読みもの
2021.03.14
にゃんぞう先生のクラシック入門 音楽史編・その1

バロックは「ゆがんだ真珠」!? バッハだけじゃない、バロック音楽の真髄とは?

バッハ練習中のニャルミちゃんの頭の中は、ある疑問でいっぱい。「バロックってなぁに? なんで“ゆがんだ真珠”という意味なの?」元音楽の先生、ベテラン物知り猫のにゃんぞう先生と一緒に、バロック音楽について理解を深めよう!

絵と文
飯田有抄
絵と文
飯田有抄 クラシック音楽ファシリテーター

1974年生まれ。東京藝術大学音楽学部楽理科卒業、同大学院修士課程修了。Maqcuqrie University(シドニー)通訳翻訳修士課程修了。2008年よりクラシ...

イラスト:飯田有抄

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登場猫

ニャルミさん
陽気な小学3年生。ピアノを習ってるから、クラシック音楽がちょっと好き。

 

にゃんぞう先生
ニャルミさんちの隣りに住むおじいさん猫。もと小学校の音楽の先生。人間年齢に換算すると64歳。

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「ゆがんだ真珠」に困惑するニャルミちゃん

ニャルミ にゃんぞう先生こんにちはー!

にゃんぞう先生 やぁニャルミさん、ひさしぶりだねぇ。音楽のお話がしたくなったのかい?

ニャルミ うん、あのね、ニャルミ、ONTOMOとか読んでるし、ピアノ習ってるし、けっこうクラシック好きなんだけどね、最近ちょっと混乱してる。

にゃんぞう先生 どうしたんじゃ?

ニャルミ いまね、ピアノでお稽古してる曲がバッハっていう人のやつなんだけど、インベンションとかっていったかな……。でね、ピアノの先生が、この曲は「バロック時代の曲です」って言うの。

にゃんぞう先生 そうじゃの。ヨハン・ゼバスチャン・バッハ(1685〜1750)はバロック時代の大作曲家じゃ。

ヨハン・ゼバスチャン・バッハ(1685〜1750)

ニャルミ でもさ、「バロックってどういう意味ですか?」ってきいたら、先生が「ゆがんだ真珠よ」って。ゆがんでるの!? 真珠が!? まさか! って。だって、バッハってけっこうかっこいいじゃん。いい曲じゃん。それを「ゆがんだ真珠」だなんて、ひどくない?

にゃんぞう先生 にゃるほど。たしかに、バッハの曲を聴いて、へんな形になった真珠を想像するネコはおらんじゃろうなぁ。

ニャルミ でっしょう!? バッハのどこが「バロック」なのよ!

にゃんぞう先生 ふふふ。ニャルミさん、いい機会だから、「バロック音楽」ってどういう音楽なのか、考えてみよう。

よく、バッハこそがバロック音楽の代名詞、みたいに言われてる。もちろんバッハは偉大な音楽家だけど、でも本当は、バロック時代でも終わりのほうに現れた人なんじゃ。ドイツでね。でも実は、バロック音楽はイタリアから大きく花開いたのじゃ。

ニャルミ えーーー! そうなの?!

にゃんぞう先生のおしえ〜バロックとは?

まず、大雑把に音楽の歴史を考えるとき、こんなふうに時代様式の4つのハコで捉えることができます。バロック時代は、中世・ルネサンス期に続く時代です。

たしかに「バロック」とは、「いびつな真珠」と訳される言葉で、もともとは美術用語です。「いびつ」というからには、洗練されたスタイリッシュな感じではありません。ちょっと大げさでダイナミックな感じ。

もともと美術用語だけに、絵画で見るとわかりやすい。まず、イタリア・ルネサンス期を代表する画家アンドレア・マンテーニャ(1431~1506)の《宮廷》という絵を見てみよう。

アンドレア・マンテーニャ《宮廷》(1474年)
イタリアの名門貴族、ルドヴィーコ3世ゴンザーガとその家族が描かれている。

人物たちはみんな一様にシュッとしていて、無表情にも見える。冷静な均整美を感じます。みんなツーン……としていて、だれも騒いだりしていない感じ。

 いっぽうこちらは、バロック時代を代表するフランドルの画家、ルーベンス(1577~1640)の《キリスト昇架》です。

ピーテル・パウル・ルーベンス《キリスト昇架》(1610~11年)
オランダのアントウェルペンにある聖母教会所蔵。
三連祭壇画で、こちらは中央のキリストが打ちつけられた十字架が立てられようとしている場面。

「おりゃ〜」「ぐおおお……」という男たちの声が聞こえ、汗のにおいも漂ってきそう。

とても生々しくて、立体的で、人々の動きが感じ取れる躍動感があります。キリストの苦しそうな表情とか、人間の必死な形相もしっかり描かれています。そして、明暗のコントラストがはっきりしている。

この、ちょっと、ゴテゴテっとした動きのある感じ、これがまさに「バロック」。宗教改革を経て、国王が絶大な権力を振るう絶対王政時代に興った、とても大胆な芸術様式なのです。美術のみならず、建築や彫刻や文学や音楽にも、そのエネルギーは広がっていきました。

さて、現代のわたしたちの耳からすると、バロック時代の音楽は気品があるように聴こえるかもしれません。でも、当時の人たちからすれば、それ以前のルネサンス期の音楽に比べると、すごくメリハリの効いた、ハデめな音楽だったのです。

バロック以前=ルネサンス期の多声音楽

ここでルネサンス期の音楽を聴いてみましょう。有名なギヨーム・デュファイ(1397〜1474)、ジョスカン・デ・プレ(1455頃〜1521)、ジョヴァンニ・ピエルルイジ・ダ・パレストリーナ(1525/26〜1594)いうルネサンス期の音楽家たちによるミサ曲です。(ミサ曲については「にゃんぞう先生のクラシック入門(2)を読んでね!)

とってもスーッと響いて綺麗。でも、「ちょっと何言ってるかわかんないです」ってなるくらい、何人かの歌うメロディがたくさん重なっていたり、どの言葉も長く引き伸ばされています。

これがルネサンスの音楽。各声部がそれぞれ冷静に動いていて、全体は均整の取れた美しさ。誰かひとりだけがすご〜く情熱的に歌い上げる、なんてことはありません。

こういうルネサンス時代の多声音楽(ポリフォニー)に対して、1600年頃からのバロック時代には、主要なメロディや言葉がもっとはっきりと歌われる音楽が登場し、それがオペラへと発展していきました。

さらには、コントラストのついた華やかな響きの器楽曲が誕生したのです。

これぞバロック! その1〜モンテヴェルディによる最初のオペラ《オルフェオ》

では、実際に聴いてみましょう! まずは、オペラの出発点と言われる作品で、イタリアの作曲家クラウディオ・モンテヴェルディ(1567〜1643)が作った《オルフェオ》です(1607年初演)

クラウディオ・モンテヴェルディ(1567〜1643)

死んだ妻エウリディーチェを取り戻そうと、黄泉の国に行ってしまう男オルフェオの物語。歌手の歌う言葉が、ルネサンス期の音楽よりも明らかに聴き取りやすい。メリハリの効いた音楽表現も華やかです。イタリア語がわからなくても、聴いていると情景が浮かんできそうなくらい、生き生きと美しい音楽が続いていきますね。

歌手の歌うメロディには、楽器による伴奏も一緒に響いています。この伴奏は通奏低音と呼ばれ、これがまたバロック音楽の大きな特徴となっていきます。おもにチェンバロや弦楽器が担当し、低い音域から音楽全体を支えます。

モンテヴェルディには、ほかにも《ウリッセの帰郷》や《ポッペアの戴冠》というオペラがあるので、気になったら要チェック!

これぞバロック! その2〜コントラストの効いた器楽曲

最初のオペラ《オルフェオ》には、実は現代のオーケストラの起源ともいえる器楽の合奏が活躍しました。使われていたのは、チェンバロやヴィオラ・ダ・ガンバ、リコーダー、小型ヴァイオリン、キタローネ(リュートの仲間)といった当時の楽器で、どの楽器をどの場面で使うかをしっかり指定したのも、モンテヴェルディが行なった新しい試みでした(つまりそれ以前の音楽は、どんな楽器をどこに使うかは自由で、決められていなかったのです)。

劇の場面を効果的に表現する器楽アンサンブルは、そこだけがやがて独立し、さらに多くの楽器が加わるようになって、現代のオーケストラへと発展してゆくのです。

では次に、バロック音楽の代表的な器楽作品を聴きましょう。

まずは、ローマで活躍したアルカンジェロ・コレッリ(1653〜1713)。彼は、合奏協奏曲とよばれる器楽曲のジャンルに名作を残しました。

アルカンジェロ・コレッリ(1653〜1713)

「協奏曲」というと、現代ではピアノ協奏曲やヴァイオリン協奏曲などのように、独奏者とオーケストラの編成をイメージするかもしれませんが、合奏協奏曲は、独奏する楽器は複数あり(「コンチェルティーノ」と呼ばれる独奏楽器群)、それが「リピエーノ」と呼ばれるオーケストラと掛け合いながら、立体的な音響を作り上げていきます。

コレッリ:合奏協奏曲集 作品6 第1番より

この曲集の第8番は《クリスマス協奏曲》と呼ばれる有名曲です。気になったらこちらもチェック!

続いては、アントニオ・ヴィヴァルディ(1678~1741)

アントニオ・ヴィヴァルディ(1678~1741)

ヴェネツィアで活躍し、ヴァイオリンの名手でもあった彼は、有名な《四季》をはじめとする多くの独奏協奏曲を作りました。そう、現在もイメージされる協奏曲のスタイルを確立したのは、ヴィヴァルディと言っても過言ではありませぬ。

ヴィヴァルディ:ヴァイオリン協奏曲 ロ短調RV389 より第1、2楽章

学校の教科書にも載っていた《四季》も、気になったらチェック!

にゃんぞう先生 どうだいニャルミさん、「バロック」といっても、もちろんバッハだけではないし、その前のルネサンスの時代の音楽と比較すると、なぜ「バロック」と言われるようになったか、わかったかにゃ?

ニャルミ そうね! その前の時代の音楽より、生き生きしてて、ハデな感じ、わかった気がした。コレルリとかヴィヴァルディもかっこいいね。むしろ「バロック」っていうか、ロックな感じすらする!

にゃんぞう先生 お、うまいこと言うのぉ。

ところで、ニャルミさんがいまピアノのレッスンでお稽古しているバッハは、さっきも言ったとおり、バロック時代の後半にドイツで活躍した音楽家だ。

バッハは、プロテスタントの教会に雇われていた音楽家で、毎日のように礼拝に集まる人々のために、たくさんの教会音楽を作ったんだ。なかでも、「教会カンタータ」と呼ばれる、歌と器楽で演奏される音楽は、イタリアのオペラの影響を受けて発展したんだよ。バッハは一時期、毎週のようにカンタータを作曲していたんだ。

バッハのカンタータのなかでももっとも有名な第147番「心と口と行いと生活で」

ニャルミさんが弾いている「2声のインヴェンション」という曲集は、バッハが自分の息子の教育用に作った曲なんだよ。当時はピアノじゃなくて、チェンバロで演奏されていたけどね。

インヴェンションには「着想」という意味があって、音楽を作ったり演奏する上での着想、いいアイディアが持てるように、バッハが手ほどきしてくれているんだね。

2声のインヴェンション

ニャルミ な〜るほど、バッハ先生が作ってくれた教科書なんだね! バロックのかっこいい感じで弾けるようになりたいな!

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飯田有抄
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飯田有抄 クラシック音楽ファシリテーター

1974年生まれ。東京藝術大学音楽学部楽理科卒業、同大学院修士課程修了。Maqcuqrie University(シドニー)通訳翻訳修士課程修了。2008年よりクラシ...

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