英国ミュージカルの父による『オリバー!』~誰でも口ずさめるナンバーで大ヒット!
音楽の観点からミュージカルの魅力に迫る連載「音楽ファンのためのミュージカル教室」。
第20回は、ミュージカル『オリバー!』の上演史と聴きどころを解説! 子役が重要な役割を担い、誰でも口ずさめるナンバーが魅力の作品です。11月7日まで東急シアターオーブで上演中(大阪公演は12月4日~14日)。
1964年京都市生まれ。1987年、慶應義塾大学経済学部卒業。1990年から音楽に関する執筆活動を行う。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人 -ある日本人指揮者の...
現代英国ミュージカルの父、ライオネル・バートが脚本・作詞・作曲を手掛ける
現在、渋谷の東急シアターオーブで上演中の『オリバー!』は、チャールズ・ディケンズの小説『オリバー・ツイスト』(1838年)を原作とするミュージカルである。19世紀前半イギリスでの階級社会の問題が孤児オリバー・ツイストを通して描かれる。
本作の脚本・作詞・作曲を手掛けたのはライオネル・バート。彼は、1930年、ロンドン生まれ。ソング・ライターとしてキャリアを始め、1959年に初めてのミュージカル『ロック・アップ・ユア・ドーターズ』を書き上げた。そして、1960年に『オリバー!』を発表。その後、映画『007ロシアより愛をこめて』の主題歌をヒットさせている。1999年に68歳で亡くなった。
『オリバー!』は、1960年にロンドンのウィンブルドン劇場で初演され、それまでのウエストエンドでのミュージカルのロングラン記録を塗り替えるほどの大ヒットとなった。1963年にはブロードウェイのインペリアル劇場で開幕。そして、当時の英国ミュージカルのブロードウェイでのロングラン記録も更新するほどの成功を収めた。
つまり、『オリバー!』は、のちの『エビータ』、『キャッツ』、『オペラ座の怪人』、『レ・ミゼラブル』など、ロンドン発のミュージカルの先駆けとなり、アンドルー・ロイド・ウェッバーは、ライオネル・バートを「現代英国ミュージカルの父」と評している。
名プロデューサーの手で31年ぶりに日本で上演
1968年には、ミュージカル映画『オリバー!』がキャロル・リード監督で制作された。フェイギン役を、ロンドン初演と同じ、ロン・ムーディが演じた。
1977年には、まだ31歳だったキャメロン・マッキントッシュがロンドンでの再演をプロデュース。マッキントッシュは、13歳のとき、『オリバー!』のオリジナル・プロダクションに感銘を受けていたのであった。マッキントッシュが、その後、『キャッツ』、『オペラ座の怪人』、『レ・ミゼラブル』、『ミス・サイゴン』などを手掛ける大物プロデューサーになるのは周知の通り。
日本では、1968年にイギリスからカンパニーが来日し、帝国劇場で初演された(もちろん、英語上演)。1980年に劇団四季が上演。1990年にマッキントッシュのプロデュース版が日本人キャストによって帝国劇場で上演されている。
今回の東急シアターオーブと梅田芸術劇場メインホールでの上演は、マッキントッシュによる新制作。演出はジャン・ピエール・ヴァン・ダー・スプイ。共同演出・振付はマシュー・ボーン。本作の日本での上演は31年振りであった。
ミュージカル『オリバー!』2021のPV
あらすじと聴きどころ
第1幕
舞台は19世紀前半の英国。ある救貧院で子どもたちが食堂に向かうが、食べさせてもらえるのはお粥のみ。オリバー・ツイスト少年は、「お代わりをください」と言ったために、役人ミスター・バンブルと婦長のミセス・コーニーの怒りを買い、追い出され、葬儀屋に売られてしまう。
一人になったオリバーは、会ったことのない亡き母親を思い、「愛はどこに?」(Where Is Love ?)を歌う。このナンバーでは、オリバーが愛を求め続けるという本作のテーマが描かれている。そして、オリバーは葬儀屋から逃げ出す。
『オリバー!』より「愛はどこに?」
1週間後、ロンドンの街角。人でごった返している。そこで、オリバーは、少し年上のアートフル・ドジャーと出会う。ドジャーはオリバーに親切にし、みんな仲間でみんな家族だと「信じてみなよ」(Consider Yourself)と歌う。友人を元気づけるナンバー。日本語にも訳されて、「オリバーのマーチ」として現代に至るまで広く歌われ続けている。
そして、オリバーはドジャーに、みんなの世話をしてくれる“立派な紳士”フェイギンのもとに案内される。フェイギンは、実は、子どもたちを使ったスリ集団の親玉だった。フェイギンは「ポケットからチョチョイと」(Pick A Pocket Or Two)というユーモラスで自虐的なナンバーを歌って、金持ちからのスリをすすめる。
『オリバー!』より「信じてみなよ」、「ポケットからチョチョイと」
ナンシーは、フェイギンのスリ集団出身だが、心優しいお姉さん。自分は貧乏だけどいい人生だと、明るく逞しく「これが人生」(It’s A Fine Life)を歌う。同じ一味出身者のビル・サイクスは悪い男になっていた。
スリ集団の子どもたちが街に出て、オリバーもドジャーらについて行く。ドジャーがオリバーに見本を見せて「何でもやるよ」(I‘d Do Anything)と歌う。子どもたちとナンシーやフェイギンも楽し気に歌に加わる。そして、ドジャーがミスター・ブラウンロウの財布をするが、逃げ遅れたオリバーが警察に捕まってしまう。
『オリバー!』より「これが人生」、「何でもやるよ」
第2幕
第2幕は、ナンシーが酒場で歌う、明るく賑やかなナンバー「ウンパッパ」(Oom-Pah-Pah)で始まる。サイクスは、オリバーの口からスリ集団の存在を知られるのを恐れている。一方、オリバーはミスター・ブラウンロウによって釈放され、彼の館に引き取られていた。サイクスは、館から外出していたオリバーを連れ去る。
『オリバー!』より「ウンパッパ」
サイクスが悪事を働いているのを知りながら、愛しているゆえに彼に従うナンシーは、「彼に必要とされる限り」(As Long as He Needs Me)を歌う。本作のなかで最もドラマティックで感動的なバラード。単独でも歌われることのあるナンバーだ。フェイギンは、自分の人生を振り返り、行く先を考え、「最初から考え直そう」(Reviewing the Situation)という哀愁を帯びた長大なナンバーを歌う。
『オリバー!』より「彼に必要とされる限り」、「最初から考え直そう」
オリバーをサイクスから助けてやらなければならないと思うナンシー。そして……。
子役が歌う親しみやすいナンバーで大ヒット
本作の一番の特徴として、オリバーやドジャーという子役に重要なナンバーが割り当てられていることがあげられよう。それゆえに、誰にでも口ずさめる歌がミュージカルの大ヒットにつながった。社会の底辺で犯罪に手を出しながら貧しくも明るく生きていく子どもたちとそれを取り巻く大人たちの悲哀、自虐、滑稽さ。まさに子どもから大人まで楽しめ、考えさせられるミュージカルである。
今回のプロダクションでは、フェイギンを市村正親と武田真治が、ナンシーを濱田めぐみとソニンが、ビル・サイクスをspiと原慎一郎が、ダブルキャストで演じている。オリバーは、エバンズ隼仁、越永健太郎、小林佑玖、高畑遼大の4人が、アートフル・ドジャーは、大矢臣、川口調、酒井禅功、佐野航太郎の4人が、担う。
筆者の観た10月12日の昼の公演では、エバンズ隼仁が繊細なオリバーを、佐野航太郎が元気な兄貴分ドジャーを、好演。72歳になったという市川正親は味わい深い演技と存在感を示し、ナンシー役の濱田めぐみが圧倒的な歌唱を披露した。
日時: 2021年10月7日(木)~11月7日(日)、12月4日(土)~14日(火)大阪公演
会場: 東急シアターオーブ
原作: チャールズ・ディケンズ
劇作・脚本・作詞・作曲: ライオネル・バート
出演: 市村正親、濱田めぐみ、原慎一郎、小浦一優、鈴木ほのか、鈴木壮麻、北村岳子、小野寺昭、ほか
問い合わせ: ホリプロチケットセンター03-3490-4949(11:00~18:00/土日祝休)
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