2005年ショパンコンクールで兄弟同率3位の快挙!弟イム・ドンヒョクさんの久々の新譜
大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動...
昨年のショパン国際ピアノコンクールが注目されて、その後いろいろと記事を書く中で、はじめて自分が同コンクールを取材に行った2005年の資料を見返す機会がたびたびありました。その時の優勝者は、ラファウ・ブレハッチさん。ツィメルマンさん以来30年ぶりのポーランド人の優勝ということで、地元の聴衆は多いに盛り上がったものです。
この回で第2位なしの第3位となったのが、韓国のイム・ドンミンさん、そして弟のイム・ドンヒョクさんでした。兄弟で出場、さらには上位に同位入賞。改めて考えると、すごい結果です。
二人は韓国に生まれ、兄と弟がそれぞれ14歳、10歳のとき、彼らのピアノの勉強のため家族でモスクワに移住、中央音楽学校とモスクワ音楽院で学びました。兄弟は音楽性もキャラクターもだいぶ違いますが、それぞれにとても魅力的なピアニストです。
主人公の一ノ瀬海がショパンコンクールに挑戦するストーリーで話題となった、一色まことさんの漫画『ピアノの森』には、韓国のアン兄弟というキャラクター(漫画の設定は双子)が出てきますが、これは見た目からも、間違いなくイム兄弟がモデルだと思われます(実際一色さんは、2005年のコンクールの現地取材にいらしていた)。アン弟の勝ち気でちょっと生意気、でも憎めない、みたいな性格も、現実のイム弟を彷彿とさせます。
ところでコンクール直後に行ったイム兄のほうのインタビューに、こんな一言が。
「弟のほうがキャリアも才能もある。僕だってもちろん悪くないとは思うけど。でもショパンコンクールでは、弟にもっと上にいってほしかった」
お兄ちゃん! そんなせつないことを語っていたんだ……。(でもこのお兄ちゃんもただ優しいだけじゃなく、充分変わり者のおもしろキャラです。)
さて、かなり前置きが長くなりましたが、今回のコラムは、そんなイム弟、イム・ドンヒョクさんの新譜のお話です。ソロアルバムとしては実に7年ぶり!
その録音に選んだレパートリーは、31歳で没したシューベルトが死の年に書いた、最後の2つのピアノ・ソナタ。
ドンヒョクさんのピアノの最大の魅力は、まず何よりその天性の音の美しさ。みずみずしく輝きがある。今回の録音でもそれは健在で、さらに彼も歳を重ねての変化もあるのでしょうか、シューベルトの心に寄り添うように、美しいメロディーを優しく繊細に歌ってくれています。さらにときどき可愛らしさも垣間見られる。
この方の音の哀愁漂うキラキラ感はやっぱりすごい。ずっと聴いていても耳と心にやさしい音楽が流れます。
最後の正式な来日リサイタルは、もう10年前でしょうか。またあの音を生で聴きたい! それまでは、こちらのアルバムを聴いていようと思います。
イム・ドンビョク(p)
[Warner Classics 9029631946](海外盤)
関連する記事
ランキング
- Daily
- Monthly
関連する記事
ランキング
- Daily
- Monthly