダメだ。いつもここで、バテてしまう。

 

これまでコンクールや文化祭で演奏してきた曲は、正直、見せ場の前には休みも結構あって、さほど無理なく吹き通すことができた。「ここぞというときに絶対外さない、頼れる!」という1年女子の評価はうれしいけれど、そんなに大変な曲、実はやってないんだよなあ。

アンサンブルはそうはいかない。5人しかいないから音が多い。実はすぐバテる、という弱点は、金管の同期はよく知っていた。

「音はきれいなんだけどね、スタミナないよね」

今回のメンバーでもあるホルンの田島元子は、遠慮なく傷つくことを言う。眼鏡の奥の一重まぶたに表情がなく、いつも睨まれているような気分になる。うるせえ。わかってるよ。そんなことを言われると、自分の取り柄でもある「度胸と自信」すらグラグラと揺らいでくる。

いつだかスタミナのなさを悩んで先輩に相談したらひとこと、「気合い」という答えが返ってきた。俺ってやっぱり気合いが足りないのか……。

弱みを見せたくなくて、人前でさらうときは目立つフレーズ、楽でカッコいいところだけをこれ見よがしに吹いていた。きっとそれで上手だと勘違いされているだけ。ほんとはよくわかってる。

1年からの人気ナンバーワンなんて、逆にプレッシャーなんですけど! 

女はいいよな、まつげくるんってするだけで自信が持てるんだから。

ホルンの田島は危なげない演奏をするけれど、俺に言わせれば、度胸がなさすぎて見せ場を作れない。美音は演奏も堂々としていて舞台映えする。自分に自信があるかないかで全然違うんだよなあ。

「田島もまつげ巻けば?」

「なんの話? さらえば?」

……だよな。バカか、俺。

♪クローゼのメンタル・アプローチ♪

メントレのスペシャリスト・クローゼが、毎回ハッとするような一言をつぶやきます。

思ってもみなかったところに解決の糸口が見つかるかも!

 

アプローチ1:プレッシャーは誰が作っているの?

今回の話で、プレッシャーを作っているのは誰でしょうか。憧れている1年生? 事実を伝えた美音? 遠慮なく傷つくことを言う元子? それとも、遥人本人?

 

アプローチ2:自信って崩れるの?

「2年人気ナンバー1」という事実を知ってせっかく手に入れた遥人の自信が、吹き始めてものの5分で崩れていってしまいました。遥人は本当に自信があるのでしょうか。なぜ、遥人の自信は崩れてしまったのでしょうか。

 

アプローチ3:強い自信とは?

遥人のように他人からの評価を自信の軸にしてしまうと、非常に不安定で崩れやすい自信になってしまいます。どうすれば、崩れにくい自信を獲得できるでしょうか。

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