弁護士・阿友子の ミュンヘンからの音楽便り#5 芸術の秋を彩るミュンヘンのコンサートホール
大好評のONTOMO連載「インターネットと音楽についての法律相談室」でおなじみの弁護士、橋本阿友子さんが、ミュンヘンでの研究生活や、社会人として音楽を学ぶ意義を考えながら徒然なるままに思いの丈を綴る連載。
秋といえば”芸術の秋”。ミュンヘンで秋を迎える橋本さんも、仕事や研究の合間をぬってコンサートホールへ足しげく通い、芸術に触れているとのこと。今回は、そんなコンサートホールと改修工事の著作権紛争にまつわる話をお届けします。
京都大学法学部卒業、京都大学法科大学院修了。ベーカー&マッケンジー法律事務所を経て、2017年3月より骨董通り法律事務所に加入。東京藝術大学利益相反アドバイザー、神戸...
まるで夏のような陽気に恵まれたオクトーバーフェストの喧騒が去り、静けさと寒さが同時にやってきました。今回は予告通り、そんな芸術の秋を迎えたミュンヘンから、コンサートホールのお話をお届けしたいと思います。
ミュンヘンで音楽を聴こうと思えば、レジデンツ(旧バイエルン王国の王宮)内にあるヘラクレスザール、バイエルン国立歌劇場、プリンツレーゲンテン劇場、ガスタイク(文化センター)や教会など、たくさんの選択肢があります。
このうち、私が足しげく通っているのは、ガスタイク。といっても、本家本元のガスタイクは従前より指摘されてきた音響の問題があって改築中のため、現在は、一時的に仮の施設でコンサートが開かれています。その名も、ガスタイクHP8。
私は、キーシン、ブレハッチ、ヒラリー・ハーン、反田恭平、バイエルン放送響、ミュンヘン・フィルなどの一流アーティストによる音楽を、このHP8で楽しみました。
改修中のガスタイク・HP8のいずれも、その音響設計は株式会社永田音響設計(豊田泰久氏)によるとのこと。同社は、サントリーホールをはじめ、世界中のホールの音響を数多く手掛けており、我が骨董通り法律事務所がある表参道のスパイラルホールや、私の地元の隣市にある兵庫県立芸術文化センターなどを手掛けていらっしゃいます。言わずもがな、上野学園大学が所有していた石橋メモリアルホール(改築前)も同様で、学生時代はたいへん贅沢にも、同社に所属の先生から、音響学を学びました。
このガスタイク、実は改修工事にあたって、ちょっとした著作権紛争がありました。改築前のオリジナルの建築物について著作権を有している建築家の遺族らが、改築に対して法的措置をとろうとしていたというものです。著作者には、同一性保持権と呼ばれる、著作物を作者の意に反して改変されない権利があります。ドイツ著作権法にも似た権利があるので、この法的措置は(詳しい背景はわかりませんが)オリジナルを改築するという行為がこの権利を侵害する、というロジックだと思います。
ドイツ著作権法は日本法とは異なり著作権(……という概念も日本と違うのですが)が相続の対象となるためか、この紛争は遺族が争ったケースのようですが、最終的には和解金の支払いで解決されたようであり、改修工事は無事進んでいる模様です。
同じドイツでも南のミュンヘンから遠く離れた北ドイツに位置するハンブルクでは、著作権紛争こそなかったものの、着工後に資金不足に陥り、約7年も遅れて完成を迎えたエルプフィルハーモニー・ハンブルクが、新たな観光名所となっています。
現地に住む知人の話では、当初の10倍にも膨れ上がった建築費には、市の税金が使われたとか。そんな背景がありつつも世界中の人々を魅了してやまないこのホールの音響も、永田音響設計によるものです。異空間に迷い込んだような感覚を味わえるので、建築物好きの方にもお勧めのホールです。
10月中旬から11月中旬にかけてのミュンヘンでは、特段のイベントがないばかりか、ただただ寒く、日照時間が極端に短い受難の日が続きます。そんな時期の何よりもの救いは、美しい音楽に触れること。限られた滞在の中で、あと何度、コンサートホールに足を運べるでしょうか。
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