第1章:地球星歌の旅 Vol.3 ヨーロッパ
日本全国の学校や合唱団で歌われ続けている合唱曲《COSMOS》や《地球星歌》。旅の体験や星空の影響を受けた作者のミマスさんが自身の想いをこめた歌です。そのメッセージが、十数年の時をかけて歌とともに広まっています。この連載ではプロローグに続き、ミマス作品に込められたご本人の体験をエピソードとともに紹介していきます。
Sachikoの澄みわたるボーカルと、ミマスの詞と曲を基盤とする音楽ユニット「アクアマリン」( http://aqumari.com/ )のメンバー。1998年6月結...
アムステルダムではぜひ訪れたい場所がありました。有名な『アンネの日記』を書いた少女アンネ・フランクの家です。アンネ・フランクは第2次世界大戦中に『ユダヤ人である』というだけの理由でドイツ軍に捕らえられ、強制収容所に送られて命を落とします。平和を願い続けた少女の、15歳での死でした。彼女が捕まるその日まで家族と屋根裏に隠れ住んだ家が今も残っており、博物館になっています。彼女が日記を書いた部屋、見つからないようにこっそりと外の世界を覗いた小さな窓。そこで見た全てのものが、僕の胸を締め付けました。《地球星歌》のテーマは『平和』ですが、このアムステルダムでの体験が、歌作りのたくさんの種の一つになったことは間違いありません。アンネは生前、『もし自分が生き残ることができたら世界の平和のために働きたい』と言っていたそうです。その想いは、やはり人類の”誰か”が引き継がなければならないのだと思います。本当に微力ですけれど、僕自身もその”誰か”の一人になりたいと思ったわけです。
次に訪れたスペインはまさに太陽の国でした。レンタカーを1週間借りて、南部のアンダルシア地方やポルトガルを巡ったのです。グラナダにある世界遺産アルハンブラ宮殿は、かつてイスラム勢力がスペインを支配していた時代のもの。まるで無限に広がる宇宙のように、複雑で美しい幾何学模様が壁一面に広がります。その不思議な、吸い込まれるような美しさに大きな衝撃を受けました。また、スペイン・ポルトガルはとにかく海がきれいでした。まぶしい陽光に輝く地中海。アフリカとヨーロッパがわずか十数kmの距離で向き合うジブラルタル海峡。ポルトガルのサグレス岬やロカ岬から見下ろす大西洋。大航海時代に水平線を目指した船乗りたちは、この海の輝きに果てしない夢を見たのだろうな…。そんな感慨深い気持ちになりました。
さて、半年間に及ぶ世界旅行の最後の目的地は出発前から決めていました。それはヨーロッパ最北端、ノルウェーのノールカップ岬です。この旅は南米パタゴニアやアフリカの喜望峰、ユーラシア大陸最西端のロカ岬など、『世界の果てを巡る』というのが大きなテーマでした。最後に訪れたヨーロッパ最北の岬はひどい悪天候で、断崖の上から見下ろす北極海は暗い灰色。強風に雲が低く流されオドロオドロしい雰囲気です。それでも新婚旅行のゴールというけっこう大切な節目ですから(笑)、冷たい雨に打たれながら、岬の先端に立つ大きな地球儀のモニュメントの前で『これまでありがとう、これからもよろしく』と短く言い合いました。フィンランドから日本へ帰る飛行機に乗る日も雨。半年間にわたる旅の最後の風景は、静かに雨が降る、誰もいないヘルシンキの港でした。
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