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2021.03.30
音楽ファンのためのミュージカル教室 第13回

ウィーン発のミュージカル誕生の経緯とヒット作『モーツァルト!』の魅力を解説!

音楽の観点からミュージカルの魅力に迫る連載「音楽ファンのためのミュージカル教室」。
第13回は、モーツァルトの生涯を描いた人気ミュージカル『モーツァルト!』を取り上げ、誕生の背景から見どころ・聴きどころまで、たっぷりと紹介します。2021年4月8日(木)から5月6日(木)まで、帝国劇場で上演予定(札幌、大阪公演あり)。

山田治生
山田治生 音楽評論家

1964年京都市生まれ。1987年、慶應義塾大学経済学部卒業。1990年から音楽に関する執筆活動を行う。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人 -ある日本人指揮者の...

『モーツァルト!』2018年公演より山崎育三郎演じるヴォルフガング・モーツァルト。
写真提供:東宝演劇部

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数々のヒット作を生み出したゴールデン・コンビ、クンツェ&リーヴァイ

ミュージカルといえば、ブロードウェイ(ニューヨーク)やウエスト・エンド(ロンドン)が本場であるが、近年はウィーン発のもの(オリジナルはドイツ語)も人気を博している。その代表例として、『エリザベート』と『モーツァルト!』があげられる。どちらも、脚本・歌詞をミヒャエル・クンツェが、音楽・編曲をシルヴェスター・リーヴァイが担った。

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クンツェは、1943年、プラハ生まれ。戦後、ドイツに移住し、ポップス、フォーク、ロックなどに出会う。ミュンヘンの大学では法律を学ぶ。そして、作詞の仕事を始めた。リーヴァイと初めて出会ったのは1973年、ミュンヘンのスタジオであった。リーヴァイがスタジオでのレコーディングにキーボード奏者として参加していたのである。

ミヒャエル・クンツェ(1943~)
作詞家、ミュージカル脚本家、作家。
1980年代からミュージカル作品のドイツ語翻訳に着手し、アンドルー・ロイド・ウェバーの『エビータ』、『キャッツ』、『オペラ座の怪人』をはじめ、数多くの作品を手掛けた。
©Kékesi Miklós PR /PS Produkció

クンツェは、リーヴァイとともにディスコ・ミュージックに取り組み、シルバー・コンベンションというグループを作る。1974年、シルバー・コンベンションの「セイヴ・ミー」がヒット。1975年には、シルバー・コンベンションの「フライ・ロビン・フライ」がビルボードのチャートの第1位を獲得した。リーヴァイとのコラボレーションである、ペニー・マクリーンの「レディ・バンプ」もヒットするなど、ドイツでポップスの作詞家として成功を収めていく。また作家としても活躍した。

シルバー・コンベンション:「セイヴ・ミー」「フライ・ロビン・フライ」

1980年代に入ると、ミュージカル『エビータ』や『キャッツ』のドイツ語版の翻訳も手掛け、自らのオリジナル・ミュージカルの創作を思い立つ。そして、『エリザベート』の企画を、アン・デア・ウィーン劇場(注:ベートーヴェン《フィデリオ》の初演で知られる劇場であるが、当時はミュージカルに使われていた)のペーター・ヴェック芸術監督に持ち込んだ。

そして、リーヴァイに作曲を依頼。演出は、ベルリン・コーミッシェオーパーの首席演出家であり、バイロイト音楽祭の《ニーベルングの指環》も手掛ける鬼才、ハリー・クプファーが担うことになった。

ミュージカル《エリザベート》は、199293日、アン・デア・ウィーン劇場で開幕。評論家には不評であったが、観客には人気を博した。その後、日本にわたり、1996216日、宝塚歌劇団雪組(潤色・演出:小池修一郎)によって、宝塚大劇場で開幕。『エリザベート』の成功を受けて、クンツェとリーヴァイは『モーツァルト!』の創作に取り掛かった。

ウィーン版ミュージカル『エリザベート』

リーヴァイは1945年、スボティツァ(当時はハンガリー、現在はセルビア)生まれ。8歳で音楽学校に入学。1962年、ドイツに移住し、1978年、ドイツ国籍を取得した。

クンツェと組んで、ディスコ・ミュージックを手掛け、シルバー・コンベンションに楽曲を提供した。その後、映画音楽を志し、1980年代後半にロサンジェルスに移住。ハリウッドで活躍。そして、1992年の『エリザベート』で成功を収める。続く『モーツァルト!』の作曲に取り掛かっている時期に、レーヴァイは夫人とともにウィーンのシェーブルン宮殿内の住居に移り住んだ。

シルヴェスター・レーヴァイ(1945~)
作曲家、編曲家、指揮者、ピアニスト、プロデューサー。
8歳のときからミュージカル曲の作曲に励み、15歳のときに初めてコンテストで入賞したという。

『エリザベート』も『モーツァルト!』も、ウィーンゆかりの歴史上の人物の物語。ウィーン発のミュージカルにふさわしい。

その後、クンツェ&リーヴァイは、『レベッカ』(2006)を発表。続いて、東宝からの依頼に応えて、『マリー・アントワネット』(2006)を創作する。東宝が製作し、帝国劇場で世界初演。2014年に発表した『レディ・ベス』(2014)も東宝製作、東京発のミュージカル。

そのほか、クンツェのミュージカル作品には『ダンス オブ ヴァンパイア』(ジム・スタインマン作曲)、リーヴァイのミュージカル作品には、細川智栄子あんど芙~みんの漫画を原作とする『王家の紋章』(2016)などがある。

モーツァルトの楽曲を取り入れつつ、リーヴァイの個性も光る音楽

ミュージカル『モーツァルト!』は、1999年10月2日、アン・デア・ウィーン劇場で世界初演された。演出は、『エリザベート』に引き続き、ハリー・クプファーが務めた。2001年5月7日まで、計419回、上演が続けられた。オリジナルはもちろんドイツ語。日本では、2002年10月6日、日生劇場(演出・訳詞:小池修一郎、宝塚歌劇団)で開幕し、以後、何度も再演されている。

モーツァルトの生涯を描く作品だが、多くの部分で史実とは異なるフィクションが含まれている。また、モーツァルトの作品の多少の引用もあるが、ミュージカル全体は、リーヴァイ・オリジナルの美しいメロディやロック調の音楽によって構成されている。ロック調の音楽には、モーツァルトが当時のロック・スターのような存在であったという意味も込められているのであろう。

ミュージカル『モーツァルト!』2021年公演の特報

今回の上演では、ともにNHKの連続テレビ小説『エール』で人気を博した、山崎育三郎と古川雄大がダブル・キャストでヴォルフガング(=モーツァルト)を演じる。父レオポルトは市村正親。モーツァルトと対立するコロレド大司教には山口祐一郎。幼い頃からヴォルフガングの才能を見抜いていたヴァルトシュテッテン男爵夫人は、涼風真世と香寿たつきのダブル・キャスト。ヴォルフガングの妻、コンスタンツェは木下晴香が演じる。小池修一郎による2018年新演出バージョンでの上演。

ヴォルフガング・モーツァルトを演じる古川雄大(右)。
写真提供:東宝演劇部
左からナンネール(和音美桜)、レオポルト(市村正親)、ヴォルフガング(山崎育三郎)
写真提供:東宝演劇部

あらすじと聴きどころ

第1幕

1768年、ウィーンのメスマー邸。12歳のヴォルフガングは、貴族たちから神童と騒がれている。

1777年、成人したヴォルフガングは、ザルツブルクでコロレド大司教に仕えているが、大司教とは対立。ヴォルフガングは、自分らしく生きたい、音楽こそが生きがいと、「僕こそ音楽」を歌う。

そしてヴォルフガングは、母親とともに旅に出る。父レオポルトは、旅立つ息子を心配して「心を鉄に閉じ込めて」を歌う。

マンハイムに立ち寄ったヴォルフガングは、ウェーバー家と知り合い、将来妻となるコンスタンツェと出会う。ヴォルフガングはパリにたどり着くが、パリでは期待したほど評価されず、同地滞在中に母を病で亡くしてしまう。

「僕こそ音楽」「心を鉄に閉じ込めて」

左からヴォルフガング(古川雄大)とコロレド大司教(山口祐一郎)。
写真提供:東宝演劇部

ヴォルフガングは失意のままにザルツブルクへ帰郷するが、大司教との対立は続いている。ヴォルフガングの才能を認めるヴァルトシュテッテン男爵夫人は、「星から降る金」でヴォルフガングに才能を伸ばすためにウィーン行きを勧める。

ウィーンに出たヴォルフガングは、「影を逃がれて」で、自分の影から自由になりたい、本当の人生を見つけたいと歌う。ヴォルフガングの心の叫びのようなナンバー。

「星から降る金」「影を逃れて」

第2幕

1781年、ヴォルフガングはウィーンに移り住み、コンスタンツェと結婚。二人は「愛していれば分かり合えるを歌う。「プリンスは出て行った」は、ウィーンに出て行ったヴォルフガングを思う、ザルツブルクの姉と父のナンバー。

享楽的な生活に慣れたコンスタンツェは、夜になるとひとりダンス・パーティに出かけるようになり、「ダンスはやめられない」と歌う。

「愛していれば分かり合える」「プリンスは出て行った」「ダンスはやめられない」

モーツァルトはオペラ《フィガロの結婚》などで成功をおさめる。しかし、父レオポルトがウィーンにやってきて、高慢な息子に苦言を呈する。ヴォルフガングは「何故愛せないの?」を歌う。そして、父が急逝する。

1789年に入ると、オペラ《魔笛》の成功がある一方で、不吉な《レクイエム》の作曲の依頼を受ける。人々は「モーツァルト! モーツァルト!」を歌うが、1791年12月4日、ヴォルフガングは、「僕こそ音楽」を回想しながら、無念にも亡くなってしまう。

「何故愛せないの?」「モーツァルト! モーツァルト!」

アマデとヴォルフガング(山崎育三郎)。
写真提供:東宝演劇部
公演情報
ミュージカル『モーツァルト!』

日時: 2021年4月8日(木)〜5月6日(木)

会場: 帝国劇場

脚本/歌詞: ミヒャエル・クンツェ
音楽/編曲: シルヴェスター・リーヴァイ
演出/訳詞: 小池修一郎(宝塚歌劇団)

出演
ヴォルフガング・モーツァルト:山崎育三郎/古川雄大(Wキャスト)
コンスタンツェ(モーツァルトの妻):木下晴香
ナンネール(モーツァルトの姉):和音美桜
ヴァルトシュテッテン男爵夫人:涼風真世/香寿たつき(Wキャスト)
コロレド大司教:山口祐一郎
レオポルト(モーツァルトの父):市村正親

料金:S席14,500円、A席9,500円、B席5,000円

問い合わせ: 東宝テレザーブ03-3201-7777

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山田治生
山田治生 音楽評論家

1964年京都市生まれ。1987年、慶應義塾大学経済学部卒業。1990年から音楽に関する執筆活動を行う。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人 -ある日本人指揮者の...

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