バッハ・コレギウム・ジャパン 鈴木優人インタビュー

鈴木優人さん教えて! 聖書入門

インタビュー
2019.04.21

「クリスマス」につづき「受難」と、宗教音楽について、バッハ・コレギウム・ジャパンの鈴木優人さんにお伺いしてきました。
でも宗教音楽って、聖書を読んだことがないといまいちとっつきづらい……。そこで、今回は基本に立ち返り、「聖書入門」! 西洋文化の根幹をなすキリスト教の世界へ、優人さんがナビゲートします。

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メインビジュアル:カラバッジョ(1517~1610)《キリストの捕縛》(1601年、アイルランド国立美術館蔵)
取材・文
山﨑隆一 ライター
山﨑隆一
取材・文
山﨑隆一 ライター
編集プロダクションで機関誌・広報誌等の企画・編集・ライティングを経てフリーに。 四十の手習いでギターを始め、5 年が経過。七十でのデビュー(?)を目指し猛特訓中。年に...

好みによっていろんな入り方ができる旧約聖書

――さて、ここから後半といいますか、《マタイ受難曲》をはじめ宗教音楽を楽しむには、やはり聖書の理解が必要ですよね?

優人 最初は音楽的な響きを楽しめれば、それでなんの問題もありません。それで、聴いているうちに、ふと気になることが出てきたら、関連する聖書の箇所をつまみ読みしていけばいいのかなと思います。ちなみに最初から全部読んでいく、いわゆる通読は、辛抱強い方にはお勧めですが、とっても大変です。私も過去に何回も挫折しました(笑)。

さておき、まったく聖書に触れたことがない人は、まずどこから入ればいいのか、その前にまず聖書を手に入れないと……となりますよね。最近は聖書アプリみたいなものも複数あるので、そこから入っていくのが気軽でいいと思います。

 

バッハ・コレギウム・ジャパンの鈴木優人さん(写真:各務あゆみ)

――おすすめのアプリはありますか?

優人 私もいくつか使っていますが、ひとつ挙げるとすればYouVersionという無料アプリがおすすめですね。いろんな翻訳が読めるので比較ができますし、何より検索ができるのがいいんです。例えば「受難」という言葉が聖書の中で何回出てくるのか、一瞬でわかる。実はただの1回しかないのですが! これは紙の聖書ではなかなかできないことですよね。

――便利ですね。これで聖書が手に入ったとして……たしかに最初はどこから読んだらいいのかわかりません。優人さんなりのおすすめを教えてください。

優人 まず、旧約聖書と新約聖書がありますよね。ざっくりですが説明すると、旧約聖書はイエス・キリスト誕生前のことが書かれていて、キリスト教信仰の基本となっている世界がどうやってできたか、そして人々が暮らしていくうえでのルール、古代ユダヤの歴史などが書かれています。後半になると詩や格言を集めたものが収められ、最後は預言書になっています。
対して新約聖書はキリストの生涯を扱う福音書と、ペテロやパウロといったイエスの後の人物が書いたとされる書簡集を中心にして成っています。

――旧約聖書にはいろんな読み物が入っていますね。

優人 そうですね。例えば歴史が好きな人だったら「歴代誌」とか「サムエル記」などから入ると興味深く読めると思います。物語が好きな人は「創世記」から読むといいかもしれません。また、法律系の本を読むのが好きな人は当時のさまざまな規定が記された「レビ記」とか「民数記」が面白いと思いますよ。

39冊の書物をまとめて「旧約聖書」。

――詩や格言にも興味があります。

優人 「詩編」や「箴言(しんげん)」には、今でいうツイッター的な、140字でグサッとくるようなことを教えてくれる魅力がありますね。何か指針を求めているときに読むと役に立つかもしれません。

あと、「雅歌(がか)」というものがあって、男女の恋の歌が集められているのですが、これはとてもセクシャルで、ここで口にするのもはばかられるような内容のことが結構書かれています(笑)。私は子どものころ、教会の長~い説教にの間にこっそりこの「雅歌」とか読んで楽しんでました(笑)。
《マタイ受難曲》の冒頭は「娘たちよ、嘆きましょう」と始まりますが、「見よ」「誰を?」と交互に歌い交わすところには雅歌的な発想が多分に入っていると思います。

他にも美しい王妃の物語「エステル記」とか、大きな魚に食べられちゃってお腹の中で過ごす「ヨナ書」など面白い話がたくさんあります。

《マタイ受難曲》第1曲(合唱)

宗教音楽は作曲家の創造力が勝負

カラバッジョ(1517~1610)《キリストの捕縛》(1601年、アイルランド国立美術館蔵)
ユダの裏切りによってキリストが捕縛される場面。この後、イエス・キリストは裁判にかけられ、十字架にかけられる。

――《マタイ受難曲》は新約聖書の「マタイによる福音書」に基づいているのですね。

優人 はい。その受難について書かれた部分がまるまる用いられています。新約聖書にはキリストの生涯や活動について書かれた福音書がマタイのほかにマルコ、ルカ、ヨハネと計4つ収められていて、その中でマタイ、マルコ、ルカの3つは共観福音書と呼ばれ、成立年代はそれぞれ異なりますが、ほぼ同じような内容のことが書かれています。キリストのストーリーを手っ取り早く知りたいという人は、いちばん短いマルコから読むといいと思います。クリスマスについて知りたい人はルカがいいでしょう。

対して「はじめに言葉があった」と始まるヨハネは、ロゴス(言葉、概念などの意)という観点からキリストのストーリーを意味深に語っていきます。バッハは《ヨハネ受難曲》も作っていますが、マタイとは全然違う。論理的に攻めるというか、鏡のようにシンメトリカルな構造にして緊迫感を生んでいる。それはもとにしている本の内容が違うからですよね。

 

新約聖書は27冊の書物からなる。

――新約聖書には、あと「使徒言行録(しとげんこうろく)」、書簡、そして黙示録が入っています。

優人 「使途言行録」というのはイエス亡きあとに、キリスト教を使徒がどう広めていったか、その旅路が書かれています。4つの福音書とこの使徒言行録、この5冊がイエスの生涯と初期キリスト教会の流れを知る基本です。手紙はペテロやパウロが各地の教会や使徒にに書いたもの。これは難解なところもありますが、よく読むと結構いい話というか、1日を生きていくうえでのヒントのようなものが書かれていますね。

さて、最後の黙示録は預言書のようなものなのですが、暗示に満ちていて何が書かれているのか全然わからない。「666」という数字が出てくることでも知られていますが、とにかく謎が謎を呼ぶような内容です。はっきりとしない話を読みたいときにはおすすめですね(笑)。

実は黙示録は私にとって創作活動の大きなテーマで、これを歌詞にして曲を作っているんです。これまでに5曲、作りました。言葉の内容はよくわからないけれど、そのぶん音楽的なイマジネーションを掻き立てられるんですよね。

――作曲家という立場から見て、宗教音楽の魅力とは何でしょう?

優人 まず歌詞は揺るぎないものだから、基本的に変えられない。バッハの時代になると聖書の言葉に加えて自由詩を挿入していますが、根本は変えられないわけです。だけどそのぶん作曲家はより強く曲に集中でき、創造力が発揮されるんじゃないかと思います。ミサ曲なども同じで、典礼文という変えられない歌詞に曲でどれだけ変化をつけられるか、その腕試し的なところがありますよね。聴くほうもそうしたところに着目してみると面白い発見があるかもしれませんよ。それで宗教音楽により興味を持ったら、ぜひ聖書にもチャレンジしてみてください。

公演情報
受難節コンサート2019 マタイ受難曲(1)

日時 2019年 4月19日(聖金曜日)18:00開場/18:30開演
会場 東京オペラシティ コンサートホール タケミツ メモリアル

指揮:鈴木 雅明
エヴァンゲリスト(テノール): 櫻田 亮
ソプラノ: キャロリン・サンプソン、松井 亜希
アルト: ダミアン・ギヨン、クリント・ファン・デア・リンデ
テノール:ザッカリー・ワイルダー
バス: クリスティアン・イムラー、加耒 徹
合唱・管弦楽:バッハ・コレギウム・ジャパン

チケット料金
S ¥10,000/Sペア ¥19,000(BCJチケットセンターのみ取り扱い)/A ¥8,000/B ¥6,500/C ¥5,000/J ¥3,000/U25 ¥3,000

受難節コンサート2019 マタイ受難曲(2)

日時 2019年 4月21日(日・復活祭)15:30開場/16:00開演
会場 東京オペラシティ コンサートホール タケミツ メモリアル

指揮:鈴木 雅明
エヴァンゲリスト(テノール): 櫻田 亮
ソプラノ: キャロリン・サンプソン、松井 亜希
アルト: ダミアン・ギヨン、クリント・ファン・デア・リンデ
テノール:ザッカリー・ワイルダー
バス: クリスティアン・イムラー、加耒 徹
合唱・管弦楽:バッハ・コレギウム・ジャパン

チケット料金
S ¥10,000/Sペア ¥19,000(BCJチケットセンターのみ取り扱い)/A ¥8,000/B ¥6,500/C ¥5,000/J ¥3,000/U25 ¥3,000

お申し込み・お問い合わせ
バッハ・コレギウム・ジャパン チケットセンター
TEL 03-5301-0950 (平日10:00~18:00受付)
http://bachcollegiumjapan.org/

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