読みもの
2018.12.08
12月特集「クリスマス」 宗教音楽を知ろう!

にゃんぞう先生の クラシック入門(1)〜教会に響いた“音楽の起こり”

私たちが日頃親しんでいるクラシック音楽は、もともとはローマ・カトリック教会の音楽にその起源を持っています。クリスマスも近づき、教会音楽に触れる機会も多いこのシーズン、「クラシック音楽の起こり」に、思いを馳せてみまんか?

絵と文
飯田有抄
絵と文
飯田有抄 クラシック音楽ファシリテーター

1974年生まれ。東京藝術大学音楽学部楽理科卒業、同大学院修士課程修了。Maqcuqrie University(シドニー)通訳翻訳修士課程修了。2008年よりクラシ...

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登場猫

ニャルミさん
陽気な小学3年生。ピアノを習ってるから、クラシック音楽がちょっと好き。

 

にゃんぞう先生
ニャルミさんちの隣りに住むおじいさん猫。もと小学校の音楽の先生。人間年齢に換算すると64歳。

ニャルミ ジンゴッベー  ジンゴッベー すっずっがーなるー ♪

にゃんぞう先生 おや、ニャルミさん、楽しそうだね。クリスマスの飾り付け?

ニャルミ そーよ、にゃんぞう先生。ちょっと出遅れちゃったわよ。これから盛り上げていくわ、クリスマス!

にゃんぞう先生 ところでニャルミさん、今歌ってたのはクリスマス・ソングだね。

ニャルミ クリスマスって、イエスさまのお誕生日なんでしょ? お歌でハデにお祝いしなきゃネ! ニャルミね、キリスト教のこととかよくわかんないけど、クリスマスは大好きなの。「ジングル・ベル」とか「きよしこの夜」とかのお歌も大好き!

にゃんぞう先生 (テンケー的な日本の飼い猫だにゃ……)ニャルミさん、お歌は大昔、お祈りの言葉だったって、知ってる?

ニャルミ え? そうなの? おいのり? ことば? は?

にゃんぞう先生 クリスマス・ソングだけじゃなくて、僕たちがよく聴いているクラシック音楽も、ずーっともとをたどると、キリスト教の教会の中でとなえられていた、お祈りの言葉なんだ。

ニャルミ へ〜 お祈りの言葉…… ピンとくるようで、こないような。どゆこと?

にゃんぞう先生のおしえ

クラシック音楽の起源は、お祈り

きっと人類は大昔から“歌”を歌っていたんじゃないかなぁと先生は思うんだけど、西洋のクラシック音楽の起源と考えられているのは、ヨーロッパのキリスト教の修道士たちが、聖書の言葉、お祈りの言葉を、何度も何度も唱えるうちに、だんだんと歌のようになったものものなんだ。

だいたい3〜4世紀ころに、歌うようなお祈りが始まったと言われているよ。聖書やお祈りの言葉は、メロディがついた方が覚えやすいし、たくさんの人によって知られていくよね。歌うようなお祈りは、やがて「聖歌」と呼ばれるようになりました。

キリスト教のローマ・カトリック教会では、修道士さんたちが、早朝から夜まで、何度もお祈りを行うから(「聖務日課」といいます)、たくさんの聖歌が生まれたよ。でも当時は録音する機械がないし、まだ音を楽譜に書くということもされていなかったから、今となってはどんな響きだったのか、だれにもわからないんだ。

やがて8世紀の終わりころには、聖歌が紙に書き留められるようになっていたそうだよ。でも僕たちが今知っているような楽譜とはぜんぜん違う。文字(ラテン語)の上に、斜めの線や、横線や、アルファベットのJのような記号で、なんとなくふわっと書かれたものなんだ(最古のものは、スイス・のザンクト・ガレン修道院というところに残されています)。

これじゃあ、どんな音の高さだったか、正確にはわからないね。メモ程度のものだよね。でも、聖書の言葉、お祈りの内容のほうが、歌よりも大切だと考えられていたから、それで十分だったんだ。

グレゴリオ聖歌を聞いてみよう

ところで、聖歌はヨーロッパのあちこちでいろんな風に歌われていたから、それを統一させよう! という動きが起こりました。フランク王国のカール大帝という人が、ローマ教皇といっしょに整理してまとめました。まとめられた聖歌は、ローマ・カトリック教会のグレゴリウス1世の名にちなんで、「グレゴリオ聖歌」と呼ばれるようになったんだ。

750〜800年ころ成立したグレゴリオ聖歌は、もちろん今日も歌い継がれています。ところで、グレゴリオ聖歌のCDが大ヒットしたことがあるのを知ってるかな? 先生がまだ若かったころ、あれは20世紀の終わりですな、1993年10月に発売されたスペインのシロス修道院によるグレゴリオ聖歌のCDが、なぜか爆発的に話題となって、ヒットチャートに踊り出て25万枚を売り上げるという、異例な出来事が起こったのです。

じわじわと世紀末に近づいていた当時、人々がなんとなく抱えていた不安や疲れを、グレゴリオ聖歌は穏やかに慰めてくれたのかもしれないね。

ニャルミ それにしても、昔の楽譜って、なんだかミミズがはった跡みたいな模様だね。

にゃんぞう先生 ははは、そうだね。この記号はだんだんと文字のように整理されて「ネウマ記譜法」と呼ばれるようになります。

ニャルミ メモ程度っていうけど、音の高さがわからないのは、ちょっと不便ね。リズムは言葉に沿っているんだろうけど、よくわからないし。そう考えると、今ニャルミたちが見ている五線の楽譜って、よくできてるなぁ!

にゃんぞう先生 線が使われ始めたのは、西暦1000年以降になってからだから、割と最近だね。

ニャルミ 最近……か?

にゃんぞう先生のおしえ

記譜のおはなし

最初は「ド」や「ファ」の高さを示す2本線の間に、例のミミズの跡がニョロニョロと書かれたりしていました。もっと線が増えて、その間に音符を書くようになったのは、14〜15世紀。最初のころの音符は丸じゃなくて、四角かったんだよ。長さも色を白くしたり黒くしたりして……じわじわと何百年もかけて、今の楽譜に近づいたんだね。

最初のころの音符は丸ではなかった。よく見ると線もまだ4線です。

でもそうやって、しっかり書いておけると、音楽をもっと複雑に作り込めるようになったんだ。グレゴリオ聖歌を聴いて気づいたかもしれけれど、あれは一本のメロディーを、何人かの人たちで一緒にうたっているよね。でも、楽譜にしっかり書き留められるようなってくると、ある人はもうちょっと下で歌ったり、ある人は少しあとから歌ったり、ようは「ハモって」うたったり、輪唱するみたいに(「かえるの歌」でみんなも輪唱するよね?)メロディーとメロディーを重ねてみようとか、楽譜を書いたり見たりしながら、いろんなことができるようになったんだ。

複数の人が、ハモったりメロディーをずらして重ねたりする調べを、「多声音楽=ポリフォニー」と呼んでいます。ポリは複数、フォニーは響き・音のこと。ポリフォニーって、よくクラシック音楽について使われる言葉だから、知っておくといいかもね。

▼初期の多声音楽:ノートル・ダム楽派(フランス、12世紀末〜13世紀)。レオニヌス、ペロティヌスという人たちが作曲。

ニャルミ そっかー。楽譜に書ければ、場所や時代の違う人にも伝えやすくなるよね。

にゃんぞう先生 「作曲する」という意識が、だんだんと人々の中に芽生えて、教会の音楽はより複雑で豊かな響きを持つようになっていったんだよ。13世紀には「モテット」とか、「モテトゥス」と呼ばれるジャンルが生まれて(フランス語のmot「言葉」が語源)、古いグレゴリオ聖歌をベースにして新しいメロディや歌詞を重ねていくようになったんだ。

モテットは、僕たちが知っているクラシックの作曲家たちにも受け継がれたジャンルだね。たとえばJ.S.バッハの「主に向かって新しき歌を歌え」BWV225や、モーツァルトの「踊れ、喜べ、幸いなる魂よ」K.165などが有名です。

ニャルミ あ、だいぶクリスマスっぽい雰囲気になってきた!

にゃんぞう先生 そうかい? 次回は、もっとクリスマスらしく、教会音楽の種類をもう少しお話しようね。じゃ、先生はそろそろ眠くなってきたから。おやすみ……

ニャルミ はーい。先生ったら、いつもああやって突然音楽のことを語り出したと思ったら、眠っちゃうんだから。さ、ツリーの飾りつけはもう少し! がんばろ。

絵と文
飯田有抄
絵と文
飯田有抄 クラシック音楽ファシリテーター

1974年生まれ。東京藝術大学音楽学部楽理科卒業、同大学院修士課程修了。Maqcuqrie University(シドニー)通訳翻訳修士課程修了。2008年よりクラシ...

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